DEAR.悟空 08|瞬間

どう見ても弱点にしか見えないのにもかかわらず、不思議と私を狙う妖怪が少なかったせいで油断していた。

悟浄は浴場に行き、私は部屋に一人だった。大した時間じゃなかったし、今まで何度も同じ状況があったし、悟浄が悪いわけじゃない。その隙を狙う妖怪がいたことに気づけなかった私の落ち度だ。

夜更けのベッドで仰向けになり、ぼんやりと考える。
こう見えて私だってちゃんと鍛えたんだし、騒ぎに気づいた三蔵と悟空が部屋に来るまでの時間稼ぎくらいできた。敵は3人がかりで私を誘拐するつもりだったらしい。1対1なら勝てたと思う。
みんな心配していたけど、正直襲われた事については何も感じていない。
そういうこともあるだろうな、くらいのものだ。そもそもこんなことでいちいち不安がっているようでは一緒に旅になんか出られない。

「怖い!」よりも「あれもこれもやってない!」という気持ちの方が強かった。
二の腕と首に妖怪の爪痕ができた。痛い。これが痛いうちに、忘れないうちに、私は今できるすべてのことを全力でしておかなくてはいけないと思った。

「ナマエ? 大丈夫?」
「悟空」
「俺、部屋代わってもらったよ。今日はナマエと俺の相部屋」

そんなに申し訳なさそうな顔なんてしなくてもいいのに。悟空のせいじゃないんだから。
ベッドの上から手を伸ばすと、悟空の手に絡め取られた。

「今日は傍にいていい?」
「悟空こっち来て」

繋がった腕を引いて悟空の体を引き寄せる。体勢を崩した悟空が私の顔の横に腕をつき、金色の瞳が真っ直ぐにこちらを捉えた。
そうか、死ぬということはこの瞳ももう二度と見られないということだ。
いつ死んでも悔いがないなんてこと、あるのだろうか。
疑念をかき消すように微笑むと、悟空は少し苦い顔になる。

「守れなくてごめん」
「やだな、こんなの守られてるようじゃ、みんなと一緒に居られないよ。謝らないで」
「……ナマエがいなくなるのは嫌だよ。もし俺がその可能性を潰せるなら、俺が潰したいんだ」
「悟空、抱いて欲しい」

一呼吸置いたあとに悟空の腕が首の下に潜り、そのままぎゅうっと抱きしめられた。
あれ、もしかしてこれ、意味通じてないな。
自分の方が余程穢れた身であることを思い出して笑えてきた。

「ふふ、ごめん、悟空、セックスしたい」
「え!? 抱くって、あー、ご、ごめん、気づかなくて」
「嫌?」
「嫌なわけない! ……けど、俺、したことないから」
「もっとゆっくりがいいよね、ごめん」

いくらなんでも急ぎすぎか。
気持ちが通じ合ってから数週間は早かったかな。早かったのかも知れない。なにしろ“普通に付き合う”という経験がないものだから“普通”がわからない。
ただ、いつ死に別れるかもわからないなら体も欲しいと思ってしまっただけだ。

「違う、そうじゃなくて。上手にできなくて傷つけるのが怖い」

上体にかかる圧力が無くなると、八戒が手当してくれた二の腕の包帯に無骨な手が添えられる。
それは優しく包帯の上を滑り、じんわりと熱が伝わってきた。

「大丈夫、痛いとか駄目とかちゃんと言う。悟空もちゃんと駄目なら駄目って言って」
「うん」

うん、とは言うものの、やはりどこか納得しきれていない様子がわかる。
このまま押し切るのは違う気がした。それこそ「駄目なら駄目って言って」なんて言っておきながら、悟空の気持ちを無視してまですることじゃない。
悟空は優しいから、自分が少し耐えれば私の望みが叶うのであればきっと耐えてしまう。

「……ごめんね」
「ん?」
「やっぱり大丈夫」

本当は、そこまで大丈夫じゃないけど。
もしも明日、明後日、私が死んでしまったら、私は絶対に後悔するだろう。
だけどそれで悟空を困らせて望まないセックスをするのは、それも絶対に違う。
自分が最悪な処女喪失をしているのに、こんなことを強要する私は最低である。ましてや歳下にこんなこと。

「また今度にしようか」

私が笑うと、悟空は困った顔をして私から離れていった。

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