「なんだその格好」
「もうこれは決定事項ですから!!」
課のメンバーで交代に取らされている大型連休の中日、入浴を終えて寝室に引っ込めばナマエが珍奇な格好でベッドに座っていた。パジャマも髪もいつも通りだが、おかしいのはその目元だ。なんだそのアイマスクは。
……なるほど、そういうプレイをお望みと。
確かに休日に入る前夜から三日間も連続で致していればそろそろ“遊び”を入れるのも悪くない。
視界が奪われるというのはそれなりに恐怖も伴うだろう。一応優しく押し倒してやると、ナマエの両腕が俺の胸元を力強く押し返した。
「おい」
「違いますから! これはそういうんじゃありません! 峻さんが毎日毎日私の身体のことも考えずにやりまくるからこうしたんです!」
「……は?」
「私が応じちゃうからいけないんですよね!? だったら私、峻さんの顔とか身体とか見えなければ拒否できます!!」
……馬鹿なのか?
「今『馬鹿なのか?』の顔しましたね! アイマスクしてたって峻さんのことなんかお見通しですよ!」
「ふーん、ならアイマスクの意味無いんじゃねーの」
「あっ、揚げ足取らないでください!」
アイマスクをつけたままあたふたしているナマエがものすごくアホらしく見えて、その姿がまたなんとも愛らしく、ナマエの視界に入っていないのを良いことに思いっきり表情に出して笑ってしまった。
これで防御したつもりだなんて馬鹿すぎるだろ。
「いいですよ、そのままで居てくださいね」
「ひゃっ、あ、だめだめ……!」
視覚なんか使えなくたって聴覚ってもんがあるだろうが。
ベッドに沈むナマエの両腕を押さえつけながら耳元で囁いて、わざと音を鳴らしながらキスを繰り返した。
ナマエは脱出を試みるように身を捩るが、当然俺の力に敵うわけがない。結果的に俺を誘うように胸や腰を揺らしているだけに過ぎないのだ。
「ナマエさん、どうしたんですか? 胸が苦しい?」
「ちが、ちょっと峻さん!」
「なんですか?」
「意味ない! 力技はアイマスクの意味が! 反則です!」
細い腕をひとまとめにして空いた手で少しずつパジャマの裾から手を侵入させていると、ようやく気付いたらしいナマエが言葉で抵抗してきた。
俺とお前のベッドにルールがあったことに驚きだが、このアイマスクプレイを早々に終わらせてしまうのももったいないと思い直して手を離す。
「はあ、はあ…… ず、ずるい……」
「僕は男なので」
「じゃあ私こっち向いて寝ますから!」
“こっち”って見えてないのにどーすんだ?
と思っていたら、バスバスと手探りで布団を叩きながら位置を把握し、定位置に俺に背を向けるように寝転んだ。意外とやるな。まあいい。
背を向けたってできることはたくさんあるし、そもそもナマエが俺を拒めるわけがない。
ナマエの背中に沿うようにして後ろから抱きしめると、びくんと大きく肩が揺れる。
「こうするだけ」
「力は入れないでくださいよ」
「わかってるよ、お前、嫌になったら抵抗すんのか?」
「当たり前じゃないですか!」
どうせ抵抗なんかできないくせに。と思いつつ柔らかな腹部に手を這わすと、ナマエの手が重なって強く握りそれ以上の侵入を拒む。
そう易々と受け入れられてもつまらないわけで、思わず鼻で笑った。
首元に顔を埋めて呼吸をすれば同じシャンプーの匂いが広がる。焦らすようにじわりじわりと耳に向かって唇を這わせた。
「ひゃ、う」
「抵抗していいんですよ?」
「してる、してます!」
ナマエは腰と背を目一杯丸めて縮こまるけれど、そんな抵抗でこの俺が止まるわけがない。
追いかけるように抱きしめて薄い耳たぶを優しく食む。
「は、ちょ、峻さん」
「それが抵抗?」
「やだ、やめて!」
口ばっかりでガード緩すぎんだろ。やっぱり馬鹿なのか。
……そんな馬鹿な所が気に入っていたりして、俺もほとほと馬鹿になってしまった。俺が馬鹿になったのは全部こいつのせいだけど。っていう自覚はあるんだろうか、こいつは。
憎らしいやら愛しいやら、湧き上がってくる複雑な感情を誤魔化すように耳の穴まで舌をねじ込む。
「んっ、ひ、あ」
「本当に、今日は、何もしないつもりですか?」
「だって」
「もっとあなたに触りたい」
「く……」
抱きしめながら頭を撫でると、ナマエは一切の抵抗をやめた。そのまま何度か撫でているうちに、ナマエは腕の中で向きを変えてそのアイマスクをそっと下ろす。
……チョロ。
「っ峻さんの馬鹿~~~!」
しまった。さっきの調子で顔に出っぱなしだったか。明らかに馬鹿にしたような表情をしていたかも知れない。
ナマエは俺の顔を見るなり顔を歪めて涙を浮かべ、俺の胸を押した。
「おいやめろ、もう抵抗すんな、めんどくせー」
「面倒くさいって……!」
「嘘だよ、楽しんだ」
「それはそれで違うんですけど」
くるくると表情を変えるナマエを腕で絡め取ってキスをすれば、あっという間に陥落した。
「もうやめます、私無理です、でも峻さんが悪いと思います」
「俺のせいかよ」
「はー、顔といい身体といい声といい性格といい……」
「……なんだよ」
「大好きですよ」
馬鹿なのか。
馬鹿だな、俺も。
どうにもこうにもこの感情の鎮め方がわからず深くキスして、今日も今日とてナマエの身体にその答えを聞くのだった。