「なんで!? いつ!? 三蔵って、すっ、好きとか言うの!?」
「ちょっと落ち着いてくださいよ、悟空」
「あー聞きたくねえ…… その話、俺抜きの所でできねーの?」
「悟浄も最初くらいまともに聞いたらどうです」
隣で「今行ったらバレないって言ったじゃん」といった風の、実になんの意味もないふてくされた子供のような表情を浮かべるナマエの視線を一身に受け、それを受け流す。
既にバレバレじゃねえか。
睨みを利かせた先には、俺の視線など取り合う気もなく普段通り余裕の素振りをした八戒が大皿料理を取り分けていた。
「なんだって良いだろ、なんも変わりゃしねえよ」
「好きって言ったの!? ねえ、ナマエ!!」
「黙れ猿」
「マジで胸焼けすっから余計なこと訊くなって」
青ざめたゴキブリ野郎だけが唯一まともに見える。珍しいこともあるものだ。
ここ最近で一番煩い悟空の口に肉まんを突っ込んでやっと黙らせた。のに、一瞬で飲み込みやがった。
「あ! 部屋割りとかって三蔵とナマエがずっと一緒なの?」
「そういえばその辺どうするんですか?」
「私に聞かないでください」
馬鹿みたいにわかりやすいこいつの考えていることなど手に取るようだ。
いつも俺と一緒は悟空に申し訳ない、かといって悟浄たちとずっと一緒は俺に申し訳ない、とはいえ申告制で俺と一緒にすると今日セックスしますと宣言するようで恥ずかしい、大体そんな所だろう。
「お前が決めろ」
「ええ、私…… あ、じゃあ私をまわすってのはどう?」
「ブッ!!」
「ちょっと汚いですよ悟浄」
「スマン、言い方がアレで」
盛大に飛び散った悟浄の何かがこっちの皿まで降りかかる。汚ねえ。さりげなくその皿を悟空の方に押しやると、皿なんか見もしないで口に放り込んでいった。
「交互にさ」
「交互にな、わかったわかった」
「ねぇ好きって言った?」
「しつけーな猿、その質問やめろ、俺は今新婦の親父みてーな気分なんだよ」
「神父のオヤジなら祝福してやれよな」
「そっちのシンプのオヤジじゃねーよバカ猿」
ああ、うるせえうるせえ。
とはいえさっきまで注目を浴びる雰囲気だったのが徐々にいつも通りになり、ナマエの表情も和らいだ。
最近食欲が無さそうで心配していたが、今日は箸が進むようで安心する。
「はーあ、それにしても三蔵に攫われるとはねぇ」
「悟浄そればっかりじゃないですか」
「はぁ…… まあでも顔は整ってるからなぁ」
「おい、偉そうに評価すんじゃねぇ」
「酒だ、酒を飲もう」
「無視すんなクソゴキブリ河童」
思えばこの時に多少止めておけば良かったのだ。放置などしておかなければ、1時間後の今、死ぬほどダルい思いをすることをせずとも済んだのだろう。
「三蔵よう、なぁ、おーい」
「……」
度数の高い酒ばかり急ピッチで飲んだ悟浄は泥酔して俺に絡み酒をかましていた。
ナマエが手馴れた様子で水を飲ませたり頬や腕をひっ叩いて酔い醒ましさせようとしているが、まるで意味が無い。
「ねー、俺もう帰る」
「あ、じゃあ僕も先に失礼します」
「えっ帰っちゃうの!?」
「お前も帰れ」
「えっ」
戸惑うナマエを八戒に押し付けて無理矢理帰す。こんなシチュエーションで俺が残ってやるなんて、今後一生一度足りとも有り得まい。酔いが醒めた暁には覚悟しておけと思うものの、ほんの僅か、こいつに同情する気持ちが無きにしも非ずではある。
「お前わかってんのか、あー? 泣かせたらぶっ殺すぞ、うう……」
どの口が言うかと脳天をブチ抜きたい衝動を抑えつつ、ああ、と短く返事をした。
「俺のかわいいナマエ……」
「余計な手出ししたら容赦なく撃つぞ」
「いつも撃ってんじゃねえか、生臭坊主! 言っとくけどなぁ! ナマエは撃つんじゃねーぞ!! オイ…… はあああ…… ねぇ、いつかお前に抱かれんの? もう抱かれたのか? 嫌だ……」
情緒不安定すぎて面倒くせえにも程がある。
半分以上無視しているにも関わらず、この調子で延々とくだを巻き続けている。一体いつまでやるつもりだ。
「頼むよ三蔵、約束してくれよー、幸せにしてやって」
「そんな当たり前のこと約束するまでもねぇだろ」
「カッコイイ……」
「殺すぞ」
ため息をついて立ち上がる。
一応最後まで付き合ってやるつもりだったが、終わりも見えなきゃ面倒くさいことこの上ない絡みにも飽きてきた。
いい加減帰ろうとした時、腕を掴まれ見下ろすと、情けない顔をした悟浄が珍しく俺の目を見た。
「なあ三蔵、マジ頼むよ」
「わかってる」
「あいつの泣ける場所になって」
「もうなってるから安心しやがれ」
「はは、……よかった」
一瞬眉間に皺を寄せ、その後は顔を伏せてしまってわからなかった。
「先に帰るぞ、程々にしとけよ」
「うー。八戒呼んで」
人をパシリにすんじゃねぇ。
いつもならそう言ってた。
宿に戻り八戒に声をかけると、面倒くせえ呼び出しにも関わらず少し嬉しそうに出ていった。相変わらず物好きなやつだ。
部屋に残されたナマエが心配そうにしていて、どうしたもんかと思いつつ頭を撫でてやる。
「大丈夫?」
「お前をよろしくだとよ」
「悟浄……」
何が「悟浄……」だ。
若干表情を綻ばせたナマエの頬を掴んで歪にさせてやった。
「俺と居る時に他の男の事考えてそんな顔すんじゃねーよ」
「ちょっと良いシーンだったのに……」
「黙れブス」
俺の手のせいで不自然に突き出した唇に自分のそれを重ね、しばらくしてから解放する。
今更何が恥ずかしいのか知らんが、紅潮しながらこちらを睨むナマエは少しかわいいと思った。
「はいはいお邪魔しますよ」
大して時間も経っていないというのに悟浄を背負った八戒が戻ってきて、死体のようなそれをベッドに転がす。
「さてと、コーヒーでも淹れますかねぇ。僕のでよければ三蔵も飲みます?」
「ああ」
「じゃあ全員分淹れましょうか」
「悟空呼んでくるよ」
「お願いします」
今日は随分と妙な一日だったように思うが、それもこうして“いつもの日”になっていくのだろう。
いつの間にかこいつらと旅するのが当たり前になったように。特別が当たり前に、当たり前が特別に。