それはそれは随分立派なクリスマスツリーで、私はカップルたちが賑わう広場に一人で立ち尽くした。
もちろん「今までクリスマスツリーを見たことが無い」とは言わないけれど、今年のクリスマスツリーはなんだか特別に感じる。
ゴールドを基調にした王道の飾り付けもとてもとてもよく似合う。何に似合うって、それはもちろん、今の私たちに。
「ナマエさん、お待たせしました。すみません」
「いえ。見てください、素敵なんです」
私が言うまでもなくそびえ立つ立派なクリスマスツリーに腕を広げると、貴史くんは私の隣に立って微笑んだ。
「本当に、すごいですね」
「あ、それ、ありがとうございます」
「熱いので気をつけて」
「はい」
貴史くんが買ってきてくれたコーヒーは確かに少し熱かった。だけどこの寒空の下ではあっという間に冷めてしまうんだろうな。
ベージュのダッフルコートは幼い顔つき(言ったら怒られる)の貴史くんによく似合っていた。反射したイルミネーションが貴史くんの瞳に映ってキラキラしている。貴史くんの肩は私よりすこし高い位置にあって、高すぎず低すぎない。瞳の色もよくわかる、この距離感が好きだ。
思わず見惚れて硬直したところで貴史くんがコーヒーを口に運ぶのを見て、私も慌ててコーヒーに口をつけつつツリーに視線を向ける。
いつもはブラックで飲むコーヒーも、今日ばかりは甘いカフェラテにした。
「俺のクリスマスって、ずっと家族で過ごすものだったんです」
「え?」
「12月になると母親がクリスマスツリーを出してくるので、家族で飾るんです。毎年オーナメントを一人一つ買って飾るものだから俺が家を出る頃にはとても豪華なツリーになりました」
「素敵」
「当日は食事も豪華で。社会人になってからは実家に帰るのもなかなか難しくなりましたけど、やっぱりこの時期になると実家を思い出します」
幼い頃の貴史くんはどんな子だったんだろう。なんとなく、今のまま小さくなった感じなんだろうなと思った。絶対かわいい。ご両親もかわいがったろう。かわいがられて育ったんだろうなって、彼の言葉選びや行動ひとつひとつで実感する。
きっと大学時代までは毎年実家に帰っていたに違いない。今だってきっとスケジュールが合えば帰るだろう。そういう人なのだ。貴史くんは。
「……貴史くんのおうちのツリー、見てみたいな」
おそらく全部で十数個になる貴史くんのオーナメントはどんな形をしているんだろう。毎年毎年エピソードがあるんだろうか。
ぼんやりと考えていると、ふと視線を感じて貴史くんと見つめ合う。驚いたような顔をして少し頬を染めている貴史くんが何を考えているか、すぐにわかって慌てて否定した。
「あっ、いや、深い意味はなくて」
ご両親に紹介して欲しいだとか、その、け、結婚したいとかそういう意味はなくて。
慌てすぎて不自然だったかも知れない。でも変なプレッシャーに感じてほしくないし、本当にそういう意味はなかったし、そういう時は貴史くんと一緒のペースで考えていきたいと思っているから。
……というようなことをモゴモゴ言っていると、貴史くんは小さく吹き出すように笑った。
「わかってるから」
「なんかごめんなさい」
「いえ、大丈夫。そういう所、好きです」
「あっ、ずるい。あはは」
貴史くんは意外と素直に感情を言葉にする人で、突然こういうことを言う。さすがにもうそろそろ慣れてもいいんじゃないのと思うけど、未だに慣れないし今後も慣れる気がしない。だけど照れ笑いで誤魔化すのには慣れてきたかも知れない。本当は「私も好き!」と飛びつきたいくらいなのだけれど。
二人で笑い合うと口元から白い吐息が舞い上がった。
「寒いですね」
「冬ですから」
「寒いから」
「そうですね」
そっと伸びてきた左手が私の右手を掴み、私はその手を握り返す。私と貴史くんの間にはまた微かに白い吐息が舞った。
「そうだ、オーナメントを買いに行きませんか」
「オーナメント?」
「今、うちにもツリーを買いたいと思いました。だから、ぜひナマエさんのも一緒に飾らせてくれませんか」
「……はい」
まずはこれを飲んでから。と言って貴史くんは私の手を引き、ちょうど空いたベンチにエスコートされる。ベンチから見るツリーはさっきより小さく見えたけれど、貴史くんの瞳は相変わらずキラキラしていたのだ。