「ヒューヒュー! ついにモテ期きた~!」
「……」
もう何度目かわからない芝さんへの告白は、もう何度目かもわからないほど適当にはぐらかされていて、私はもう焦りと涙を通り越し、呆れと諦めの境地に達そうとしていた。
「好きです」の言葉に似合わず、私は信じられないほど無表情でいるだろう。
そんな私を見て、果たして彼は一体何を思うのだろうか。いつも感情の読めない芝さんは、今日も相変わらずテンション高めな言葉とは裏腹に、感情のこもらない薄ら笑いをしていた。
もういいです。
と言って諦められたらどれだけ楽だろうか。
諦めの境地に達そうとしていたって、家に帰ればまた落ち込んで反省して再アタックしてしまうのだ。なんてしつこい女だろうと自分でも思うけど、この薄ら笑いを見るとどうしても気持ちが止まらなくなってしまう。
「いつまでその顔してるんですか」
「ナマエちゃん、最近冷たくない?」
「芝さんはいつも私に冷たいですよね」
「芝さんは女の子には優しいよお~」
そうやって私を“その他大勢の女”とひとくくりにして、暗に「お前に興味無い」と言う。
すっぱりと振ってくれたらどれほど楽だろうか。そもそも芝さんだってもう半年以上も付きまとわれて迷惑じゃないのか。こんなこと言うのもなんだけど、捜査一課の人にストーカー扱いされてもおかしくない。
「今度デートしてくれませんか」
「やっべ、俺超モテモテ☆」
「デートしてくれませんか」
「やっぱモテ期は違うな―」
「デートしてください」
「俺を取り合って喧嘩しちゃ駄目だぞ! なーんてね!」
ソシャゲのホーム画面かよ。
くそ、さすが服部さんの下で働いているだけあって、食えないにもほどがある。
自分が魅力的だとは言わないが、それなりに見た目には気を使っているし、せめて“ちょっと気になる子”くらいには特別扱いしてほしくてダイエットだって頑張ったし、直属ではないにしろかわいい部下としてもう少しなんというか、そろそろ真面目に振ってくれてもいいんじゃないか。
「芝さん」
彼を好きになって1年半、初めて告白して半年と少し、初めて彼に触れた。正確には彼の袖に。少しつまんだスーツの袖は、想像していたよりも柔らかくひんやりしていた。
自分でもこの行動に驚いたけど、彼の方がよほど驚いた様子でぎょっとした顔でこちらを見ている。そんな顔初めて見た。かわいい。
「ほんとに、好きなんです」
「な、んで」
「忘れました」
「えっ」
「だけど、今日芝さんに会えたらいいなとか、一課に用事ができたら嬉しいなとか、思うんです。寝る前に芝さんの顔を思い出して、ニヤニヤしちゃうんですよ。今日も変な顔してたなってほっこりしちゃうんですよ」
「それ悪口じゃない!?」
「芝さん、好きです」
想像以上にうろたえた様子の芝さんは、つままれた腕を伸ばして私の手を遠ざけようとしている。
「気持ち悪いですよね、すみません。でも、それくらい好きなので、ちゃんと振ってくれませんか?」
「ああ…… ごめん」
「……差し支えなければ理由を教えてくれませんか」
「違う、ごめん、えっと、今までごめん。俺ひどかったね」
そっちか。ほっとする気持ちと、今更何言ってんのという気持ちがないまぜになって変な顔をしてしまった。そんな私を見た芝さんはとても居心地悪そうに裾をつまむ私の手を取って、ぎゅっと握る。勘違いするからやめてほしい。そう思っていても振り払えない。
「俺が真剣になったらさ、ナマエちゃんのこと傷つけちゃうから」
「意味わかりません。ていうか今でもめちゃくちゃ傷ついてます」
「うっ、ごめん…… でももっと傷つけたら嫌じゃん?」
「こうやって傷つけるのはいいんですか?」
「キミなかなかしつこいね」
「こう見えて私も警察官なんですよね」
初めて好きな人を睨んだかも知れない。
私だってそれなりに経験のある警察官なわけだし、ちょっと背の高い男性を相手にすることくらい別になんにも怖くない。それが原因で振られたことは何度もあるけど。芝さんもこういう所がかわいくないとか思うのだろうか。
「わかった、デートしよう」
「ラッキー」
「心の声めっちゃ漏れてるけど、睨みながら言う台詞じゃなさすぎておじさん困っちゃう」
「すみません、つい」
「でも期待しないでよ、俺がなんで彼女作りたくないか説明するだけだからね」
私の手を離した温かい彼の手はそのまま腕を組んで触れられなくなった。わざと私に壁を作ったんだろう。
ついに物理的に壁を作らなきゃ私に陥落しそうになったか、などと内心ほくそ笑む私はなかなか頭がいかれてきたと思う。
「要するに仕事場でできない話をしてくれるわけですよね」
「俺、ナマエちゃんのこと知らなすぎるね。キミそんなポジティブだったんだね」
「ポジティブじゃなきゃそもそも芝さんに惚れませんし、半年以上めげずに告白しませんよ」
「じゃあさ、俺のこと教えるからキミのことも教えて」
観念したように困った顔で微笑む芝さんの顔には、初めて感情の色が見えた気がした。
しかもそんな口説き文句ともとれるような事を言って、本当にひどい男だなと思いつつ、やっぱりこの人のこういう所が好きだななんて笑ってしまう。
「望む所ですよ、取り調べですね」
「ナマエちゃんてもしかしてドエロ? あ、これセクハラ?」
「セクハラですね、逮捕します」
「キミさ、司と仲良くなれそうだね」
「私は芝さんと仲良くなりたいです」
「……」