「ほんと誘わなきゃよかったと思ったもん、その時」
「亜貴からその、抱きたいとかなんとか言ったってLIMEきてた」
「全部羽鳥のせいだよ」
おそろいのパジャマを着て、慶ちゃんちのベッドにうつ伏せに寝転がって、二人並んで私のスマホの画面を覗き込む。あきちゃん大好き選手権では本当に羽鳥が面倒くさくて、せっかくあきちゃんに愛を叫ぶ場所だったのに水を差されたようなきもち。
慶ちゃんに今日の出来事を報告すると、慶ちゃんは枕に顔を半分埋めるようにしながらこっちをじっと見ている。
「……ん?」
眠そうに細められるまぶたの隙間から覗くおっきな瞳から目がそらせずに、かといってどうしていいかもわからずに、条件反射的に首をかしげた。
「……あのさ」
「なに?」
慶ちゃんの瞳が揺らぐ。そして一呼吸置いてから、慶ちゃんはのっそりと起き上がって私の背中にぴったりと寄り添うようにして覆いかぶさってきた。
突然始まるじゃれ合いに心臓が跳ねる。
見た目よりずっと無骨でたくましい指が私の脇の隙間から潜り込み、スマホを奪って画面を伏せられてしまう。あ、今はスマホ触ってちゃいけないんだ、って思った頃には慶ちゃんの顔が驚くほど近くにあって、私のほっぺに慶ちゃんのほっぺがくっついた。
「あんまり抱くとか抱かれるとか、そういう話してほしくない」
「えっ」
あのメッセージが冗談だってことは慶ちゃんもわかってると思う。
まさかそんなこと言われると思っていなくて、戸惑い? ちがうな、動揺? なんだか不安になるような、あんまりよくない感じに胸が揺さぶられた。
「ナマエが亜貴たちのこと大事に思ってるのはわかってるけど。ていうか、そういうとこも好きだけど。……でもやっぱ、ナマエのこと抱いていいのは俺だけにして」
背中からぎゅーっと抱きしめられる。その力は決して強すぎず、私を包み込むような体温と体重と慶ちゃんの呼吸。脇から伸びている節くれ立った手が私の頬を傾け、なすがままになっている私の唇に慶ちゃんの唇が重なった。
胸元でもぞもぞと動く指先が私のパジャマのボタンを外し、その隙間から少し汗ばんだ手のひらが潜り込んで焦らすくらいゆっくりと胸の肉の上を這う。
「しないよ、慶ちゃんだけだよ」
「わかってる、ごめん。確認したくなった」
ぴったりと寄り添うのは下半身も例外でなく、私の太もものあたりに熱くて硬いものが当たっているのがわかった。
慶ちゃんが私にこういう反応をしてくれるってことがそれだけでただただ嬉しくて、芯から溶けそうになる。
「ううん、謝らないで。もっと確認して、私に触ってみて」
「ん」
「慶ちゃんだけってわかるまで触って」
自分から腰を浮かせると見計らったように手が伸びて、急いたように下着をひっかけた指がパジャマごと引き下ろした。こういうことは何度もしてるのに、素肌で慶ちゃんちの布団に触れる瞬間は未だになんだか恥ずかしい気持ちになる。
その気持ちを増幅させるのはいつも慶ちゃんの指だ。優しく、ゆっくり、確かめるように触れるものだから、いざ核心に触れる頃には我慢できない犬みたいになってしまう。そんなの恥ずかしいに決まってる。
「け、ちゃん」
慶ちゃんの顔が見られないのがもどかしい。
慶ちゃんは時々こうやって後ろから私を抱くことがある。私がこうやってもどかしいって感じるそれこそが理由かもしれない。顔を見られたくない時、後ろから抱くんじゃないかなって思う。
だからこそ余計に気になってしまうのだ。どんな顔して私を抱いてるんだろう、多分、その、嫉妬のような焦りに暮れる慶ちゃんの顔。どんな目で、どんな風に皮膚を歪めて、どんな表情を作っているんだろう。
想像すればするほど早く欲しくなる。
顔が見られないのなら、その感情をぶつけて欲しい。
「ナマエ」
くちゅくちゅと水音を立てていた指先が止むと、少し腰を引き上げるようにして間もなく、熱の塊が粘膜に触れて慣らすようにその場で滑る。
「慶ちゃんの意地悪、いれて」
「でも」
「早くちょうだい」
「……ん、痛かったら言って」
痛いわけがない。こんなにびしょびしょなのはいつも慶ちゃんのせいなのに。
案の定なんの抵抗もなく受け入れた塊は一番奥まで届いた。
「痛くないよ」
「はあ……」
ため息とも息継ぎとも取れる微妙な吐息が耳にかかる。その音が妙に色っぽくてぞくぞくした。
慶ちゃんの両腕が私の両腕に絡み、両手と両手の指を絡め合う。お尻に慶ちゃんの腰の骨の硬さを感じた。前にも後ろにも行けない。ベッドに縫い付けられているような、自由を奪われたその姿勢にとてつもない愛を感じる。
変態なのだろうか。変態でもなんでもいい。この体で慶ちゃんを受け止められるのが嬉しいだけ。
頑張って顔を後ろに向けるようにすると、慶ちゃんはそれに応えるようにキスをくれる。慶ちゃんのぽってりとした小さめの舌が私の舌に絡んだり、ちゅちゅと音を立てながら唇を吸ったり、慶ちゃんのキスはすごく優しい。
キスはすごく優しいのに、後ろから抱くときの慶ちゃんはいつも激しい。
リズムがどうだとか流れだどうだとかそういうのをすべて無視して、ただただ貪るように私の反応の良い所だけを突く。
そして声にならない声しか出なくなった私に言うのだ。
「ナマエ、っナマエ」
「ん、け、けちゃ、っううう、んっ、うう」
「ナマエ、愛してる」
私の名前を呼ぶ優しい声と、それに続く必死な声のギャップに調教されているのかもしれない。
その声を聞くと「離れたくない」って気持ちが高まってぎゅっと奥を締めながら果ててしまうのだ。いつも。熱っぽく涙をにじませて、そのまま慶ちゃんに突かれ続けながらはしたない声を漏らしている瞬間、多幸感に包まれる。
「はあ、っ、ん、あっ、あ」
「っ、ん、出す」
「慶ちゃん、だいすき、っ」
慶ちゃんの手がぎゅうっと強く私の手を握った。
ああ、だめだ、また果ててしまう。拠り所を探すみたいに慶ちゃんの手を握り返せば、後はふたりで駆け上るだけ。
お尻を広げるみたいにぐっと強く打ち付けられた腰は、限界までそこをぐりぐりと抉った後、一気に引き抜かれて腰のあたりにパタパタと熱い液体が降った。
「んう、慶ちゃん、すき」
「……さっきは大好きって言ったのに」
「だいすき」
「ん、俺も」
「慶ちゃんも言って」
荒い呼吸を整える慶ちゃんの小さな駄々っ子がかわいくて頬がほころぶ。
少し意地悪したくなって、断れない慶ちゃんにわざと言わせるように仕向けた。照れたように「好き」って言ってくれる慶ちゃんの顔も声も好きなのだ。
慶ちゃんが私の背中を拭ってくれた所で、せっかくだからそのかわいい慶ちゃんの顔でも拝もうかと振り返る。
「……俺は、愛してるってば」
ずるい……
照れるどころか最上級の慈しみを含んだ微笑みを浮かべた慶ちゃんは、そう言って私を撫でてキスをした。