拝啓、三蔵殿。すっかりお忘れの事と存じますが、私は欲求不満です。
あの日三蔵への恋を自覚してからというもの、ジープの後ろで三蔵のうなじを見る度に鼻血が出そうになるのを堪え、食事で隣になる度に筋張った腕や手の甲に触れたくなる衝動を抑え、誦経の度に悶え苦しみ、引き続き禁欲生活を続けること早二ヶ月。
大部屋、野宿、三人部屋、野宿、間借り、三人部屋、三人部屋、間借り、野宿……
さすがにそろそろ良いんじゃないですか? と神に個室の空室を願い始めていた。
そして今日。
いよいよお待ちかねの個室での宿泊が決まったのだ。おめでとう私。ありがとう神様。
「解散」
「それじゃ、また明日」
「おう、またな」
「おやすみ!」
「おやすみ」
……おかしいな?
当然のように部屋は五つ確保され、夕食を摂った後には一斉解散となり、ロビーには私ひとりが残された。
あれあれ、三蔵は私と一緒じゃないの?
三蔵も欲求不満じゃないんですか?
おかしいな?
数々の疑問を感じながら、仕方なく私も部屋に戻り考える。
過去のパターンを鑑みるに、みんなが寝静まった頃、忍び込んできてくれるに違いない。きっとそうだ。
それなら準備万端にしておく他あるまい。
……で、念入りにシャワーを浴びたわけだけど、どうにもこうにもソワソワしてしまって落ち着かない。
部屋をうろうろ、立ったり座ったり、無駄に繰り返すうちに深夜1時である。バカでもわかる、さすがにもう来ない。だけど私は諦めない。三蔵が来ないなら、私が行けばいい。
三蔵の部屋の扉に手をかけると、不用心にも鍵が空いていた。そっと侵入して内側から鍵をかける。これで安心だ。
足音立てないようにゆっくりベッドの方に進むと、照明をつけたまま爆睡する三蔵の姿があった。
「三蔵」
小声で呼びかけても起きる気配ひとつない。
確かにこの頃は野宿続きに相部屋間借りの連続で安眠とは程遠い毎日だった。こうして爆睡してしまう気持ちもわかる。起こすのはさすがに忍びなくて、そのまま隣に横たわった。
三蔵の方を向いて深呼吸すると、あのいい香りが肺いっぱいに広がる。白檀の香りというらしい。
あと五分。それで部屋に戻ろう。
…………五分だ。
パチリと目を開くと、首元に違和感を覚える。
「三蔵?」
「起きたか?」
「寝てた?」
「ぐっすり」
そんなはずは。部屋の壁掛け時計を見ると確かに30分は寝ていたらしい。なんてこった。
……でも、三蔵はこうして起きたわけだし、結果オーライと言うやつだろうか。
私の上に乗って首元にキスする三蔵を抱きしめる。実は私から抱きしめることは初めてで、薄手のインナー越しに触れた三蔵は思いのほか幅が広く筋肉質だった。
「すき」
「おい離せ」
「やだ」
誰が離すものか。あわよくばを狙ってきたというのに。追い帰されたくない。
「離せ、脱がせねぇだろ。つーかお前半分妖怪ってこと忘れんじゃねぇぞ……」
「あ、ごめん」
滾る気持ちが抑えきれず、ついつい本気で力を込めていた。チップを外してからというもの、どうにも自分の力がコントロールしづらくて未だに慣れない。よく考えたら急に爆発したように湧いてきた性欲もこのせいじゃないのか。
ていうか今、脱がすとか言いませんでしたか?
嬉しい、と思ったのも束の間、タンクトップの裾から三蔵の手が潜り込んできた。
「よかった」
「は?」
「一応僧侶だしなんにもしなかったらどうしようかと」
「キスが良くてセックスが駄目になる理由がわからん」
本来どっちもダメなんじゃないんですかね。
もぞもぞと上ってくる手が布を押し上げてセクシーとは程遠い下着が現れた。利便性を重視したばっかりにノンワイヤーだわ気持ち程度のパットだわ、いわゆるスポーツブラというやつである。しかもグレー。家に居たら絶対に装着しない。でもこれしか持ってない。
「かわいくなくてごめん」
「なんだっていい」
緩めた腕の中で三蔵が顔を上げてブラを確認し、まるで興味無さそうにそう吐き捨てると、私の顔を見て思い出したようにキスをする。
「普通キスが先じゃない?」
「寝てる時にした」
「起きてる時にしてよ」
「今してんだろーが、黙れよ、歯ぁ当たってんだよ」
恐ろしくムードがない。照明も全開だし。それなのに三蔵はなんの躊躇いもなくブラを押し上げ、あらわになった先端を指先で摘む。
そんな所を人に触れられるのは随分久しぶりで、すぐに感度が研ぎ澄まされていくのがわかった。
「っふ、ん」
「嫌な事も良い事も全部言えよ」
「ん、うん」
恐る恐る「電気消して」と言ってみると、それ消したっていうの? というレベルで薄明かりにしてくれた。聞く気はあるらしいが、自分の要求もだいぶ上乗せしてくるつもりのようだ。
いくら処女ではないとは言え、それでもやっぱり初めてベッドを共にする時は恥じらいのひとつやふたつ感じてしまうものなのに。
「明るいのは嫌って意味なんだけど」
「恥ずかしいだけじゃないのか?」
「えっ、それ、っん、区別するの」
三蔵の唇が耳元に触れ、形を確かめるようにその輪郭を這う。低音の声はよく響いてこそばゆい。それに、そんな責めるみたいな口調、どう考えたって反則だ。
うまく答えられないでいると、更に責めたてるように舌が蠢いて水音が聴覚を刺激する。
「ん、恥ずかしい」
「嫌じゃないならこれでいだろ」
ああ聞けば私がこう答えるとわかった上であんな質問をしたのだ。予想以上に攻めの姿勢でことを進める三蔵の態度が興奮を加速させた。
下降してゆく三蔵の唇が乳房の頂を啄み、時折引っ掻くように歯先が掠める。反対側も指先で転がされ、摘まれ、撫でられ、焦れったさで無意識に胸を突き出してしまう。こんな姿勢のせいで、余計に敏感になっている気がする。
「ね、っん、恥ずかしい、そこばっか」
「ん」
胸元からこちらに視線を送る三蔵はいつになく優しげで、胸の底が熱くなる。
三蔵の空いた手が腹部を通ってパンツとショーツの間に忍び込んだ。ゴムウエストのパンツは膝まで落ち、膝の間に三蔵が割り込んだ勢いであっという間にショーツ姿になってしまった。
思えば悟浄や八戒の前でTシャツパンイチなんてそこまで恥じらいもなくしていたこともあった。それに比べて今の羞恥心の煽られ方ときたらどうしたものか。
それもこれもいい声のくせに耳元で囁いたり、やたら舌使いが巧かったりする三蔵のせいだ。
「やっ、だ、あっ、あ」
「んん」
吸って、舐めて、撫でて、引っ掻いて。
巧みな緩急は私の快楽を後押しする。
「あ、なんっ、で、……っく!」
素早く弾くように蠢く舌と指先に責め立てられ、胸だけで果ててしまった。嘘でしょ。
乱れる呼吸が嘘ではないと証明しているのに、信じられない。
「ねぇ、なんで、イっちゃった……」
「欲求不満なんだろ」
本当にそれだけが理由?
絶対に違う。
ようやく離れた綺麗な顔は満足そうにしていた。指先は下腹部を通り、薄い布越しに待ち望んだ場所に触れる。
皮膚の上を布が滑る感触が溢れ出す潤いを知らせた。
「やだ、恥ずかしい」
「そればっかりじゃねーか」
三蔵の視線がそこを捉えたと思えば、急に両太ももの下に折りたたまれた三蔵の足が潜り込み、今度は腰を突き出すような姿勢にさせられる。
なんでこんな恥ずかしい格好……
「地味色の下着も悪くねぇな」
「は?」
急に下着について言及した三蔵を不思議に思って視線をやると、よく見えないながらもそこが水分で変色している事に気づいた。
自覚している濡れ具合を考えれば、三蔵から見える様子は余程淫猥であろう事は私でもわかる。
おおよそベッドの上でできる程度のセックスなら大抵は恥じらいなどスパイスのようなものだと思っていたのに、今の私はとても異常なもののように感じて身震いした。カアッと湧き上がる羞恥心で耳まで熱い。
「ちょ、っと」
親指が窪みにピッタリとはまる。指先だけがクリトリスに当たって腰が浮ついた。
「あ、ん!」
大きな声が出てしまった。
ハッとして口を押さえる。
片方の隣は私の部屋だから空室だけど、もう片方は悟空が寝ている。
「は、声が聞けねぇのは残念だな」
「ん、ん、」
しばらく布越しに弄んだ後、サイドから指を入れたり食い込ませたりして遮る布をどうしようか考えあぐねた挙句、普通に脱がされた。
久しぶりに人前に晒すのはやはり恥ずかしい。しかもこんな明るみの元で。三蔵の言う通り、本当に今日は恥ずかしいばっかりだ。
指先が何度かそこを往復し、ついに侵入する。
「ひ、」
「これ指挿れる必要あるか?」
「ある、よ、ばか」
恐らくデロデロになっているそこは1本を簡単に受け入れ、早々に2本目の侵入を許した。
いくら細身とは言え私より太い指が内部を抉り、悲鳴めいた声が漏れる。
悲鳴はダメだ。絶対だめ。絶対、悟空が飛んで来てしまう。
私の心配など気にも留めない様子の三蔵は、読めない表情のまま天井を揉むように指を動かした。
「っ、っ、」
私が声を抑えているせいでくちゅくちゅという水音がやけに大きく聞こえる。
「三蔵、もう挿れて」
「……」
「ね、えっ」
こんなの堪えられない。声だって我慢しなきゃいけないのにこんなに良いなんて地獄だ。
堪えすぎて涙が滲む。
せめてこの口を塞いでくれればいいのに。
「キスして」
三蔵に手を伸ばすと宙に浮かされていた腰がベッドに沈んだ。金属がぶつかる音、ファスナーが軋む音、衣擦れの音。ひとつひとつが緊張を迫り上げた。
一纏めに放り投げられた私と三蔵の服が床に散ると、夜空色の瞳が迫って唇が重なる。強引な態度とは裏腹に優しく触れた唇を割り、どちらからということなく舌が絡んだ。
甘いキスに酔いしれるうちに秘部に三蔵の先端が宛てがわれ、慣らすように滑る。
「挿れる」
「ん、」
「っふ」
「いっ!!」
っったい!
めり込んだ三蔵の肉に抉られる鈍い痛み。処女じゃないのにどうして。久しぶりすぎてかなり狭くなってしまったのだろうか。
想定外の痛みに滲むどころではなくなった涙がこぼれ落ちる。
異変に気づいた三蔵が腰を止めた。
「おい、大丈夫か?」
「いたいよー」
一度溢れた涙は止められなくて、意識とは無関係に顔の上を流れていく。
でもこれは悲しいのでも死ぬほど痛いのでもなくて、三蔵と交われたことへの喜びの涙だ。
思い出したくもない処女喪失の時、私は麻酔をかけられていて痛みがあったのかなかったのかもわからなかった。
もし、こうやって三蔵と初めての夜を過ごしたら、こんな風に痛かったのかもしれない。
「……やめるか?」
「ちがうの、続けて」
欲しがる私を見て、三蔵は眉間に皺を寄せた。
太ももに三蔵の骨盤が当たり、すべて飲み込んだ事を悟る。まだ痛みの方が強く快楽に身を委ねることは出来ないけれど、奥に当たる肉感はとても心地よかった。
「動く」
「ん、っは、ダメ、おねが、口塞いで」
「くそ」
苦々しい表情のままキスをした。
声が漏れないように舌を絡め、歯が当たっても気にしない。こうしていなきゃ悲鳴も喘ぎも全部垂れ流しそうで怖い。
三蔵の背中に腕を回してしがみつく。
苦痛と快楽と恐怖と安寧が全部ぐちゃぐちゃになってどうしようもない。
三蔵の塊が抽挿を繰り返すうち痛みにも慣れ、自分から良い所を求められるくらいにはなってきた。
すがりつくように足を閉じて力を込めると、一番奥に当たって思わず背が跳ねる。
「っ、は」
「ふ、」
声を抑制するのはとても大変だけど、その分凝縮された感じがした。
三蔵の肌も息遣いもぴったりと寄り添って、すごく狭い空間に閉じ込められているような錯覚。もっともっとくっつくように、自分から腰を押し当てた。
「好き」
「ああ、俺、も」
「っ聞きたい」
「お前が好きだ」
掻き抱くように上半身を拘束され、キスをしながらパンパンと互いの皮膚をぶつけ合う。まるで獣のような情事の姿だ。
リズミカルに躍動を続けたそれは徐々に余裕をなくした。
「さんぞ、う、いきそ」
「っ、いけよ」
「んぅ、ん、イっちゃ、あっ、はあ、あっイク!! 」
「……っ!!」
一番奥に突き立てられたところで塊が脈を打ち、私の中に三蔵の熱が広がっていくのを感じた。
何を思ったかその場で念押しするように動くものだから、ゆるやかな絶頂が未だに続いているようなふわふわした気分に包まれる。
「も、やめてよぉ、」
「なんだ、これも感じるのか」
「ふふ、幸せな感じ」
心の底からそう思って微笑むと、初めて柔らかく微笑む三蔵が見られた。
そんな顔して笑うこともあるんだ。
どうしよう。
好き。
「気持ちよくて死ぬかと思っちゃった」
「そりゃ何より。痛みは?」
「もう平気」
ねえねえ、と言いながらキスをねだるように軽く唇を突き出せば、すぐにその要求に応えてくれた。
誰より私に甘いのは、他でもなくこの人だ。
……いや、果たして本当にそうだろうか?
私の中で塊がぴくんと跳ねた。
強度を取り戻しつつあるそれが、少しずつ激しく動き出す。
「ちょ、ちょ、三蔵」
照明も消さずに寝転けた三蔵と同じくらい疲弊しているのもまた事実なわけで。瞼が落ちそうになるのと揺り起こすような快感がせめぎ合う。
「次いつできるかわかんねぇのに我慢なんかしねーだろ、普通」
たしかに……
納得している場合ではないのだけど、一理ある。
ちゅ、ちゅ、とリップ音を立てながら耳に首筋に唇が触れた。ただキスをされるだけなのに、なぜこんなにも心地よいのだろう。
「嫌なら言え」
「好き」
もはや痛みなど感じず律動の度に幸せな快感に包まれた。甘い痛みも悪くないけど、最初から気持ち良いのもやっぱり好き。
朝が来るまで。
それが短く思えてしまうのは随分久しぶりの感覚で、あっという間に溺れてしまった。