日が昇りきった頃に目覚めると、ちょうどナマエも起きた所だった。「おはよー」と短い挨拶の後、リビングのソファに直行してそれぞれ両端にもたれて座る。完全に二日酔いだわ。頭いてー。
どうせナマエもそうだろう。普段は俺がいれば(いない時は知らん)真っ先に顔を洗いに行くのに、今日はどうにも元気が無さそうだ。
「ずっと気持ち悪い」
「俺も」
「ケーキ食べたい」
「お前の胃袋どーなってんの」
痛い。
白い足が俺を蹴る。
子供が駄々をこねるみたいに軽く何度も繰り返される衝撃は、そんなに嫌いじゃない。
無視してテレビをつけると昼のワイドショーがやっていて、他に見たいものがあるわけでもなしそのままにしてリモコンを投げる。
「あー、悟浄またカーテン閉めないで寝たでしょ、眩しくて画面全然見えない」
「元はと言えばお前が開けるせいだろ、ずっと閉めとけよ」
「だって太陽好きなんだもん」
さっき「眩しくて画面見えない~」とか言ってた口がよく言うぜ。
閉めて閉めてとうるさいから仕方なく立ち上がってカーテンを引いてから振り返ると、ナマエと目が合った。
「なんだよ」
「やっぱ太陽に当たると綺麗な色だね、髪」
「はあ? 知らねーよ」
そういやこいつは自分の髪のことってか自分の血筋のことどー思ってんだろう。初めて会った時も、紅い髪を綺麗と言った。
太陽に当たる紅い髪とやらを見てみたくてカーテンをもう一度開ける。
太陽に照らされたナマエの髪は暗がりで見る血溜まりみたいな色ではなく、本当にビー玉みたいに「綺麗」としか言いようのない色をしていた。
「眩しいなあ、もう」
「綺麗だな」
「……こっち来て」
カーテンは開けたまま、と言われた通りにして再びナマエの隣に向かうと、腕をひかれてソファにふたりで寄り添った。
ナマエは俺よりも長いその髪と一緒に俺の髪を掴んで太陽の光にかざす。
「いつもは人殺した後みたいな血の色してるけどさ」
さらりと“血”と言ってのけたことにぎょっとする。しかも人殺した後って。
髪の色は気に入ってるような感じだったから、てっきりもっと綺麗な物でも連想しているものだと思っていた。
ナマエは髪を掴んだのとは反対の手を太陽に向かって伸ばす。
「太陽に当てると綺麗でしょ。死んだ血は真っ黒だけど、体の中に流れる血はこんなに綺麗なんだよ」
「……お前の手ぇ白すぎな」
白い手の中に透き通るオレンジ色の線が見える。太陽に透かせば血管が見えるなんて初めて知った。
ナマエが掴んでいる髪はどれが俺のでどれがナマエのか分からない。同じ色。光が透けていつもよりずっと明るく綺麗な紅を放っていた。
「綺麗な色ねぇ、って、お母さんがいつも言ってたんだ」
「へえ」
「あ、うちはお母さんが妖怪だったの。多分。小さい頃に生き別れちゃったからあんまり覚えてないんだけど、綺麗な色ねぇ、って言われたのはずっと覚えてる」
“両親がいない”
っていうのは、生き別れって意味か……
俺の兄貴も一体どこで何してるやら。
それ以来、こいつもひとりで生きてきたのだろうか。小さい頃に生き別れてよく今まで生きてこられたものだ。
「ぶっちゃけこの髪と目のせいで嫌な思いすることもいっぱいあったけど、でもこうやって見るとさ、綺麗な色ねぇ、って私も思うんだよねえ」
「……そだな」
「だから私、悟浄の髪の色、大好きだよ」
なんか気にしてるみたいだけどさあ、と、謎に気使う態度で話しかけくるナマエにムカついてソファから立ち上がると、俺に寄りかかっていた白い体がゴロンと転がる。
「おいおめかししろよ、おめかし」
「なんで」
「デートしようぜ」
「はあ? 頭痛いんですけど?」
さっきの態度はどこへやら、随分と嫌そうに不満を吐き出すナマエをよそに、洗面所に向かって歯ブラシをふたつ取ってきた。
ピンクの方を差し出して半ば無理矢理握らせる。
「たまには太陽の下を歩こーぜ」
「それ前から私が誘ってたのに」
「そーだっけ?」
「悟浄のバカ」
「うるせ」
ふたりで歯ブラシをくわえて髪を結う。こうして毎日のように同じ髪型をして並んで歯を磨いているのは実に不思議な気分だ。
大きな枠で“同類”と一緒に暮らす日が来るなんて今まで想像もしたことが無かった。第三者の目線でこの髪とこの眼を「綺麗」と思える日が来るなんて、考えもしなかった。
俺の血を疎むことがこいつの否定に繋がるかと思うと、安易にそうも言えやしない。
太陽に自分の手をかざしてみると、確かに俺にも血が流れていた。