まさか“家族”が増えるとは。
ナマエがこの家に来た翌年、その男はうちにやって来た。というか、ナマエと同じように保護したら居着いてしまった。
「あのー、たまには外泊した方がいいですかね?」
「なんで?」
「だって兄妹じゃないんでしょう? 僕、お邪魔じゃないですか」
「はあ?」
どうもなにやら勘違いしている。ほんの数ヶ月前から名を改め、猪八戒としたこの男は、俺とナマエの関係をまるで信じようとしない。
「だから何度も言ったけど」
「けど愛してますよね?」
「いやだからそれは」
「愛し合う男女がひとつ屋根の下でどうにもならないんですか?」
「あのなぁ」
俺たちをなんだと思ってんだ?
と言いかけて、こいつの過去を思い出して胸に留めておいた。
てゆーか愛し合うってなんだよ、男女のそれがあればとっくにそうなってるっての。出会って2回目で裸見てるんだぞ。……ってことまで、話したはずなんだけど、どーにも耳に届かないらしい。
「じゃあもしも例えば僕がナマエのこと好きになっちゃったー、とか言ったら、どうぞどうぞってなるんですか?」
「好きなのかよ?」
「例えばの話です」
こいつ、ナマエがいないとこうやって突っ込んだえげつない話ばかり振ってきやがる……
ナマエ、早く帰ってこねーかな……
「んな簡単にどうぞとは言わねーけど、ナマエもお前のこと好きならいいんじゃねーの」
「えー? 本当ですか? 結構薄情なんですねぇ」
「薄情じゃねーだろ、家族として当たり前の祝福だ」
「家族ねえ」
イマイチ納得してない風の表情をした八戒は、ナマエが整えたキッチンで上手にコーヒーを淹れて俺によこす。
元々男の一人暮らしだったこの部屋に、今や男2人と女1人。たいして広くもない1LDKでよくやってると思う。
「お前こそ窮屈じゃねーか?」
「まあ贅沢を言えばもう少し広い家があればとは思いますけどね、案外楽しんでますよ。ナマエのご飯も美味しいし」
「そう、あいつの飯はうめぇんだよ」
「すっかり胃袋掴まれてるじゃないですか」
「またその話かよ」
すぐ恋愛話に持ってく。とんだスケベ野郎じゃねえか。
下衆な話をしていると、ナマエが帰ってきてバタバタと夕食の準備を始めた。
あれからナマエは打撲も切り傷もまあなかなかマシにはなってきて、すっかり綺麗な女になった。治癒力は人間より多少早いくらいでそれほど変わらなかった。
「今日はシチューだけど良いよね」
「もちろん。ナマエの作るご飯はなんでも最高です」
「もう、八戒ってばお上手。悟浄も見習ってねー」
「へいへい、ナマエちゃんの飯はサイコー」
かなり適当に言ったのに、ナマエは嬉しそうに笑ってコンロに体を向きなおした。犬っぽいんだよなあ、なんて思っていると、ニヤニヤしている八戒と目が合い、嫌な気分になる。
ナマエから隠れるようにこっそりと耳打ちしてくる八戒の言葉は聞きたくなかったが、仕方なく耳を傾けた。
「本当になんとも思ってないんですか?」
「お前もしつこいね、妹みてーなもんだってば」
「そーですか、じゃあ遠慮なく居座りますよ?」
「そうしてくれや」
「了解です」
呆れていると、ナマエが俺たちを呼ぶ声がした。
かくして奇妙なふたり暮しは、いつしか3人暮しとなって、その後の旅立ちの日まで続くのだった。