秀さんの家にトリップしてきた

信じらんないくらい長時間に渡る張り込みと報告書の提出を終えて、死にそうになりながら帰宅した途端に睡魔に襲われた。そのままソファで寝こけ、朝方に目覚めると足元に人が倒れていて死ぬほどビビった。
ついに幻覚まで見えちゃったかー、耀さん相変わらず人使い荒すぎ!
とか思っていたら、そこに倒れていた人が“彼女”であることがわかり、しかもまあまあ好みだったりして、5パーセントくらいはラッキーなんて思った。彼女の話を聞くまでは。

「だからスマホでゲームしてたら画面がビカーってして、中に来ちゃったんです!!」

何度質問しても同じことしか答えない彼女は、どうも嘘を言っているようには見えない。刑事の勘的なものも間違いないと言っている。
うーんでも俺、取り調べあんまり得意じゃないしなー。司がいたらもうちょっと信憑性のある結論に至ったのかも知れないけど。女の子の取り調べを司にさせるのもどうなのかね。

「信じてないかもしれないですけど、私あなたのこと知ってますから、芝秀介さんでしょ」
「ストーカー?」
「違いますよ!! 何言ったら信じてくれるんですか。服部さんの部下で、同期どころか後輩にも蔑ろにされておっさん呼ばわりされてる、自称苦労人で字が綺麗な芝秀介さん!」
「え、マジのストーカー?」
「だから違うって!」

その後も彼女は俺を取り巻く環境について語った。
まさか庁舎内で起きた事まで把握されているとは。一気に背筋が凍るような思いで身震いした。かわいい顔してコワ~。どこのスパイ?
冗談はさておき、どうして庁舎内での様子が漏洩しているのか、そこについては由々しき事態である。

「今日何日何曜日の何時何分ですか?」
「6月27日土曜日…… の、えーと、11時55分過ぎかな」
「それでは私がゲームの中に来たってことを証明してみせましょう! あと5分以内に服部班のお仲間四人がウッキウキで焼肉するためにここに集合します!」
「えええ……」

うっそだあ。なんて言い切れない所がまた悲しい。週末の突然の襲撃とか、秀さんあるあるなんですけど~。
ついに予言まで始めるなんて、やっぱり盗聴してるんじゃないの? と思ったものの、ストーカーが対象を放置してまで周辺を嗅ぎ回るというのもやや不自然な話だ。
徐々に信憑性を帯びる彼女の話について考えていると、正午を報せる簡素な時報の後にインターフォンのベルが鳴った。向こう側から夏樹が「秀さーん、焼肉しよー」と呼びかけてくる。
「ほらね!!」
「……マジ?」

とりあえず対応をしなければと立ち上がると、彼女が俺の袖を引いた。

「待って」
「え?」
「秀さんにお願いがあるの」
「……何?」

出会ってせいぜい1時間足らずの彼女から聞けるお願いなどたかが知れてる。
そう思って一応聞いてみただけなのに、こんなに傷つけられるとは思わなかった。

「秀さんは本編では攻略対象外だから」
「えっマジ~? それショックでかすぎなんですけど」
「ここで秀さん攻略させて下さい! 私を好きになって!!」
「えっマジ~?」

NPCのように同じ返事しかできない俺は、やっぱりゲームの世界の住人なんだろうか?
そう思わせるには十分すぎるほどの衝撃展開に、俺はもう考えるのを放棄したくなった。

「さ、最後に質問!」

彼女は俺の手を両手で握る。
え、なにこのシチュエーション。

「秀さんが攻略できないのって、実は黒幕だからって本当ですか?」

その時脳天に落雷を受けたように全身がビリビリと痺れた。
そして、なんと答えてやればいいのか、それを聞かれるずーっと前から知ってたかのようにその答えを口走っていたのだ。俺の意思とは裏腹に。
そこでようやく彼女の言うことが本当だと理解して、数分前に聞いた“秀さんは本編では攻略対象外”という悲しい言葉がリフレインする。

「ハハ、ヒーローたちを迎えに行ってやりなよ、マトリちゃん」

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