はー、慶ちゃんまだ仕事してるのかな。早く来ないかな。
ナマエがここに出入りするのは全然構わない。慶ちゃんと僕の馴染みだし、時々すっごいネタ持ってくることもあるし、桧山くんだって悪くは思っていないだろう。羽鳥に至っては変なちょっかい出さないように監視しなきゃいけないくらいだし。
そう、それはいい。だけど、僕の隣で堂々と桧山くんのこと口説くのはどうかと思うわけ。
「今日もかっこいいですね」
「そうか、この服は神楽が選んでくれたんだ」
「桧山くんが着るからかっこいいんだと思います!」
「似合うのを選んでもらったからな」
……全っっっ然相手にされてないし。
ていうか、幼馴染が友達に振られてる所なんか、見たい人いるの? あー、慶ちゃん早く来ないかな。
瞳をキラキラ輝かせて桧山くんを見つめるナマエは恋するなんとやらそのもので、ランドセルを背負っていた頃から知っているこっちからすれば違和感がものすごい。それに言いようのない居心地の悪さもある。
桧山くんが相変わらずのド天然をかましているせいで、ナマエが落ち込むんじゃないか。凹むナマエは見たくない。かといって桧山くんにああだこうだ言うのも違う。
「さすが亜貴くんですー、桧山くんのかっこよさをここまで引き出してくれるなんて」
「神楽は俺たちの中で一番センスがいいだろう」
うん、僕の心配は全部杞憂。ナマエはナマエでネジをどっかに落としたのか、異常なポジティブさを発揮していた。
これだけ話が通じないとここまでポジティブになってもスタートラインにすら立てないのか。なんてまだ見ぬ桧山くんの未来の彼女に思いを馳せる。
「そういえば、うちのサボテンに花が咲いたんです」
「おめでとう。随分手間をかけて育てたんだな」
「はい! 毎日お世話をしていると、なんだか友達になったみたいで」
「ふふ、そうだな」
桧山くんが微笑むと、ナマエが見たことない顔をして頬を真っ赤に染めた。キラキラした瞳にはうっすら涙なんか浮かんでいる気がする。
ねえ、喜びのハードル低すぎない?
思わず呆れてため息をつくと、ナマエがこっちを見て口パクで「やばくない?」と言った。君の方がいろいろやばいよ。とは言えず、微笑みを返してやるのが精一杯だった。
ナマエは桧山くんの笑顔を直視できずに視線を泳がせてから、所在なさげにカクテルグラスを弄りながら手元を見つめていた。
あーあ、もう、見てらんない。恥ずかしい。
桧山くんだって、ナマエがこんなに…… その、か、かわいい生き物だっていい加減気づくべきなんじゃないの。
ちらりとナマエ越しに桧山くんを見れば、未だに微笑みを浮かべている。あれはきっとサボテンの花のことを考えているのだろう。
「サボテンの花は可憐だろう」
「はい、小さな赤い花です」
「ああ、お前に似合いそうだな。髪飾りにしたら似合うだろうな」
突然何を思ったのか、桧山くんは手を伸ばして頬に垂れたナマエの髪を耳にかけ、こめかみの辺りを軽く撫でた。
いよいよナマエはもうどうすることもできず、オーバーヒートでフリーズした。あまりにも突飛な行動に僕の回路もおかしくなって、ぼんやりと「ヒートでフリーズってのも変な話だなぁ」なんて下らないことを考えている。
桧山くんは僕たちの思考停止もお構いなしで、楽しそうな微笑みをナマエに向けていた。
……ちょっと。なに、桧山くん、ちゃんと気付いているんですけど。
あー、バカバカしい。心配して損した。
「あのさ、イチャイチャしたいなら部屋取ってよね」
「ん、ああ、つい。悪かったな」
イチャついていることを否定しないあたり、ほんとしっかりしてるよね。ナマエに向ける桧山くんの視線はもはや知人や友人へのものとは違う。そんな目尻を下げて、優しそうな顔して。
……はぁ。慶ちゃん、早く来ないかな。