潔くんが逆ナンされる

な、なんだろう、もう生きてるのがつらい……
さっきから俺のことを穴が空きそうなくらい見つめてくる人がいる。大学のカフェスペースは人もまばらで、俺と彼女を隔てるものはなにもない。せっかく人がいない場所を選んだのに、まさかそれが災いするとは。
それほどまでに見つめてくるわりに話しかけてくる素振りもなく、俺はその視線から目を逸らすことに必死で飲みかけのコーヒーを早く飲み切らなきゃと焦っていた。

「はあ……」

なんなんだろうあのひと……
とにかくものすごく見つめてくるものだから、チラッとそちらを窺い見ようとしたところでバッチリ目が合ってしまい、あまりの気まずさに思いっきり顔を下に向けた。

「あの!」
「……」
「ねえねえ!!」
「……あ、え、お、俺ですか」
「そう、ねえイケメン!」
「えっ」

突然話しかけられることも然ることながら、その内容にも理解が追いつかずに頭が真っ白になってしまう。
話しかけてきたのは当然さっきの彼女だけど、まったく心当たりがない。どうしたらいいんだ、どうしよう。

「LIME交換しよ」
「は、えと、な、何故……?」
「あのね、ナンパしてるんだよ?」
「ナンパ……」

もっと、こう、キラキラした人とか、俺よりも目立つ人やかっこいい人はたくさんいるのに、なんでよりによって俺なのか。
大体この人誰なのかな……
よく知らない人と連絡先を交換するのなんてできれば避けたいけれど、俺が断ってこの人が傷ついたら申し訳ない。この人だって随分キラキラ側の人だし、俺なんかが断るのはおこがましいんじゃないか。

「君の名前はなんですか? 私の名前はナマエです」
「あ、……宝生、潔です」

嬉しそうな笑顔を浮かべて丁寧に自己紹介をされ、流れで名乗ってしまった。なんというか、勢いが犬っぽくて。つい。
悪い人じゃなさそうということはわかる。

「潔くん!」
「はい」
「潔くん……」
「はい、なんでしょうか」
「へへ、呼んでみただけです。君の名前が知れてよかった」
「はぁっ、あ、はい」

へ、変な声が出てしまった! 気持ち悪いやつだと思われた。絶対。
だってこの人、が、えと、ナマエさん、が、いきなり変なこと言うから。しかもそんな眩しい笑顔で。
直視できないほどキラキラしているのに、視線が逸らせず見つめ合ってしまう。

「潔くん、LIME交換しませんか」
「え、いや、あの、あまり知らない人とは、も、申し訳ないんですけど」

精一杯勇気を振り絞ってその一言を告げると、彼女はそれはもう一目見てわかるほどに落胆した様子だった。やっぱり傷つけてしまったろうか。申し訳ないけど。だけど、でも。
どうやって彼女の気持ちと俺の気持ちに折り合いをつけたらいいのかわからなくて適切な言葉を探していると、ナマエさんはやや上目遣いで俺を見た。

「それじゃ、仲良くなったら交換してくれる?」
「仲良く、なれますか、ね」
「そんなのもっと話してみなきゃわからないよ、次はいつここに来る?」
「え、っと、明後日……」
「そしたら私も明後日に来るから! 約束だよ!!」

ナマエさんは席を立つとテーブルの下で手汗をびしょびしょにした俺の手から小指を絡め取り、強引に指切りをして「授業があるから行くね」と言って手を振った。
当然俺は何もできないで固まっていた。

「あ、あの、すみません、なんで俺に」
「あはは! 超タイプなんだもん、好き! じゃあね!」

嵐のように去っていく背中を呆然と見つめていると、カフェを出た所で可愛さんと合流する姿が目に入る。やっぱり同じ人種の……!
こんな俺にそんな、あんな、言葉を向けるなんて信じられないけど、何のためらいもなく真っ直ぐにはっきりとそう言える彼女がとても眩しくて、感じたことのない痛みがチクリと胸を刺した。

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