ダリル|When You Wish upon a Star

「書けた?」
「そんなすぐに思いつかねえ」

ナマエに紐がついたチケットみたいな細長い紙を渡されて、願い事を書けと言われて小一時間。
一向に思い浮かばず、ナマエが隣で待っているのが段々申し訳ない気持ちになってきた。窓辺にはガーデニングの店だか花屋だかよく知らない店で買ってきた細長い葉の観葉植物の鉢植えが置かれて、さっきナマエが書いていた紙が吊るされている。

「ところでこれはなんの儀式だ」
「たなばた」
「なんだそれは」
「何って言われると難しいけど……」

あれこれ説明されたもののよく分からなかった。
織姫と彦星という宇宙人が願い事を叶えてくれるらしいが、日本人はUMAに願い事を託しているのだろうか。変わった民族だ。

「織姫と彦星は1年で七夕の日だけ会えるんだよ」
「会いに行かないのか?」
「2人の間には天の川が流れているから簡単に会いに行けないんだって」

UMAの恋愛事情にはあまり興味が無いが、ナマエが楽しそうに話すものだからつい聞いてしまう。
ともかくその織姫と彦星とやらに願い事を聞いてもらうために、これを書かなければいけないようだ。

「本当になんにもないの?」
「いや、」

あるにはあるが。
どれにしようか悩んでいる。我ながらずいぶん子供らしい悩みで呆れる。でもこの紙切れ1枚に書けというのも意地が悪い。
どうせ何千何億の願いを聞くなら俺が2つ願おうが3つ願おうが構わねえじゃねえかと思う。

「もー、ダリル時間かかりすぎー」
「急に言うお前が悪い」
「だって七夕は今日だもん、私ご飯作るからそれまでに書いてよね!」

ナマエが俺の隣からどいたのをいい事に、鉢植えの草にぶら下がるナマエが書いた紙に手を伸ばす。少しは悪いと思いつつもその願い事を盗み見た。
俺が馬鹿だった。日本語で書いてあるおかげで全く読めない。
俺が書く英語は読めるくせに、俺はナマエの願い事も読めないのか。

舌打ちをして紙に向き直る。手元でペンを回すのも飽きてきた。
そろそろ真剣に書くか。
なんだかペンを持つのも字を書くのも久しぶりで、俺の字ってこんなんだったかと妙な違和感があった。
書き上がった紙に結ばれた紐をナマエの紙の隣に引っ掛ける。ピンクとオレンジの紙が緑に映えていて、まあ見栄えとしては良いものだ。他にもナマエが飾り付けたクラゲみたいなのもぶら下がっていた。

「できた?」
「ああ、あそこに吊るした」
「上出来上出来、ご飯食べよう」
「おう」

本当はそめん?ソーメン?が良いとかなんとか文句を言っていたが、結局糸みたいなパスタにしたらしい。
和風のものでも出してくるかと思ったら、普通に冷やしたトマトとバジルとチーズのパスタだった。チーズは丁寧にも星型をしている。

「星?」
「理由を聞かれると困るんだけど、とにかく七夕と言えば星なのよね」
「ふーん、器用だな」

ふたりで“イタダキマス”と言って食事を始める。
話題といえばもっぱらたなばたのことで、よく聞いてみてもやっぱりよく分からなかった。神に祈ったり、星に願ったり、そういうことだろうか。

「なんて書いたの?」
「ナマエと一生幸せでいられますように」
「ッゴホ、っは、」
「おい大丈夫かよ」

突然むせたナマエに水を渡す。
心配で様子を伺うと、耳の先まで真っ赤にして、らしくもなく動揺していた。たまにははっきり言ってやるのも悪くないな。
まさかUMAに感謝する日が来ようとは。過去の俺に言っても絶対に信じたりしないだろう。

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