誠さんのハロウィンパーティー

ハロウィンパーティーに行こう、と誘われたのはつい先日のこと。
人が多い所に行くのは好まないが、彼女が「ある意味スイーツ食べ放題」と中途半端な事を言うものだから、どんなものかと興味をそそりその誘いに乗ったのだ。
仮装が必須という条件だけは最後まで引っかかったが仕方あるまい。京介に相談してそれらしい衣装を見繕ったが、未だに似合っているのかどうかすらよくわからない。「マントを外せばそのまま外を歩ける」という理由で吸血鬼の格好をしているけれど、あまりにもベタな選択すぎたのではないかとずっと気がかりだった。
しかし実際に会場に来てみたらそんな心配はあっという間にどこかに吹き飛んでしまった。彼女が俺をここに連れて行きたいと思ってくれたことにも胸がじんわりと熱くなる。

「楽しかった?」
「ああ、今日はありがとう」

会場入りしてすぐに目に飛び込んだのは老舗や有名店、話題店に知る人ぞ知る名店、洋菓子から和菓子どころかスナックまで、よりどりみどりの菓子店・菓子メーカーが出店するブースの数々で、どの店も気合いの入った秋冬のスイーツコレクションを展示していた。
仮装した状態で「トリック・オア・トリート」と言うとその場で楽しめる試食セットがもらえる。その上これだけの数の菓子店のパンフレットやクリスマスケーキの予約表まで手に入るなんて、端的に言ってここは宝物庫としか言いようがない。
やがて会場に慣れた頃には周囲の仮装に目が向くようになり、やはり細部まで作り込んだ仮装は見どころがあるなとか、果たして学生制服は仮装と言って良いのだろうかとか、世間の仮装に対する認識を観察するのもなかなか趣深いものがあった。
「好きな所に行ってきなよ」と言う彼女の言葉に甘え、気がつけば我を忘れて様々なブースに突撃して「トリック・オア・トリート」と言っていた俺は、間違いなくハロウィンパーティーを満喫していた。
持ち帰ってきたパンフレットの山がその証拠と言えよう。バッグから取り出してテーブルに広げてみると、とても1日で見終わる気がしない。

「ところで君の仮装をもう一度見たいのだが」

自分の仮装も気がかりではあったが、彼女の仮装もなかなかのものでずっと気になっていたのだ。
「楽だから」という理由で頭から白いシーツを被って顔の所だけハサミでくり抜いて「オバケ」と言っていた。雑すぎる仮装に「本当にそれでいいのか」と俺ですら心配していたが。
しかしなんだ、会場に着いてシーツを被った様子を見てみれば、意外とこれが可愛らしいもので、抱きしめたくなるような愛くるしさがあった。白くて丸い頭がちょこちょこと動き、こちらを振り向くとかわいらしい顔で笑う姿を見て、両腕を伸ばすの堪えた俺は偉いと思う。

「いいけど誠さんもやって」
「マントの有無だけの差だぞ」
「私だって布の有無の差だけど」

君の場合はそれしかないだろう。と言うツッコミはさておき、二人揃って鞄から黒い布と白い布を取り出して身にまとい、会場でしていた仮装の姿に戻る。
ソファにちょこんと座る白いオバケは相変わらず可愛らしく、ハサミで雑に切り取った布がボロボロとほつれている所も妙に愛情をそそった。

「はあ」

ようやく何も気にせず独り占めできる。ためらいなく腕の中に閉じ込めると、オバケの中から手が伸びて俺の背を引き寄せた。
一日中スイーツにまみれた場所にいたせいか、彼女の身体からはほのかに甘い香りが漂ってくる。

「誠さん似合うね、一番かっこいい吸血鬼だった」
「……ずっと言おうと思っていたのだが」

君に「トリック・オア・トリート」と言ったら何をくれるのだろうか?
会場にいる最中から気になって仕方がなかった。一度気になったら何をしていても頭をちらついて、帰宅したら絶対に言おうと思っていたのだ。
少しネジの飛んだカップルならベタ中のベタだと思われる展開。つまり、あわよくば“お菓子”と称して布の中身をいただくつもりで、裾から手を差し込んで白い布を剥がしながら口にしてみた。

「あげない」
「なんだと」

まさかの拒否に手が止まり、彼女の顔を見るといたずらっぽい悪い表情をしていて、言葉の意味を改めて考える。お菓子をあげない、ということは。

「だから、いたずらしてみて?」

なるほど、一本取られたな。まあ、彼女相手なら負けっぱなしでも構うまい。
可愛らしいオバケになってみたり、いたずらに悪女になってみたり忙しい人だ。それがすべて俺に向けられた事だと思うといじらしいと思わずにはいられない。
どうせやることは同じでも、いちいち反撃を試みる彼女に言葉にできない感情が湧き上がり、感情に任せてソファに身を沈めた。

「それならば遠慮なく」

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