宏弥くんと猫

緑が溢れる庭の奥の方で揺れる、金色の塊に思わず魅入った。背丈の高い植物にも負けないほど大きなそれは、上下左右に動いたのちに植え込みに隠れて見えなくなってしまった。
……筋トレ?
にしては動きが不規則すぎるような。
もうそろそろこの屋敷を出なければ午前中にあと1件訪問するのは難しそうだ。が、愛しい金髪頭の動向が気になるので寄り道をすることにした。

「宏弥くん?」

背後からそっと声をかけると、ぴくりと反応した彼が振り返り、人差し指を口に当てていた。静かにしろということらしい。

「どうしたの」

口パクに近いくらいトーンを落としてそう尋ねると、宏弥くんは腰を下ろしたまま右にずれて私に場所を譲る。
それに倣って私も腰をおろしてみれば、植え込みの中で2匹の猫が気持ちよさそうに昼寝をしているではないか。
か、かわいいいい……
思わぬ出会いについ顔がほころぶ。

「これ、よく撮れてんだろ?」

肩をつつかれて視線を移すと、宏弥くんがスマホの画面をこちらに向けていた。画面にはそこで眠る2匹の猫が様々な角度から撮影された写真が並ぶ。
なるほど、これを撮るためにあんな動きを。

「この金髪が彼女連れてきた記念」
「え」

金髪、といわれた猫は確かに金色にも似た色素の薄い茶トラで、どことなく宏弥くんに似ている。隣の三毛猫よりも一回り大きな茶トラは、寝ていても美人さんだとわかった。

「こっちの三毛は今日初めて見たから、多分紹介しに来たんじゃねーか」
「そんなのあるんだ」
「宮瀬がよく世話してるから。この金髪の名前、コーヤっていうんだぜ」
「それって宏弥くんに似てるから?」
「おう、よくわかったな!」

……うん、宮瀬さんだな。
私の頭の中の宮瀬さんが「この子はコーヤくんにしましょう!」といってニコニコしていた。

「あとカナメっていう白猫と、キヨシっていうハチワレ猫もいる」

猫パラダイス!
しかもそんな、妙にイメージぴったりの柄の猫が。性別なんかお構いなしに名付けられたんだろう。
猫なんか庭いじりの大敵だろうに、懐柔して共存するとは宮瀬さんらしいやり方だ。この屋敷にあふれる優しい空気にはいつも和まされる。
日常的にこの空気に触れて生活できたら、どれほど癒やされるだろう。この後訪れる予定の苦手な訪問先のことを考えると、ここを動くのが嫌になってしまう。もう九条家の壁になりたい。

「この三毛ちゃんも通うのかな」
「そうじゃねーか? 名前つけないとな!」

へへっ、と笑う宏弥くんは少年みたいにキラキラしている。同い年とは思えぬ眩しい笑顔。

「あ、コーヤの彼女だからナマエだな! 宮瀬に言っとく!」

顔を覆いたくなるような恥ずかしい台詞も、そのキラキラから放たれるとただただ圧倒されるばかりで、私は照れ隠しに少し俯いてから「そうだね」と言うのが精一杯だった。

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