キラキラした人たちから グループワークで使う物資の買い出しを頼まれて、いつものように断りきれずに引き受けた。
バイト、遅刻しちゃうなぁ……
なんて考えていたら、キラキラした人たちの中でもひときわキラキラしている可愛ひかるくんが「僕も行くね」なんて言うものだから、私は戸惑いと緊張で変な汗が止まらなかった。
「それじゃ、週末はどう?」
「え?」
「だってナマエちゃんは今日バイトでしょ?」
「なんでそれを……」
「えー、毎週同じ日にバイトしてるじゃん」
何言ってんの? とクスクス笑う可愛ひかるくんは、そこらへんの女子よりよっぽど女子らしくかわいらしく見えた。
あまりのかわいらしさにぼんやり見惚れていると、ハイ、と言ってスマホの画面を差し出され、そこにはLIMEのQRコードが映っている。
「え?」
「え、って、一緒にお出かけするんだから連絡先くらい交換させて?」
「あ、ハイ、すみません」
慌てて自分のスマホを取り出してQRコードを読み取り、友達登録をした。
プロフィールアイコンはオシャレな雰囲気の立体ラテアートのしろくまが乗ったコーヒーカップで、どこまでも女子力の高さが伺えた。一方私のプロフィールアイコンはというと、この間数千円つぎ込んでやっとの思いで獲得したプライスのフィギュア写真で、かなり焦る。だ、大学の友達なんて、友達登録する機会が訪れるとは思ってなかったし……
だけど可愛ひかるくんはそんなことまったく気にしないみたいに「ありがと」と言って笑った。
「また詳しく予定がわかったら連絡するね」
「ハイ」
「そうだ、待ち合わせ場所って駅前でも平気?」
「ハイ、大丈夫です」
「良かったー、助かる!」
それから何言かやりとりしたけどもう忘れてしまった。
ぼっちで過ごしているにも関わらず想像以上に認知されていたことやあまつさえ買い出しにお付き合いしてもらえるという事実が、私のショボいコミュ力の水槽でオーバーフローしていたのだろう。
キラキラしたお友達に呼ばれて、可愛ひかるくんは私に背を向けた。
そしていよいよ週末、待ち合わせまであと30分。あまりの緊張にもう駅前に到着してしまった。待ち合わせ場所で心臓を押さえる。
今日の服装、変じゃないだろうか……
あんなにかわいらしい彼の隣を歩くのが、こんな私で大変申し訳ない。いくら用事に付き合ってもらうだけとは言え、こんなのの隣を歩かせてしまうなんて、名誉に関わるのでは。せめて小奇麗な格好で不愉快な思いをさせることだけは避けたい。
「あ、ナマエちゃん、超はやーい! おはよう!」
「えっあっ、かっ可愛くん、おはようございます」
もう来たの!? 待ち合わせまでまだ20分以上あるのに。
そんな私の戸惑いを置き去りにするかのように、天使のような微笑みを浮かべて「ナマエちゃん、今日かわいいね」などと信じられない言葉を囁いた。
「なっ、は、あの、え!?」
「何その反応、面白いね。ていうか、待たせてごめんね?」
「いやっ、それはあの、私が早く来すぎただけなので」
「今度僕と待ち合わせする時は、遅刻するくらいでいいよ」
今度があるのか。ほとんど初めて会話したにも等しいあの日から、彼との会話は戸惑うことと驚くことばかりで、心臓が持ちそうにない。今まで聞いたことないくらいに大きな音を立てて心臓が血液を送り出していた。
どうにかその場を切り抜けようと立ち上がる。
「す、少し早いけど行きませんか」
「そうしよっか」
そこでようやく初めて可愛ひかるくんの服装を見て驚いた。
いつもみたいなキラキラふわふわのかわいらしいジェンダーレスなコーディネートではなく、パキッとしつつも爽やかでどこか親しみのある“男性”がそこにいたのだ。髪の毛は相変わらずのド派手なピンクなのに、それさえも男らしく見える。
そうして“男性”として意識してみれば、可愛ひかるくんのかわいらしい外見とは裏腹に実は結構がっしりした肩幅であったり、明るいトーンでは隠しきれない低くて落ち着いた声であったり、男性らしい所がいくつも思いついた。
「どうしたの?」
「すみません、いつもと違って見えたので、その、驚いて」
「コーデ変えてみたんだけど、 似合ってないかな?」
「いえ! 滅相もない!! とってもお似合いです!!」
「だよねー、今日は結構自信あるよ」
私の前でくるりと一回転して見せた可愛ひかるくんは、どの角度から見ても完璧にかっこよくて、畏れ多すぎて視界に入れるのもはばかられるくらい。
だけどそこで目をそらすのも失礼な話で、それなら私はただ見惚れて釘付けになるくらいしか、この気持ちを表現する方法を知らなかった。
「こ、この後デートとかですか、すみません、私なんかに」
「何言ってるの? 今日はナマエちゃんにかっこいいって思ってほしかったんだよ?」
「えっ!!!!」
耳を疑うようなセリフに、ついに私は思考どころか行動すら止まってしまって、立ち上がったまま動けなくなる。
違うんです、嫌とかじゃないんです、不愉快な思いをさせたいわけではなくて、ただ戸惑ってしまって。勘違いしそうになるから。
素直にそう伝えられたらいいのだけど、ただ彼を見つめてダラダラと冷や汗を流すしかできなかった。情けない。
「ほら、行こ!」
可愛ひかるくんは固まった私の電源を入れるように手をとって歩き出す。
嘘でしょ!?
なんて戸惑ってる暇なんかないくらい、このジェットコースターは止まりそうにない。自分でストップをかけなければ、本当に勘違いしてしまう。それに心臓が何個あっても足りないから。
「ごめんなさい、勘違いしてしまうので! それにあの、誰かに見られたら…… その、可愛くんにもご迷惑をかけてしまいますし」
「勘違いしてもいーよ」
ニコッ
なんて音が聞こえてきそうなほど、整ったその顔がかわいらしく歪んだ時、私の心臓がまたひとつ使い物にならなくなった。