広くないまでも立派な部屋に鎮座したダブルのベッドは、一条こだわりの高級マットレスでさすがに寝心地がよい。
固すぎず、沈みすぎず。この寝心地に慣れてしまうと我が家のネット通販で買った激安マットレスでは物足りない。やっぱりリラックスするなら一条の家の布団に限る。
しっかりと定期的にクリーニングされたシーツは肌触りも気持ちよく、全裸で転がるのは何よりも幸せな時間。
少し肌寒い部屋でふかふかの羽毛布団に包まってごろごろするなんて、少なく見積もっても最高。
「っ、ベッドで暴れんなよ」
「だって気持ちいいんだもん」
「はっ、そういうのは夜だけにしてくれよ」
「バカじゃないの、最低」
しかし残念ながらこのベッドは一条のものであるからして、私が占領することは許されないのだ。
不自然なくらい丁寧に手入れされたつやつやの長い髪が白いシーツに映える。赤みがかったこの茶髪は地毛らしい。
ごろごろしていたら激突した一条の背中は意外にも逞しくて、初めて見た時は驚いたものだ。
考え事をする時は大体ネイルケアか筋トレという妙に美意識高い男なだけあって、確かに体は全体的に美しい。
しかし、
「何見てんだよ」
「うーん」
「んだよその反応、」
タイプじゃない。
ものすごくタイプじゃない。
「つーか、なんだよその表情」
そもそも私は昔からオヤジ趣味だったはずだ。
一昔前なら同い年の一条なんて、目もくれなかったはずだ。
まあ会長はさすがに無理だけど、黒崎さんとか利根川さんとかあの辺なんて余裕のストライクだと思っていたし。
イケメンはいくつになってもイケメンなのだから、それなら円熟した渋みがあった方がいい。
ビンテージワインは既にビンテージだから価値があるのだ。
ただ整っているだけより年輪を感じたいし、年輪に愛しさを覚えたいし、乾燥気味の肌や相反して脂気味な額を舐めたい。
痩せた瞼や太い指、白髪、弛んだ尻、硬い足の裏、そのひとつひとつに侘び寂びがある。
女慣れしたエスコート、圧倒的優位からの言動、これぞ最高の男性の形!
……と、わりと本気で思っていたはずだ。
「ううん、なんでもないのよ」
一条はキレイ。
いや、キレイなんてもんじゃなくて、本人の努力もあってすごくキレイ。
髪はつやつや、肌はピチピチ、若干つけすぎなのに似合っている筋肉、整った顔立ち、永久脱毛でチクリともしないヒゲ。
ちゃんとスーツを着れば平均以上のイケメンだ。
着崩せばチャラ男だけど。ていうか仕事中は丁寧な言葉遣いのくせして彼女はこんな扱いなのか。口は悪いし、その顔に似合わないような下ネタを言うこともある。
私好みのちょっと萎れたダンディなおじさまはそんなことしない。
本当なんで付き合ってるんだろ。
長いまつげ。
パタパタと瞬きして、なんてきれいなおめめだろうか。
なんで私なんかと。
こんなにも美しい彼が。
「……え」
急に頭まで布団を被せられ、一緒の布団の中で抱きしめられた。
なんだかよくわからないけど、急に発情したのかと思ってとりあえず背中を撫でてみる。
「ごめんって」
「なんのこと?」
「……背中向けて寝たの、悪かったよ」
「ハア?」
「……違うのかよ」
小さい声でぼそっと呟いた一条は、ギュッと私を抱きしめたまま固まってしまった。
なにかボソボソ言ってるけどよく聞こえない。
多分私がなにか怒ってるか悲しんでるかと思って、脳みそフル回転で原因究明中なのだろう。
「ね、」
「……」
「ねぇ、一条、一条」
きつく絞められた腕をほどいて顔を見たら、私なんかよりよっぽど困った顔をしていた。
「一条、好きだよ」
「……ッんだよ、知ってるよ」
ほんのり耳先を赤くする一条にキスをして、二度寝の準備を始めよう。
なんだかんだ言っても、やっぱりここが好きなのだ。