なるっちの料理教室

「は? そのまま入れるとか正気? 煮込みに使う根菜は面取りするのが常識よ、常識。あっ、ちょっとやめて! 水を突っ込むなんて信じられない。先に炒めなさいよ、アンタ何作るつもりなの? その程度の知識でよく青山に食事作ろうなんて思ったわね」
「ハイ、すみません…… 」

大して広くも立派でもない我が家のキッチンで、恋敵の成瀬さんによるスパルタ料理教室が行われていた。
いや、恋敵っていうか、それを言うなら私は樹さんの彼女なわけで、どちらかというと私の方が立場が上と見るのが普通だと思うけど、なぜか成瀬さんは付き合いの長さを全面に押し出して来て「自分の方が青山のことを愛している」という主張をはばからない。
樹さんと付き合い始めてすぐに成瀬さんに目をつけられ、いびられてなんやかんやあった結果、成瀬さんがめちゃくちゃ料理上手という事を知った。
樹さんもプロ顔負けなくらい料理上手なのは知っていたからこそ、自分の料理の腕前に劣等感を抱かずには居られなかった。そんな所に現れた成瀬さんは、なんなら天使にすら見えた。おだてて下手に出た所、こうやってスパルタながらもきちんと超基本から教えてくれるあたり、実はいい人だ。

「大体カレーなんて教わらなくても作れるでしょ、箱に作り方書いてあるんだから」
「そのまま作ったら初心者丸出しじゃないですか」
「初心者どころか今までろくに料理作ってこなかったくせに生意気言ってんじゃないわよ」
「すみません……」

さっきから何度謝ったかわからないが、それにしてはきちんと付き合ってくれている。やはりいい人である。

「基本に忠実にやりなさい」

樹さんから聞く数々の成瀬さんエピソードを思い出すと、あなたに言われたくないんですけど。という感じでもあるが、それを飲み込んで「すみません」と言えばいやらしく微笑んで気分良さげにしているから素直な人だ。成瀬さんはいい人で素直で、同性だったら結構強敵だったんじゃないかと思う。

「……青山はアレンジしたプロっぽい味に慣れてるだろうから、アンタのTHE・家庭料理のカレーは逆に喜ぶんじゃない」
「え」
「手! 止めないでちゃんと炒めて!! 焦がしたら尻叩くわよ!!」
「はい、すみません」

めちゃくちゃいい人すぎて泣ける。同性じゃなくてよかった。心からそう思った。

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