愛のような|凶悪な悪い虫の正体は

暑い……
涼を取ると考えればまあ悪くない選択なのかも知れないが、真夏の屋外で野ざらしって全然涼しくないだろ、っていつも思う。
そもそもナマエが行きたいっていうから連れてきたっていうのに全然楽しそうじゃないし、賑わいもピークの真夏のビーチでただ二人で佇んで、本当になんでこんな所にいるのかわけがわからない。
申し訳程度に敷いたレジャーシートはもはや殆ど意味をなさず、砂浜がただひたすら熱くて尻が焼けそうだ。

「なあ、せめて海入ろうぜ」
「だめ、そこから動かないで」
「なんでだよ……」

既に小一時間は砂浜に座っている。いい加減暑いので海に入るか帰るかしたい。
それだってナマエは「やだ」しか言わないし、家を出る前にはあんなにはしゃいでいたのになんだっていうんだ。無職のくせに水着を新調しておきながら楽しみじゃないとは言わせない。
つーか喉渇いた。かき氷かなんか買ってこよう。朦朧としてきた意識を奮い立たせる。

「かき氷買ってくるわ」
「だめ!」
「えっ」
「立たないでよ、だめ!」
「なんでだよ」

っぶねー、中腰になった所で海パンを引っ張られて危うく公衆の面前で半ケツになる所だった。引っ張られるままに再びそこに腰を下ろす。
ナマエはオレと目すら合わせようとしないで膝に顔を埋めていた。
そんなこと言ったってなんのためにわざわざ海水浴場なんか来たんだよ。いい加減うんざりして来て、ちょっと嫌な顔をしてしまった。

「怒ってる?」
「怒ってないけど帰るか入るかしたい…… つーか、暑くて死にそう」
「……だってびっくりしたんだよ」
「はあ? 何が?」
「カイジ、そんなんじゃアナル掘られちゃうよ」
「……」

……何言ってんだこいつは。
潤んだ目で頭の痛くなるようなことを言い出したナマエをガン見すると、一瞬オレを見るや否や頬を赤らめてまた膝に顔を埋めた。そしてチラチラ横目で見ては声にならない声で足をバタバタしている。

「だって外でカイジの裸なんか見たことなかったんだから仕方ないじゃん!」
「は、裸じゃないし……」

この水着はお前が買ったんじゃないのか!
自分は裸同然のやたら布面積の狭い水着を着ているくせに膝上ギリギリまでのオレの水着を裸扱いするなんて信じられない。
と、突っ込みたかったが、どうにもそんな雰囲気ではない。
なんか、これ、照れてるのか…?
今までいつもオレに字のごとく飛びかかって襲ってきたナマエとは思えぬような恥じらいぶりに調子が狂う。
でもそんなことよりマジで脱水で死にそうだからビール… いや、せめてコーラでいいから飲み物が欲しかった。

「いや、オレ、掘られるとか無いしちょっと売店に……」
「ちょっとダメって言ってるでしょ!!」

今度こそ邪魔されないようにとすばやく立ち上がると、ナマエも慌てて立ち上がってオレが着させていたパーカーを脱ぎだした。
おいおい、やめろよ、痴女じゃあるまいしそんな水着晒してどうすんだよ。言えない言葉が脳内を駆け巡る頃、そのパーカーはオレの手元に押し付けられた。

「これ着なよ、そんな裸で歩いちゃ嫌だ……」

海誘ったお前が言う?
ていうかお前のカッコの方がだいぶヤバいけど?
改めて見ると酷い水着だ。布面積が狭いって言ったってもうちょっとなんとかあるだろ、布巻くとかなんか羽織るとか。自信があるのは結構だが、オレの身にもなれという話だ。そのパーカーがなければお前こそ今頃ナンパにとっ捕まってどこに居たかわからないぞ。

「は? 何言ってんだよ、海だぞ」
「そんなの関係ないじゃん、裸で歩くなって言ってんの! 掘られちゃうよおおおおお!!」

今にも泣きそうな声で絶叫したナマエに意識が遠のく。相変わらず気が狂ってるとしか思えない。
お互い様じゃねえか!
ていうかお互い様じゃねえよ、オレは男だよ、平気だよ!
心の底から叫びたかったけど、周囲の目が気になりすぎてナマエの口を塞いでその場を退散するのが精一杯だった。小さなレジャーシートが脇でかさばる。

「オレはお前が海行きたいって言うから……」
「だから…… 外でカイジの裸見たことなかったから想像してなかったんだってば」
「何をだよ」
「カイジの体がエロいってこと忘れてたの! スケベ! フェロモン!」
「スケベはお前だろ、変態!」

思わず口から本心が飛び出した。
レジャーシートと一緒に脇にあったパーカーの存在を思い出してナマエに無理矢理着させ、しっかりファスナーを首まで上げる。うん、これでいい。

「なんなんだよこの水着は! 痴女か! オレは男だからいいけどナマエはダメ!」
「痴女だよおおおお!!! カイジのちんちん勃たせるための水着だよおおおおお!!!」
「あっ」

なんでいつもオレの反応は間に合わないんだろう。ナマエと一緒にいるとオレがどんくさいのかな?と思うことも少なくない。
気がつけば両腕をひかれて思いっきりキスされて、発情したように口の周りをベロベロと舐められていた。いつも家で襲われる時とほぼ同じシチュエーションで、我が身の危機を感じる。

「っはあ、あのさ!」
「何、ホテル行こ」
「バカッ! 行かない! オレ、ナマエと一緒にいるのが一番危険だ!」
「危険じゃないよ、悪い虫から守ってるんだよ、カイジ~~~」

腕を絡ませて胸にすりすりと頬を寄せるナマエはちょっとかわいい。ほぼ襲われているのに、こんな風に愛のような気持ちを感じるのはオレがナマエに毒されている証拠だと思う。
パーカーを着せたのは良いものの、そのパーカーはオレのだからナマエが着るとぶかぶかで、裾から覗いた白くてふっくらした太ももが扇情的なのは罪だ。
結局いつものようにナマエに流される。
流されるけど、流されてるのは他でもないオレの意思だと思うと情けない。
チラッと目が合うとナマエが妖艶に微笑んだ。オレはこんなにも凶悪さと愛らしさを兼ね備えた存在をこいつ以外に知らない。

「はやく着替えてホテル行こ」
「……ハァ、」
「もう二度と海なんか来ない」
「……それオレのセリフだから」

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