三蔵には深入りするなというような事を言われたけれど、最近のナマエの様子を見ていて黙っていられずついに聞いてしまった。
ナマエは何か悩みを抱えてるんじゃないかって思う。
もしかしたら、俺たちとの旅が辛いんじゃないか。当たってたら嫌だけど、でもナマエがそれを言い出せないなら俺らが、てゆーか俺が個人的に、手を差し伸べられる存在でありたいと思った。
「えー、っと、」
何かを言い淀んで視線を逸らすナマエを見て、当たっちゃったかも、と、手に汗を握る。
「ごめん。な、なんか悟空にこんな話するのもアレなんだけど……八戒に怒られそうで嫌だな」
「やっぱ八戒と何かあったの?」
昼間見てしまった衝撃的な光景がフラッシュバックする。
八戒は滑ってああなったって言ってたけど、それにしては不自然な状況だってことくらい俺にもわかった。
「いや、八戒は私を助けようとしたって言うか」
「どういうこと?」
この質問を、後に後悔することになる。
……あんなにぐいぐい聞かなきゃよかった。
ナマエも相当話しづらかったと思う。
三蔵が言っていた事を思い出し、安直に行動した自分を責めたくなった。
「いや、まあ、その、そりゃそーだよな」
すっかり忘れてたけど、ナマエだって世間的には恋人作って結婚して子供もうけてなんて考える年頃ではある。
つーか全員そうじゃね?
俺はあれかも知れないけど、恋人くらいできてたっておかしくない。年齢的には。
恋人がいたらいいなと思うのは至って普通の事だ。考えてなかっただけで。
「本当に別に八戒とはなにもないから!」
「わかってるよ! ナマエが彼氏欲しいってだけの話だろ!」
「は、恥ずかしいから言わないで……」
ナマエは真っ赤になって俯く。こんなナマエ初めて見た。いつも余裕な感じで感情の起伏も穏やかなのに、取り乱すこともあるんだ。
なんとなく“おねえさん”だと思っていたナマエも、よく見れば背丈こそそれほど変わらないものの白くて華奢で可愛い声で、フツーの“女の子”だった。
「でもそれってひとりになりたいことと関係あんの?」
「だってこの中の誰かとか思ったら変なこと考えちゃうから」
「俺とのことも?」
ヤベッ!
と、思った時には既に口から飛び出していて、ナマエは鳩が豆鉄砲食らったみたいな間抜けな顔で俺を見ていた。
一人だけ年齢層の違う俺も“みんな”に入るのだろうか。っていう純粋な疑問だったんだけど、なんか変な質問したみたいな空気になってしまった。
「いや、違っ、その中に俺も入ってんのかなって、あー!」
もう何を言っても地雷を踏み抜くような真似しかできない気がする……
「違う」と「ごめん」を繰り返し伝えると、ナマエは涙目になりながらくすくす笑いだした。
こっちは笑い事じゃないんだけど。
……でも。
「よかった、笑ってくれて」
「だって悟空がかわいいから」
「あー、馬鹿にした」
「してないよ、悟空が来てくれてよかった」
あれ。
なんだこれ。
ナマエのこの笑顔、俺に向けられる事って初めてかも知んない。
そりゃナマエはいつも笑ってるけど、いつものじゃなくて、このふわふわのは特別だ。
「ナマエの方がかわいい」
「えっ」
「あっ、ごめん、いやごめんって言うのも失礼だよな、かわいいのは本当!」
「嘘だ」
「なんでだよ、本当なのに」
いつも悟浄とかには「ありがと」って返してんじゃん!
なんで今日のナマエはそんなに緊張してるんだよ、と思ったらおかしくて笑えてきた。俺が笑ってたらナマエも笑いだして、なんか元通りになった感じがする。
その時ふとナマエの首筋の傷痕が見えた。
埋められた妖力制御装置を取った痕。昔一緒に暮らしていた人がつけたと言っていた。どんなやつと暮らしていたか、何の目的で埋められたか、それは多分誰も教えてもらっていない。
「首、痛くなくなった?」
手を伸ばせば届く距離にあったもんだから、つい指先で触れてしまった。滑らかな肌の上で、そこだけが不自然に傷ついている。
「もう大丈夫だよ」
「よかった…… あのさ、俺、やっぱりナマエの笑った顔が好きだから、俺ができることがあったらなんでも言ってよ」
俺が恋人候補になるくらいには頼れるならさ、とは言わないでいられた。今度こそ変な空気を回避できてほっとする。
ありがとう、と言って笑うナマエはやっぱり可愛くて、恋人なんかすぐできちゃうよと思ったら、少しだけ胸が痛んだ気がした。