散々な目に遭った。せっかくマッサージを楽しんでいたのに指圧師は強制帰還だわ気分は台無しだわ、悪いことなんて何もしてないのに三蔵に怒られた。理不尽だ。
三蔵の気遣いは有難いけれど、あんな風に邪魔される可能性があるのではおちおちひとりで致すわけにもいかない。結局今日も我慢するしかないというのか。
三蔵がかけてくれたタオルケットから他人(というか三蔵)の匂いがして落ち着かない。
実は綺麗な顔してるんだよなぁ、などと考えてから思い直す。さすがに三蔵でするのはちょっと。そんなことを考えていたらいつの間にか夜更けも夜更けでいい加減寝るべきだ。
「あ、あのさ、ナマエ、起きてる?」
悶々と過していると、扉をノックする音の後に悟空の声がした。何かあったのだろうか。悟空がひとりで私に用事なんて珍しい。
三蔵に服装を注意されたのを思い出し、なんとなく荷物からショールを引っ張り出して羽織ってから扉を開ける。
「どうしたの、入って」
「あ、ごめん」
悟空を招き入れつつとりあえずお湯を沸かす。コーヒーでも淹れて気分転換しよう。
「みんなは?」
「もう寝ちゃった」
「早いね、遊ぶんじゃなかったの?」
「なんかあの後みんなテンション超下がってすぐ寝ちゃった」
「ええ、私のせいかな」
少なくとも三蔵は怒らせたし、悟浄も何やら変な感じだった。まあ悟浄はいつもあんな感じだけど。
ベッドサイドに腰掛けて元気なさそうに俯く悟空を見ていると申し訳なく感じてしまい、部屋用の小さな冷凍庫の中から秘蔵のバニラアイスを取り出した。
「ごめんね」
「ナマエのせいじゃないよ。みんななんか変だったし」
ごめんね、それは多分私のせいかも。なおのこといたたまれず、鞄のポケットからクッキーも取り出す。
「あのさ、今日ってナマエのこと仲間はずれにしたわけじゃないから、」
「えっ!?」
そんなこと気にして落ち込んでいたのか。ていうか私のせいで私から勝手にはぐれているようなものなのに、悟空に気を遣わせるなんて。
相当身勝手な行動をしてしまっていたことに気づき、今更ながら反省した。
眉尻を下げ、大きな金色の瞳が私を見つめる。
なんて綺麗な色だろう。宝石みたい。洗練された宝飾品ではなく、大地の隙間で光る結晶のような。
「あ」
「ごめん、悲しませたかな」
気がつけば悟空の頬に手を伸ばして触れていた。その手を悟空の手に包まれてハッとする。離そうものにもギュッと握られてしまって、ただただ悟空を見つめるしかできない。
「悟空」
「やっぱ俺、ナマエも一緒の方がいいなって思って」
どきん。
一際強く心臓が跳ねた。
私の手は、本当に申し訳なさそうな顔で訴える悟空の両手に包まれる。やだ、なにこれ。欲求不満の弊害だろうか。動悸が激しくて心臓の音がやけに煩い。
悟空はなんとも思わずに私の手に触れているであろうに、ずっと“歳下の男の子”だと思っていた悟空の手がすごく逞しいことを今更ながら知った私は、この間八戒が言っていた言葉を反芻した。
“一応男だってこと忘れないでくださいね。三蔵も悟空も”
「あ、ナマエ、お湯が」
ゴボゴボと沸騰するお湯の音で我に返る。
慌てて悟空から離れ、コーヒーをふたつ淹れてベッドサイドのテーブルに置いた。バニラアイスとクッキーも。
「悟空、大丈夫、私が1人にしてって言ったの」
「え!? じゃあもしかして俺って今めっちゃ邪魔してる!?」
「ううん、全然そんなことない。心配してくれてありがとう。心配かけてごめんね」
おずおずとクッキーを差し出すと笑顔でそれを受け取ってくれた。
「迷惑かけちゃったから」
少なめに淹れた悟空のコーヒーの上に、バニラアイスをすくって浮かべる。
バニラアイスはすぐにしゅわしゅわとクリームになって溶けた。
「なにそれ、超美味そう!!」
「どうぞ」
「ありがとう!!」
興奮した様子の悟空はすぐにマグカップに口をつける。火傷が心配だったけど、アイスで冷やされたらしいコーヒーはそれほど熱くないようだ。
悟空の斜め向かいになるようにベッドに腰をかけ、私もコーヒーを啜る。
「ねえナマエ、俺隠し事とか下手だから思ったこと聞いてもいい?」
「えっ何を?」
今日ひとりになった理由の話? まさかもっと具体的に…… 悟浄のこととか八戒のこととか? 性欲のことまで理解が及んでたら軽く恐怖だ。それとも手術痕の話とか。
心当たりがありすぎて冷や汗が滲んだ。
「この間元気なかったのと、今日ひとりになりたかったのって関係ある?」
またあの目だ。
真剣な眼差しが私を捉えて離さない。
関係、あると言えばあるし無いと言えば無いけれど。
なんて答えればいいんだろう。
この目に嘘をつくなんて無理だ。