※年齢操作あり、カナメくん成人済み
私はケーキが食べたかった。なんだかよくわからないけどつややかな紫色のフルーツ?がとても美味しそうで、カロリーなど気にせずホールごとかぶりつくのだ。そう意気込んだ時、巨大な何かに体ごと掴まれて足が宙に浮いた。掴まれてた所がとてつもなく痛くて堪えていると、突然ぐらぐらと揺られて必死に掴んだケーキが山間に落ちていく。
「──さん、ナマエさん」
「あ!?」
「大丈夫? ものすごくうなされてたけど」
さっき何者かに掴まれていた肩はカナメくんが優しく撫でていた。痛くない。空も飛んでいないけど、あの美味しそうなケーキもなかった。ケーキは食べたかった。夢ならカロリーゼロ。
「寝てた……」
「うん」
ソファにもたれるようにして寝こけていたらしい。口が当たっていた部分によだれのシミができていて穴に入りたい気持ちになる。今言えるのは自分の家で良かったということくらい。
そうだ。
今年はカナメくんがお酒を飲めるようになって初めての年越しだからって。鍋を作って、年越しそばの代わりにシメのうどんにしようかって、他にも少しおつまみを作って、一緒に年を越そうねって。
「今何時!?」
「あー…… えっと、0時5分くらいだよ」
「ああ!!」
やっぱり。年越しの瞬間、お揃いで買ったグラスで小さく乾杯して「今年もよろしくね」って言うはずだったのに! なんで私ってやつはこういう時ばかりこうやって!
日本酒はやめておけばよかった。買い出し中にカナメくんが言っていた言葉が蘇る。
──俺は寝ちゃいそうだから、弱めのにしておく。
そしてカナメくんは低アルコールの酎ハイを買った。私もそうすればよかったのだ。嬉しすぎて「今日は飲むぞ~!」なんてはしゃいでいた自分を殴りたい。本物の馬鹿だ。
「あの、本当にごめん、私から誘っておいて寝るなんて最低すぎる」
「ううん、別に」
カナメくんはできた人だから思い切り表に出すってことは無いと思うけど、内心落ち込んでいるかも知れない。もしかしたら怒っているかも。楽しみにしていてくれたのなら当然の反応だもんな。
逆にあまり落ち込まないというかなんにも気にしていないっていうのもちょっと寂しい気がする。我ながら自己中心的な考え方に嫌気がさすようだ。
「かわいかったし」
「恥ずかしい!!」
ソファのシミを思い出して思わず口を拭う。あれ、私よだれ垂らしてる寝顔見られたってことだよね? シンプルに最悪。だけどそんな優しい顔をされてしまうとなんだか「まあよかったかな」なんて思えてしまうんだからカナメくんは怖い。正確にはカナメくんにどんどん溺れていく自分が怖い。
「でも年越しの瞬間におめでとうって言ったり、なんか記念っぽいことしたりしたかったかなって」
「一緒に年を越したのには変わりないよ。それに、今年だけってわけじゃないんだしまた来年、じゃなくて今年か。今年の年末も一緒に過ごすんじゃないの」
「過ごしたいと思ってるよ……」
「ならいいでしょ。また1年、大晦日を楽しみにしてる」
どっちが年上なのかわかったもんじゃない。諭すように微笑むカナメくんがソファに寄りかかってこちらを見る。……ずるくない? 反則だよね? そんな顔ずるい。
反応できずに放心していたらカナメくんが心配そうに私を覗き込んだ。
「約束、しとく?」
そっと差し出された小指の意味を考えてすぐに自分の小指を絡めた。
違う違う、カナメくんを疑っていたわけじゃない。不安だったわけじゃない。だけど、カナメくんがこうやって私のことを考えてくれたのが嬉しい。
ゆらゆらと揺らしていると、面白くなってきてようやく私も自然に笑えた気がした。それを見たカナメくんも穏やかに笑ってくれるから、改めて幸せを実感する。一年の節目をカナメくんと過ごせてよかった。
「ねえ、さっき何の夢見てたの?」
話すのも馬鹿らしい夢の内容を思い出しながら告げると、思ったより反応が良くて調子に乗って話しすぎた。
寝落ちして冷えた身体がぽかぽかと温まってきたのはこたつのせいだけじゃない。小指に残るカナメくんの感触はきっとしばらく意識してしまうだろう。
今年の年末も一緒に。
さっきの約束を思い出しては噛み締めた。
「本当に痛くて悲しかったから、カナメくんに起こされてよかったかも。ケーキは残念だけど……」
「それってナスのケーキと鷹と富士山だったりして」
「ええ、ないない。何、ナスのケーキって」
「知らないけど」