DEAR 悟浄|リバース

「ロン、タンピンドライチ」
「ぎいいいい! もうやめる!」

久々に麻雀したいという話になって、その辺の暇人を誘って賭けナシ麻雀をした。その結果がこれだ。ナマエは発狂にも似た悲鳴をあげると半泣きになりながら俺を睨んだ。
付き合ってくれた二人に軽く謝ってナマエを引きずるようにして帰宅し、冷蔵庫にあった缶ビールを二つ開ける。

「……あのさ、弱くね?」
「弱くない」
「いくら東風戦だからって4連敗はねーわ」
「負けてない」
「負けてっからな?」

軽く乾杯(ナマエは完全に負けているが)をしてビールに口をつけた。謎に意地を張るナマエは悔しそうに眉間に皺を寄せてそれを一気飲みする。これ悪酔いするやつだわ。
後始末の面倒臭さを考えて、俺も泥酔するふりを決め込むことにした。
それにしてもあんな雑魚みたいな実力だったとは。そのわりにイカサマのスキルだけは今まで見たことないくらい鮮やかで、未だに見破れる気がしない。
どういう育ち方したらこんな歪んだスキル持ちになるのかまるで理解できない。

「つーかその実力でよく麻雀で稼ぐ気になったな」
「私のイカサマ見抜けなかったくせに~」

ナマエは突然水を得た魚のように偉そうに顎をあげてニヤニヤする。なんだこいつ。まあ自信を取り戻したならよかったけども。
こいつがうちに住み着いて数ヶ月、あの日の印象からすれば別人かと思えるようなことがいくつもある。
こんな風に表情豊かにいろんな顔を見せることもそのうちの一つだった。

「イカサマだけ一丁前でもな」
「でもイカサマだけで生活していけるのよ?」
「……レイプ寸前生傷まみれで保護されててよく言うぜ?」
「生きてんだから良いでしょうよ」

この世のすべてを諦めたような目をしていたくせに、実はこうやって異常な前向きさを持っている。
この裏側に何があったのか、俺はまだ聞いたことがない。
早々に1本目のビールを飲み干したナマエは棚からドライジンのボトルとグラスを取って冷凍庫からグラスに氷を山程入れた。

「悟浄もいる?」
「いる」

もうひとつ同じものを作り、氷が溢れんばかりのグラスがふたつ、テーブルに並んだ。

「氷好きだねぇ」
「氷食症っていうんだって」

山から一欠片の氷を取って頬張り、ガリガリバリバリと音を立てて噛み砕く。一度真似してみたものの、氷はどこまでも氷であって、なんの良さもわからなかった。

「お前どこで麻雀覚えたの」
「前一緒に住んでた人に覚えさせられた」
「何、彼氏?」
「違う」
「男?」
「男」

彼氏じゃない男と言えば父親か兄弟か、それともパパ的な何かか。
強烈な出会いと言い、ギャップの多さと言い、どこか掴みどころのないナマエからその生い立ちの背景を盗み見ることは不可能に近い。
俺の想像がこいつの人生に及ぶことは無いんじゃないだろうかと思う。

「じゃあ男と住むの2回目かよ」
「え、どうだろう、何をもってして1回っていうの?」
「……聞いた俺が馬鹿だったよ、俺がセカンドバージンて事にしといてくんない」

そりゃそーだよな。身寄りの無い女が身一つで生きていくのはそんなに簡単な事じゃない。それもついこの間やっと巣立ったような年頃の女が。

「ああ、でもねでもね、帰りたいなと思ったのはここが初めて」
「じゃあ俺でロストバージンな」
「そうかも」
「初めてが俺でいいの?」
「キモーい」

げへへ、と下品に笑いながらグラスを煽る。打ち解けてみるとこんな風にだらしなく笑ったり、変に距離を置いたような言葉遣いじゃなくなったり、それなりに人間らしい所もあるのだ。

「……俺ぁ嬉しいぜ」
「何が?」
「俺なんかン所に帰って来たいなんて思ってくれてさ」
「んー、やだなぁ急に」

酒のせいか頬を赤く染めたナマエはニマニマ笑って左右に頭を揺らす。
かわいいのよな、こういう所が。大きな瞳を眠そうなくらい細めた笑顔は、あどけなさが残って子供っぽさすら感じた。
人を守りたいなんて思える日が来るとは思わなかった。しかも女だぜ?
女として認識しているかと言われればビミョーな所だけど。それだって意識しないふりをしているだけだし。今もチラチラ視界に入る短ぇパンツから伸びた白い足だとか、キャミソールから覗く胸元の膨らみだとか、そんなもの直視すればすぐにおっ勃つし間違いなくヤれる。

……もしナマエとセックスしてしまったら、その後俺はナマエの事を今と同じくらい大切に思えるだろうか?
女を好きになって愛して守って家族になって一緒に死んで、そんなプロセス、俺には踏めるだろうか?
ああ、情けないことに、自信が無い。

「いつまででも好きなだけ居てくれよ」
「……うーん」

相変わらずニマニマしているナマエは、同意とも拒否とも取れない中途半端な返事をしてテーブルに顔を突っ伏してしまう。
テーブルの上に散った俺と同じ色の髪をすくって頭を撫でると、ナマエはかわいい声で「おやすみ」と言った。

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