ほどよく雲があって日差しも穏やかな初夏の陽気はみんなの気分を明るくさせる。もちろんそれは私たちも例外でなく、子供たちがはしゃいで水浴びをしている所からそう遠くない場所で釣り糸を垂らしていた。
「いいなあ、子供は」
「バカ、水浴びなんかやめろよ」
「しないよ」
こんな世界になってすっかり一張羅が当たり前になった。私の一張羅のアイボリーのシャツが濡れてしまったらどうなるかくらい想像はつく。それにここで私がはしゃいだらせっかく川下で子供がはしゃいで上流に集めてくれた魚たちが逃げてしまう。
大きな岩の上に二人で座ってキラキラ光る水面を眺めていると、今まで見てきた惨劇がまるで嘘のように思えた。バケツに汲んだ川の水の中で食事には申し分ないサイズの魚が泳いでいた。
「5匹目」
「すごーい」
「今日も好調だな」
メルルはヘヘッと子供っぽく笑うと慣れた手付きで魚の口から針を外してバケツに放す。空いた針先にはダリルが掘ってきたミミズがくくられて、また川の中に飛び込んでいった。
私にとってはいつも通りのメルルといつも通り食事の準備をしているだけなのに、キャッキャとはしゃぐ子供の向こうでキャロルもアンドレアもエイミーもぎょっとした顔でこっちを見ていた。
「このリールはいいな」
「そりゃ高級品だもの」
「こんな世界になっちまえば竿(こいつ)もケースにしまっておくより喜んでると思うぜ」
メルルの横顔はまさしく年相応のそれだけれど私にはとてもかわいらしく見えるし、キャロルたちにとって脅威になりえる存在には思えない。
……けど、キャロルたちの気持ちもとてもよくわかるだけに非常に複雑な気分。
私だって、最初は怖かったもの。
「いつもそんなふうにしてればいいのに」
「なんの話だ」
「メルルは生きてるだけで敵が多いっていう話」
「喧嘩か? プロレスならいいぜ?」
いつからこんなに私の事を受け入れてくれるようになったのか忘れてしまったけれど、私が明らかに失礼な話をしても、メルルはニヤニヤとするだけで怒ったりしない。
ただ保護欲っていうか…… ダリルと私を護りたいがあまり、人畜無害も敵とみなしてしまうだけであって。
その欲が彼らに向かえば間違いなく心強い仲間になるということは私が一番わかっている。ダリルだってきっとわかっている。
「そんなに器用なんだからキャロルの手伝いしたりすればいいのに」
「なんで俺が女の手伝いなんかしなきゃいけない? お前と一緒に仕事してるのはお前がサボれるようにだ」
びしゃっと水をかけられて、結局私の一張羅は濡れた。
そしてメルルの言っていることはほぼ図星で、私は今日も1匹も釣果を上げられないまま日没を迎えそうなあたり、何も言い返せない。
しかもちょっと真面目な顔しちゃって冗談なんだか本気なんだか。
「何が起こるかわからないのに余計な体力なんか使うもんじゃねえ」
「えっ、あ、」
深刻な口ぶりでそんな事言うものだから、うっかり何も言い返せずに固まってしまう。
思い返してみれば重いものを運ぶ時や長距離移動をする時なんかはいつもメルルが助けてくれていたような気がする。現に今だって私が成果を出せなくても文句は言われないくらい魚を釣っている。
「体力は今晩のためにとっておけよ」
「!」
メルルの指がシャツの下に透けた下着代わりの水着の輪郭をなぞり、胸の間で蝶結びになった紐をパチンと弾いた。
最後にこうやって茶化せるくらいチャーミングなくせに、彼らにとっては厄介者でしかないのはやっぱり悲しい。それと同時になぜか少しだけホッとする。メルルがみんなに受け入れてもらえたら嬉しいと思っているはずなのに。
いつまでも変わらない私だけのかわいい人でいてくれるのではないかという、ちょっぴり病んだ甘い考えがよぎってしまった。
ぽかんとメルルに見とれていると、不意打ちでキスが降る。
そしてサッと目をそらすキャロルとエイミー、気味悪いものでも見るように訝しげなアンドレアを視界の端に捉えた。
……やっぱり私がメルルに抱く感情は複雑なようだ。