ダリル|馬鹿

※若干(当社比)のキャラ崩壊有り

この感情になんかしら名前をつけるとすれば、それはジェラシーというやつだろう。多分。

「いやぁ、えへへ…… そんなことないです」
「照れることないのに、キミのボーイフレンドが羨ましいよ」
「やだもう、えへへへへ」

チッ!!
カウンターの端で繰り広げられる胸糞悪い光景に、俺は何度舌打ちをしたかわからない。ついでに何杯ショットを飲み干したかもわからない。
追加の酒を頼んでもあいつはカウンターであのクソ野郎に媚を売るばかりで、いつもはろくに仕事もしないジジイが酒を寄越しやがるのがとにかく気に入らない。ジジイもジジイで俺が不機嫌と知るや否や酒を置いたらそそくさとグラスの手入れをし始めやがる。
まったくどうしようもない店だ。
クソ客はかれこれ延々30分はナマエに張り付いている。見ない顔からして、常連ではないはずだ。なにナマエに目つけてやがるんだ、目ん玉腐ってんじゃねえのか。子供みたいな顔と体はとてもセクシーとは程遠く、一発やるにしても趣味が悪すぎる。

「初めて言われました」
「えっ? キミにキュートと言わずにいられる人がいるの?」
「やだもう、からかわないでください、へへへ」
「その笑顔をずっと見ていられたら幸せだなあ」

ぶっ殺す。
という感情しか湧いてこない。
せいぜい犬猫と同等の“かわいい”レベルの女に、初対面(かどうかは知らねえが)でよくあんなことが言えるな。なんだあのクソ客。イタリア人か? 濃い顔しやがって腹が立つ。よく見れば俺よりも随分と華奢げな体つきで、とりあえずぶん殴れば簡単に潰せそうな相手ではある。
舐めるように酒を飲んでからチラリとナマエを盗み見ると、一瞬目が合った。目を見開いて明らかにこちらを認識したかと思えば、急にそわそわしてクソ客との会話もしどろもどろになり始めた。
……まさか俺の存在に今気づいたと言うのではなかろうか。
ナマエは慌てて店主のジジイに耳打ちをすると持ち場を交代して俺の前に立つ。目を細めて見つめてやったら、それはそれは気まずげに「いらっしゃい」と馬鹿みたいな一言を呟いた。

「ツラ貸せよ」
「えっ、いや、仕事中だし」
「……おう、じいさん、こいつの今日のバイト代な」
「えっ!?」
「ははは、悪いね、ディクソンさん。ナマエちゃんお疲れさま、明日もよろしく」
「え、えっ!?」

適当にポケットに入っていた150ドルをカウンターに置けば、ジジイは簡単にナマエを手放した。
そもそも週末にすらこれしか客が入らないようなバーでナマエが働けることが間違っている。ジジイが150ドルでナマエを売るのも当然のことだ。
カウンターの奥でうろたえているナマエを睨むと、渋々といった様子でエプロンを外してやっと帰る支度を始めた。ついでにあのマカロニ野郎を見てやったら思いっきり俺を睨んでやがる。馬鹿なやつだ。

「ちょっとなんで急にこんな」
「来い」

ナマエの腕を引いて人目につかない路地に回り込む。少し早足で歩きすぎたようで、ナマエは息を上げて壁に寄りかかった。

「ねえ、もしかして怒っ」
「お前は俺を勘違いしていないか」
「……は?」

ナマエの顔の横に手をつくと訝しげな顔つきで俺に視線をよこす。
少し睨みつけてやったらすぐに大きなため息をついて腕を組んで、仕事だからなんだのかんだのと言い訳じみた事を言いだしたが、まるで耳に入らなかった。
やはりこいつは俺を勘違いしているのでは。

「うるせえなそんなこと聞いてねえよ」
「なっ、な」

反対の手で強引に顎を掴み上げると焦ったように俺の腕を叩いてきたが、今更何を抵抗しようというのだろうか。

「あの、いや、ごめっ、ん…… っ、ふ」

あまりにも面倒くさい態度を取りやがるせいで荒っぽくなってしまったお詫びもかねて、できるだけ優しくキスをした。まあ、マカロニクソ野郎への当てつけの意味が殆どだけども。
ひとしきり柔らかい舌を楽しんだあとにそっと唇を離すと一丁前に女の顔したナマエがいて、優越感に浸る。
何度かキスを繰り返すごとにモヤモヤした気色悪い感情が解けていくのがわかった。

「毎日俺に笑ってくれよ、独り占めしたいんだ」
「え」
「愛してる、ナマエ、」
「っ、ん、……だ、ダリル」

壁から引き剥がすように抱きしめて頭を撫でる。
こうして優しく扱ってやるのなんてどれくらいぶりだろうか。 ……記憶が定かなら最初からあまり優しく扱った覚えはないかも知れないが。
まあ、今日くらいとくと思い知ればいい。俺はあのクソ男のような軟弱なことが言えないんじゃない、言わないだけだしやらないだけだと。
羞恥心なんかひとつもないし、なんならもっと“恥ずかしいこと”を言ってやることだってできる。

「よう、満足したかよ」
「なっ、ちょ、ちょっと!」
「ああ、言っとくけど嘘はひとつも言ってねぇよ」
「あっ…… あ、そう」

さっきまでの威勢はどこへやら、萎れた花のようにしなだれるナマエを見ていると出会ったばかりの(俺に怯えていた)頃を思い出すようだった。
今じゃ喧嘩で俺に向かってリモコンぶん投げるくらいの乱暴者だというのに。なんで毎回俺が謝らなきゃいけないのかもわからない。ナマエが痩せないのは俺のせいじゃない。
つい最近した喧嘩を思い出してモヤッとしたものが頭をかすめたものの、腰に巻かれたナマエの腕がぎゅっと締まり、全部どうでもいいことに思えた。

「ナマエ、強引に連れてきて悪かった、戻るか?」
「戻れるわけないでしょ、なに急に優しくなって、怖いし恥ずかしいしなんなの」
「言われてみたかったくせに何言ってんだ」
「バカ!! もう帰るから!」

勝手に帰るような口ぶりでちゃっかり俺の手を引いて歩くナマエに歩調を合わせて歩き出す。
ナマエのかわいい所はこういう所だろうが、あいつはなんにもわかってねぇな。マカロニ坊やに嫉妬した俺が馬鹿みたいだ。
ナマエ、と声をかけてぶっきらぼうに振り向いた所にキスをする。また何か文句を言いながら顔を真っ赤にしてそれでもまだ俺の手を離さないナマエが愛しくて、帰宅後のことを考えずにはいられなかった。

「ねえ、あの、ダリル…… 私はいつものダリルが好き……」
「俺はいつもナマエを愛してる、俺のかわいいピーチパイ」
「バカ! バーーーーカ!!」
「(ちょろい女だな)」

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