DEAR.悟空 07|昼

わざわざ言うのも違う気がして、悟浄と八戒には何も言わなかった。
だって今までと何も変わらない。まあたまにはくっついたり手繋いだりすることはあるかもだけど、今までだってナマエのこと好きだったし、これからも同じだし、遠慮されたり気遣われたりするのもやっぱり違う。

とりあえず三蔵にだけ同じ気持ちだったことを報告した。
あの日以来二人きりにはなれてないけど、みんなに嫉妬する事も無くなったし、ナマエもふわふわの笑顔を俺に向けてくれるようになって、とりあえずハッピーな毎日が続いていた。

「私ちょっと昼寝する」
「おうオヤスミ」
「んー、おやすみなさい」
「おやすみなさい」

みんなで昼飯食って宿に帰るや否や、寝不足気味らしいナマエは先に部屋に戻った。
少しだけ、ほんのすこーしだけ、俺も一緒に寝たいなぁなんて思わないことも無い。意識が落ちるまでずっと一緒で、目が覚めたら最初に会うのが彼女で、そんなの天国みたいだろうな。
へへ……
危ない危ない。最近気を抜くとすぐこれだ。緩んだ口元を引き締める。

「おい」
「え?」

ふと顔を上げると、なんだか怖い顔をした悟浄が俺を見下ろすように仁王立ちしていて、意味がわからずちょっと後ずさってしまった。

「な、なんだよ」
「クソ猿、ナマエ泣かせたら猿鍋にして食うぞコラ」
「えっ!?」

なんでバレてんの!? いやバレるってゆーと悪いことしてるみたいだけど。悪いことなんかひとつもしていない。
さっきまで普通に穏やかに過ごしていたのにいきなり沸点超えてる悟浄に気圧されてまた後ずさる。
三蔵も八戒もなにしてんだよ!
と思ったら、あまりにも普通にお茶飲んでて混乱する。
え、俺が悪いの?

「いやちょっと待って、なんなんだよ急に!」
「はー、猿だガキだチビだ童貞だと思っていた俺が甘かったよ、まさか本当にお前だったとは……」
「全ッ然話が見えないんだけど。てゆーか今俺の事馬鹿にしただろ!?」
「まあまあ落ち着いてください悟浄も悟空も」

さっき見ちゃったみたいなんですよね、と八戒に言われ、思い返してみればこの宿に入る時にみんな見てないと思ってちょっと手を繋いだ。それのことか。

「テメー、どーいうつもりだ」
「悟浄、喧嘩腰はよくないですよ」
「っせーな。つーか俺はなァ、訳知り顔でドヤってるそこのクソ坊主とヘラヘラしてるお前にもイラついてんだよ!」

冗談めかしつつも恨みがましく睨みつけてくる悟浄は、なんとなく野犬的なオーラを放っていてそれがおかしくて笑いそうになる。のをグッと堪えた。偉い俺。
普段なら悟浄がこんなこと言おうものなら大喧嘩だけど、今日は内容が内容だけに誰も何も言い返さなかった。

「で、お付き合いは?」
「馬鹿野郎、するわけねーっての。こいつが言い寄っててナマエだって迷惑」
「え、ごめん、付き合ってる」
「は!? ……え、は!?」

うっかり普通に打ち明けたら三種三様の反応があった。
三蔵は知ってたから当然無表情無反応。八戒は少し驚いてからにこりと微笑み、悟浄は泡食ったように口をパクパクさせていた。
やっぱ最初に言った方がよかったかなぁ……

「マジごめん、本当に嘘つきたかったワケじゃなくて、みんなが気ィ遣うかなと思って遠慮してたっていうか」
「水臭いですねぇ、悟空。遠慮なんかしなくたって祝福しますし、今更気なんか遣いませんよ。良かったですね、おめでとうございます」
「あ、ありがと」

なんか恥ずかしいな。
ちらりと三蔵を見ると、無関係を装いながらも少しだけ笑っているような気がした。
それより八戒は祝福してくれるから良いにしても、問題は悟浄だ。肩を揺らしてみるとやっと我に返ったように瞬きをする。

「お前マジか」
「大マジ」
「あいつも好きって言ったのか」
「え、う、うん、言った…… よ」
「照れてんじゃねーよ! マジじゃねーか!!」

正直こんなにショック受けられると思ってなかったから、どうしていいかわからない。
ぐるぐると余計な考えが脳内を巡る。

俺ってナマエのこと好きじゃダメなわけ?
とか、

悟浄にとってそんな不服かよ?
とかとか、

そもそも悟浄の承諾なんか要らなくね?
とかとかとか、

……てゆーか、なんかムカついてきた。

「うっせー! マジだよ大大大大大マジだよ、悪ィかよ、俺が傍にいるって決めたんだから黙って隠居しろ、クソエロゴキブリ河童!!」
「なっ、てンめー!! 猿のくせに調子乗ってんじゃねーぞ! 表出ろコラァ!」
「うるせぇぞ黙りやがれ!」

三蔵の放つ銃弾が二発、頬を掠めて窓の外に飛んで行った。頬に熱を感じて触れてみると微かに血が出ているのがわかる。こわ。

「当たってんじゃねーか、外せよ!!」
「お前らがうるせぇのが悪い」
「困りましたねぇ」
「おい悟浄、悟空からナマエを奪うつもりがねぇんだったら黙ってろ」
「う……」

三蔵よく言った!
三蔵に怒られた悟浄はバツが悪そうに椅子に座り直して煙草に火をつける。そして俺は頬を軽く撃たれたにも関わらず、ハリセンも一発見舞わされた。

「ってぇ」
「お前は悟浄の気持ちも少し汲んでやれ」
「おや、珍しい事を言うものですねぇ」
「……一緒に住んでたやつが家に帰らねぇ可能性が出来たんなら、そりゃ少しは、な」
「え!?」

俺と悟浄の声が重なる。
それって慶雲院にナマエ連れてっていいってこと!?
それとも俺が出てけってこと……?
温度差のありすぎる疑問が浮かび、ただただ驚くしかできない。悟浄の方はどの選択肢にしても良い結果では内容で、また項垂れるように溜息をついていた。

「知らない間に遠くに行っちゃうんだもんよ、ナマエチャンは」
「知らないで居たかったのは悟浄の方でしょ」
「こんな所で正論で殴んのやめてくれる?」
「はいはい。悟空、悟浄のことは気にしなくていいんですよ。ただのワガママですから。おもちゃ取られてグズってる子供と同じです」

祝福されないってのはやっぱりちょっとイヤな感じだけど、仕方ないのかな。不貞腐れてる悟浄を見ていると、もう少し良い報告の形があったように思う。反省。

「猿」
「なに」
「幸せにしてやって」
「あ、当たり前だろ! 最初からそのつもりだし」

悟浄のこんな顔は初めて見る。それに面食らっていると、小さな声で「言いすぎた、ごめん」と言われた。
ナマエのことを大事に思っているのは悟浄も同じで、八戒にも三蔵にも言えることだ。良いとか悪いとかじゃなくて心配が先に立つ事もあるよな。そう思えば悟浄の不機嫌も受け入れられた。

「ねぇちょっとうるさいんだけど」
「おっまえなあ! 俺にはちゃんと言っとけよ!」
「何の話?」
「おめでとうございます、末永くお幸せに」
「あー…… 悟空?」

目を擦りながら顔を出したナマエは、絡んでくる悟浄と小さく拍手なんかしてる八戒を見てから俺に視線を向けた。
やっぱりやっぱり、俺は悪いことなんかしていないと思うんだけど、なんだか詰められてるような気がして苦笑いを作る。

「言っちゃったんだよね、みんなに」

そう言った途端にナマエの顔がみるみる赤く染まっていき、うわあっと間抜けな声を出して両手でその顔を覆った。
なんて可愛い反応なんだろう。好き。

「ごめんナマエ、でもこれで堂々できるから」
「堂々とナニするつもりだコラ」
「おや、もう復活しましたか、早いですね悟浄」
「あー面倒くせえ」

なんだこれ、どんな方法で報告したってどっちみちこうなってたんじゃねーの?
と思ったらもうなんでも良くなってしまった。
俺がナマエのこと大事にすりゃ良いって話なんだろ。そんなの言われなくてもわかってるし、大事だから好きなのに。あれ? 逆かな? ああ、面倒くさい。
ただ俺がナマエのこと好き。
それだけのことだってのに、こんなにギャーギャー揉めるんだもん、やっぱみんなナマエが好きなんだ。
……そっか、俺は幸せ者ってことか。

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