DEAR 02|呪縛

“安心しろよ、俺はお前のこと絶対にそーゆー対象にしないから”
あの日悟浄に言われた言葉はあの頃の私をゆっくり癒し、そして今、呪縛になった。

「あんまり単独行動すんじゃねーぞエロ河童!」

耳を劈くような音がわなないて、三蔵が発砲した銃弾が悟浄の真横を掠めて飛んで行った。今や見慣れた光景だけど、発砲後の甲高い音だけは今でも慣れない。

「っぶねーな、殺す気か!」
「外泊禁止!」
「しょーがねーだろ、溜まってんだよ!!」
「1人でしてろ!」
「あーこれだから坊主ってもんは!」

三蔵の説教など耳に入らない様子の悟浄は逃げるように出ていった。安宿で取った部屋は相部屋で、悟空と三蔵、私と悟浄と八戒、のはずだったのに、昨日悟浄は夕食の時間までに帰ってこなかった。
案の定ナンパかなにかで女の所に寝落ちしたらしく、真夜中の帰宅早々三蔵に激怒されているというわけである。少しはなんだかんだと心配して寝てもいない私たちのことも考えてほしい。

「やれやれ、先が思いやられますねえ」
「夜中に単独行動してなんかあっても困るしなー」
「難しいところですね…… 僕の隣でナマエとされても困りますし」
「しません」

本当はしたい。
私が悟浄の性欲の捌け口になれるならそれでも良いと思っている。だけど今更言い出せないし、何より悟浄は私を傷つけまいとそんなこと絶対にしない。
それに八戒にも悪い。私は八戒と悟浄との今までの暮らしが本当に好きだった。悟浄のことを思うと苦しい事もあるけど、それでもやっぱり安らげる“家”は私にとってあそこだけなのだ。

「ねえ八戒はどうしてるの」
「僕は必要ないんですよ」
「三蔵は?」
「なんの質問だ、殺すぞ」
「悟空は?」
「ナマエ、やめなさい、子供ですよ」

男だらけでみんな大変だと思うけど、私をこんなにも自然体で受け入れてくれることに感謝してもし足りない。
それなのに私は悟浄に女として見られたいだなんて破壊的なことを考えてしまう、本当に駄目なやつだ。こんなことばかり考えていると、昔の自分に戻ってしまいそうで嫌になる。
耳の下の傷跡が痛む。

「ナマエはどうしてんの?」
「コラ悟空!」
「私かあ……」
「ナマエも考えない、答えない!」

当然ムラムラしてるに決まっている。もう数年間ムラムラしっぱなしでいる。一層の事、悟浄みたいに“発散”できたら楽なのかもしれない。
じゃあ悟空と、と言いかけたところで、八戒に口元を押さえられて悟浄と一緒に私たちの部屋まで強制連行されてしまった。

「あなたたちいい加減にしなさい! ナマエはふざけすぎですよ、女の子なんだから少しは謹んでくださいよ! あと悟浄、本当に何かあったら困りますから」
「へいへい、わーったよ、今日はもう宿から出ねーよ」

八戒は私たちに「謹慎!」と宣言して三蔵たちの所へ行ってしまった。
あーあ、なんか今、悟浄とふたりきりになりたくなかったんだけど。

「ゆうべはお楽しみでしたね」
「……なんか悪いな、あんまりお前に男っつーかオスっぽいとこ見せたくねーなあとは思ってんだよ。あ、男らしいって思ってくれるならいいんだけど」

悟浄はふざけたように笑う。
一体何が違うんだか、私にはクリーンな悟浄もダークな悟浄も全部男らしくてかっこいい悟浄に見えてしまう。全部おんなじ悟浄だし、全部大好きな悟浄だよ。
悟浄は私に“男”として見られたくないのはわかってるから、もう言わなくていいよ。聞きたくない。

「ううん、大丈夫、大人だもん、セックスは必要だよね」
「あっ、お前もちゃんと相手は選べよ」
「……うん、そうだね」

あなたと出会う前までは、そういうことができたんだけど。どうしてか今はそんなことする気にならないの。だから安心して。
なんて言えるわけがなくて、だいぶ省略して答えた。
ならいいけど、と言って笑う悟浄の瞳は相変わらず綺麗だった。

「悟浄、目が綺麗」
「それ久しぶりに聞いた」

血の繋がりよりもずっとずっと大事な人に、こんなにもしょうもない欲と情念を抱いた私は、いつから罪を自覚するようになったのだろうか。今すぐここから救い出して欲しい。誰か。
願わくば悟浄であって欲しい気持ちと、すべて捨てて消えてしまいたい気持ちがぐちゃぐちゃになって、私にはもはや祈ることしかできなかった。

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