30万打|大天使神楽 亜貴さんだって男の人

猫かパンダか迷った末に猫を選んでから亜貴ちゃんにカメラを向けた。

「ヒ~~~! 天使すぎて目が天国~~~!!!」
「ちょっと、なに気持ち悪い」

案の定蔑んだ顔でこちらを見た亜貴ちゃんは私がシャッターボタンをタップするのに一瞬遅れてカメラと顔の間を手のひらで遮った。ギリギリ保存できた猫の顔スタンプつき亜貴ちゃんはヤバヤバ天使だったので即ホーム画像に設定しておこう。
亜貴ちゃんのお顔を崇めるためにアイコンをギリギリまで減らしたホーム画面の中で、猫の耳とかわいいおひげを生やした亜貴ちゃんがこっちを見て「は?」みたいな顔をしている。かわいい。そして前を見ると「はあ?」みたいな顔した亜貴ちゃんがこっちを見ていた。天国かな?

「はあ。どうしよ、もうだいすき」
「……一応聞くけど、なにが」
「亜貴ちゃん」
「……」
「なんでそんなにかわいいの? 天界出身なの? 亜貴ちゃんの作るドレスは羽衣なの?」

もう来年のブライダルフェアに向けてレースを選んでいた亜貴ちゃんの手元にはサンプルがたくさん散らばっていて、白いレースを弄ぶ亜貴ちゃんはどこからどう見ても天使だと思った。こうやって目を細めてぼんやり見ていると頭の上に金色の輪っかが見えてくるようじゃないか。
ぼんやりと眺めた亜貴ちゃん越しに壁に貼り付けたダンススクールみたいな大きな鏡が目に入り、そこには姿勢の良い亜貴ちゃんの背中が映っていた。スッと伸びた背筋と比較的細めの首筋に、少し青みがかった柔らかい髪がはらりと散る。
え、ちょっとまって、背中すらこんなに美しいなんて有り得る?

「やばーい」
「今度はなに」
「亜貴ちゃん背中かっこいい」
「背中?」

亜貴ちゃんが振り返ると美しい背中は鏡の中から姿を消したけれど、そのかわりにかわいくてかっこよすぎてやばすぎる顔が鏡越しに私を覗いた。

「死んじゃうから! そんな所から見たら死んじゃうから、……好き、だいすき」
「……」

もはや呆れ返って言葉も出ない様子の亜貴ちゃんは、鏡越しにずっと目が合ったままだった。
……あれ? もしかして、この状況で鏡と亜貴ちゃんの間に挟まったら、二人の亜貴ちゃんに見つめられるのでは? ちょっと私天才すぎない?
恐る恐る椅子から立ち上がり、少し離れた所にある例の巨大鏡の前に立つ。

「!!」

思った通り(というか当たり前)に目の前には本物の亜貴ちゃんがいて、振り返ると鏡の中にも亜貴ちゃんがいた。

「うっ」

あまりの天国状態に立っていられなくなった私はその場にうずくまり、胸を押さえる。
私がこうやって亜貴ちゃんに恋をしていても、亜貴ちゃんは呆れた顔をするけど拒絶はしない。今だって部屋から出ていったり追い出したりしない。
変な顔をしてから「馬鹿じゃないの」って優しく言って「はやくこっちおいで」って言うのだ。
今日もその言葉を聞きたいな、なんてよこしまなことを考えている。
のだけど、なんだか今日はそのお誘いが出てこない。
そろそろ本気で呆れられちゃったのだろうか。やだな。そんなの辛い。どうしよう。

「ナマエ」
「え」

いつもと違ってちょっと怖い声がして、びっくりして身体がこわばる。照明を遮るように影が落ちて、すぐそこに亜貴ちゃんがいるのがわかった。
なんだろ、緊張する。
鼓動が早くなって、ドッドッと大きく脈を打つ心臓が脳を破壊してしまいそうだ。

「ねえナマエ、ずっと言おうと思ってたんだけど」
「な、なに」

怖くて顔があげられない。何を言おうとしてるの? どんな顔してるの?
悪い考えがぐるぐる回ってこみ上げてくるものがまぶたのふちでギリギリ思いとどまっている。
どうしよう、泣いちゃう。
と思った瞬間、ぐいっと肩を押しのけられるように鏡に張り付けられ、目の前には苦しそうな顔をした亜貴ちゃんがいた。
え、なに、その顔は、なに。

「僕だって男だし、君は女なの、分かる?」
「え……」

私の顔の横には意外と大きくて節のある亜貴ちゃんの手があって、そのまま肘を曲げた亜貴ちゃんの顔が少しずつ近づいてきた。きれい。

「君に何が見えてるか知らないけど、僕はただの男だよ」
「あ」
「天使とか、そんな綺麗なものじゃないから」

ずるい。
瞳と瞳が惹かれ合うみたいに間近に迫り、そっと伏せられたまぶたを縁取る長いまつげ。女の子みたいな小さな唇が私の唇を食む様子は、全然女の子みたいじゃなかった。
もう何度も重ねているはずなのに、毎回毎回初恋みたいな気分になるのはなんでなの。
気持ちは通じているはずなのに、こんなに胸が苦しいのはなんでなの。

「そろそろ女だって自覚した?」

しばらく私の唇を貪った男の人の唇がゆっくり離れていくと、亜貴ちゃんはまたいつもの意地悪っぽい呆れた顔をしていた。

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