立派なのか駄目なのかと聞かれたら、それはもう立派な駄目人間だと思う。
親に紹介なんて絶対に無理。紹介する親もいないし、まあそれはいいんだけど。
今日も私をほったらかしにして、メスを流しにクラブに行った。治安の悪い場所にあるそのクラブは、私は立ち入り禁止だそうだ。
行きつけの薄汚いバーに見張り役の弟を付き添わせて、いつものようにふたり酒だなんて、私の彼はメルルなのかダリルなのかわかったもんじゃない。
「メルルってさあ、すぐ妬くよね」
「んな話聞きたかねえよ」
ダリルは酷く不愉快そうに眉を顰めてロックグラスを傾けた。
私とメルルの帰る家は同じだけれど、外で過ごす相手はダリルの方が余程も多いのではと最近気づいてしまった。
メルルがなにか良からぬ仕事をしている時は大抵私はダリルと一緒にいる。ダリルもかわいそうに。
いつものウィスキーといつものナッツ。メルルの行きつけだったはずのバーも、すっかり私たちの行きつけになった。
「ダリルには妬かないのかな」
「はあ?」
「こんなにふたりで一緒に放っといてさ、間違いがあってもおかしくないよね」
「……バカじゃねえのか」
ぶっきらぼうに言い捨てるダリルに、メルルの面影を感じた。
本当によく間違いが起きないと思う。
それはダリルがどうこうではなくて、私の問題である。今この瞬間も、本当のことを言うと寂しくて仕方が無い。早く会いたいし、ずっと隣に居てほしい。ろくでもない仕事ばかりして心配ばかりかけないでほしい。
その間私はずっとダリルと一緒にいる。
ダリルもダリルで立派とは言い難いけれど、それでもメルルよりはマシな生活をしている。
薬だってやらないし、押し付けられた私を放ってどこかに行くこともない。
「……お前は兄貴でいいのかよ」
「どういう意味?」
「あんなクソ野郎でいいのかよ」
「クソ野郎」
思わず笑ってしまった。
たしかにクソ野郎だ。彼女を放ってまで麻薬を売りに行ってるんだもの。
売上がよければ上機嫌で帰りざまに酒を煽ってそのままメス吸って抜けるまでセックスだ。我ながら酷い彼氏だ。
「薬抜けるまでセックスするのに付き合うのは大変かも」
「そんな話しなくていい」
「あんなに気持ちよさそうにしてるメルル見ると同じ景色を見てみたいと思ったこともあるけどね」
「、おい」
「してないよ、私は吸ってない」
「……ならいいけど」
血相を変えて突然手を掴まれた。
自分だって薬を売っていたくせに、なんでそんなに怒るのだろうか。
思えばメルルにもまったく同じ反応をされた。ベッドで甘えながら私にも吸わせてと言ってみたら、キメてるくせに怒り出して驚いた。メルルは吸わなくたって良くしてやるから安心しろよと言って、その日は一層激しかったものだ。
メルルのことを思い出したせいで、また寂しさが募る。
「なんで兄貴の女になんかなっちまったんだよ」
「え」
「お前といるとイライラする」
「やだ、やめてよ」
「兄貴の話なんか聞きたくねえんだよ、」
ひとつも目を合わせようとしないのに掴まれた手はそのままで、むしろその力はもっと強くなった。
ダリルはいつも悲しい顔をしている。その顔は、メルルが時折見せる表情にとても良く似ていた。
「お前は馬鹿だ」
「なにそれ」
「普通の女は兄貴なんか好きにならねえんだよ、俺とだって一緒にいない、こんな場所にも来ない」
「……」
「兄貴も兄貴だ、俺だったら」
握られた手が痛い。乾燥気味の手のひらにじんわり汗が滲む。
ギュッと握りしめるダリルの手を振り払うことができなかった。
「自分の女を他の男に任せたりしない、こんなに長時間、何度も」
「ダリル」
それから何も喋らなくなったダリルのその手を握り返す。
残酷な私を見て、ダリルはただ無言だった。