駄々をこねた。すると、案外呆気なく、ずっと欲しかったワノ国の「こたつ」を買ってくれた。
アラバスタの冬は全然寒くないけれど、その代わり夜になると昼の暑さがウソのような寒さが襲う。そんなアラバスタの夜にはぴったりだと思ったのだ。
アンピール様式のこの部屋にはまったく不釣り合いなこたつに、体の半分以上を突っ込んで横たわったまま、デスクに向かっているクロコダイルを見つめた。
ううむ。
いつも見ている顔だけれど、やっぱり仕事中のクロコダイルはかっこいいと思った。上機嫌でも不機嫌でもない真剣な眼差しは、なかなかのエロス。近距離の視界がかすむと言って、最近は仕事中に眼鏡(老眼鏡というと怒る)をかけているのもかなりポイントが高い。
「どうした」
熱視線を送っていると、ふと書類から顔を上げたクロコダイルと目が合ってしまった。
「まだ休憩しないの」
「しない」
「一緒にこたつ入ろうよ」
「入らない」
「……入ろうよう」
ちょっと甘えたように体をゆらゆらさせていると、書類を置いたクロコダイルが椅子を立った。
なんだかんだ優しいのだ。
こたつを設置してから一度も入ったことのないクロコダイルは、私の隣に立ち尽くしたまま上から睨んでいる。トラウザーズの裾を摘んで「こっち」といって私が退くと、素直にそこにあぐらをかいた。私はその真ん中に上から座る。
「おい」
「あったかいでしょ。クロコダイル大きいから私ここね。クロコダイル椅子」
「邪魔だ」
上の方で明らかに不機嫌な声をあげているクロコダイルを無視して、クロコダイルの両腕を膝の上につくように動かして、肘掛けを作った。クロコダイル肘掛けの上に自分の腕を重ねて、クロコダイルの胸を背もたれにする。
ごつごつした筋肉と骨の感覚が妙な安心感をもたらす。
「いい椅子」
「人の話をきけ」
「背もたれ大きいから楽ちん。あとあったかいし。ちょっとごつごつしてるのもきもちいい」
「……」
「こたつはね、みかっんんっ」
こたつの上に置いてあったカゴからみかんを取ろうとした時、肘掛けが動いて上半身が引っ張られた。次の瞬間にはキスをされていて、思わず目を閉じてしまった。
クロコダイルの腕が私の腹部を抱きしめる。その手の上に自分の手を重ねると、指を絡め取られて関節の骨がきしんだ。
ズキンとする痛みが気持ちよかった。
舌を吸われると、ビリビリするような快感が脳に突き抜けていく。
「……っはあ」
「ん」
「っ、」
苦しくなって顔を離すと、逃すまいとするようにクロコダイルの歯が食らいついてくる。口元を噛まれて、再びキスをされた。息も整わないうちに畳み掛けられ、力が奪われていくようだった。
クロコダイルは乱暴に左腕の鉤爪を外し、むき出しになった傷跡で私の手に触れる。傷口の縫い跡をなぞるともっと触れと言わんばかりに押し付けられて、両手でそっとその傷口を包んだ。
過去の話は聞いたことがない。生まれた場所の話とか、失った左手の事とか、私はクロコダイルの過去をひとつも知らない。
クロコダイルの右手がセーターの下から中に潜り込んで、ブラの中に侵入する。
乾燥して硬くなった手のひらが乳首を摘んだ。全身を包み込まれるようで、このまま溶けてしまいたくなった。
「クロコダイル」
「んん、」
「どうしたの…?」
危うく快感に身を任せてしまいそうだったけれど、こんなクロコダイル見たことがない。
急に盛ったみたいになったクロコダイルに、若干戸惑っているのも事実だ。いつもは私がちょっかいを出さなければ、触れる事すら珍事だというのに。
「別にどうもしない」
「だって急に」
こんな事するなんて、と言う前に、ぐるりと視界が反転した。
シャンデリアの灯りを遮るように、クロコダイルの大きな体が私を覆った。私をこたつから引っ張りだすと、熱っぽい瞳で捕え、ぷつりぷつりとシャツのボタンを外している。
なんとなしにクロコダイルの額に手を添えると、じんわりと汗が滲んでいた。
「ねえ」
「なんだ」
「あなた熱あると思う」
「ない」
「絶対あるから熱測ってよ」
「ねえよ」
額の手のひらを振り払うと、私のセーターを捲り上げて胸に噛み付いてくる。歯形がつくんじゃないかと思うくらいギュウと噛まれて、痛みに顔が歪む。
整髪料で固められた頭を撫でた。バリバリとした指通りで、髪が乱れる。
「なんで言うこと聞いてくれないの」
「だから熱なんか」
「あるよ」
そのまま頭を抱き寄せて、額と額をくっつける。いつもより明らかに熱いクロコダイルの皮膚。
背中に腕を回してぎゅっと抱きしめると、私の胸のあたりを弄っていた手が大人しくなって、はあはあと息をたてた。
なだめるように頭を撫でる。
「寒いのに毎日遅くまで仕事してるからだよ」
「……」
「いい子だから今日はもう寝よう」
「うるせえやらせろ」
「なっ、ちょ」
私の制止を振りきった腕が強引にスカートの中からパンツを抜き取った。
完全にこたつから引きずり出された私の足は押し上げられて、あられもない秘部を晒している。熱くなった手のひらが太ももを撫でて、奥から愛液がじわっと湧き出た。
熱に浮かされた瞳は、イク時みたいに欲が滲んだ色をしていた。いつになく強引な腕先が口にねじ込まれて、閉じる事は許されない。
ぼこぼことした舌触り。ここにはどんな手のひらがあったのだろう。
私が知るはずのない手首から先の事を思うと、ねじ込まれた傷口が愛しくて悲しくて、あの縫い跡を確かめるように舌を這わせた。
「んんっ」
いつの間にか目を閉じて夢中で舐めていて、口の端から涎が溢れる。首筋までそれが流れてやっと気づいた。
それまでずっとクロコダイルがくれる快感にただ溺れていた。視覚も聴覚も全部奪われたみたいに、クロコダイルに溺れる。
乳首を甘咬みしながら舐めるクロコダイルの口元から漏れる吐息が、私を深みに嵌める。荒い息遣いが皮膚をくすぐるたびに、ふとももの上を指先が蠢くたびに、もっとクロコダイルに触れてほしいと思う。
「んっ、ふ」
「ナマエ」
「っう」
「おれが欲しいか」
「っ」
口を塞がれているせいで声が出せない。
ほしい、と言えない代わりに、必死で首を縦に振った。クロコダイルの腕先に歯が食い込んでしまう。
ごめんなさい。わざとじゃないの。嫌いにならないで。大好き。声に出せない思いを抱えながら舐めた。
クロコダイルの表情が緩むと、熱い指先が、やっと私の秘部に触れた。形を確かめるようにゆっくりとひだをなぞり、膣から溢れた愛液を塗り広げていく。
熱い。
「っはあはあ」
「んっ」
口からクロコダイルの腕が引きぬかれ、引きぬいた腕を艶やかな舌が舐める。濡れたクロコダイルの唇が光っていた。劣情を煽る光景を目にしながら、クリトリスを弄ぶように転がされる。
開放された口から、声にならない喘ぎが漏れてしまう。
何も考えられない。
ただ、突然むき出しになったクロコダイルの欲を見据えていられる事が嬉しくて切なかった。
「どうした?」
「んっ、んんんっ、あっ」
「締め付けてる」
「っ、クロコダイル」
優しく侵入した指の形を感じる。
クロコダイルの指と、私の中と、どちらが熱いんだろう。少なくとも、私の秘部に触れている彼の手のひらの熱は、私を溶かしているような気がした。
「どうだ、言え」
「あっ、ぅあ、きもちい、い」
「おれが欲しいか、」
すんすんと、私の匂いを確かめるように耳元で呼吸をしながら、どうなんだ、と詰め寄ってくる。汗ばんだ頬と頬がひっつく。
今すぐにクロコダイルが欲しい。
彼の顔面を両手で捉え、瞳をぶつけ合った。
「ほしい、クロコダイルがほし、」
「っ」
互いに求め合うように噛み付きあった。唇のひだを邪魔に思うほど、舌と舌が絡む。柔らかい肉が蠢くのが気持ち良い。
膣から指が抜かれ、下から聞こえてくるカチャカチャという金属音に、期待した子宮が疼く。
しばらくすると、指よりももっと熱い肉の塊が、入り口とクリトリスを撫で付けた。起ち上がったクリトリスに熱いのが触れるたびに声が止まらない。
「あっ、あっ、あ」
「んん」
「クロコダイル」
「なんだ」
「はやく、お願い……」
わざと上目遣いで甘えた。クロコダイルの腰に足を絡めて、自分の腰を突き出した。私の膣がクロコダイルのそれにキスするように、何度も触れたり離れたりを繰り返す。
クロコダイルは私の痴態をあざ笑うように表情を歪めた。
余裕なふりをしているだけのくせに、悔しい。
悔しいから、引き寄せた彼の顔面を横切る傷跡の皮膚と皮膚をつなぎ合わせるように啄んだ。ここが性感帯になっちゃってるの、クロコダイルはばれてないと思ってるけど、甚だおかしい話だ。
「っんん、馬鹿野郎」
「ぁあああん! あ、あ!!」
私の誘惑に落ちるように、導かれるまま、クロコダイルの熱が私を貫く。子宮口めがけて一直線に突き刺すような抽挿が繰り返される。
その間もクリトリスへの刺激は止むことがなく、ひっかかれ、押しつぶされ、波のように訪れる快感のせいで声が止まらなかった。
「あっ、あ、あぅ、気持ちいい、気持ちいいよ、う」
「っく、ふ、ぅはあ、はあ、はあ、んっ」
「もっと!」
さっきまで余裕ぶっていたくせに、熱のせいだろうか、そんなものすぐにどこかに行ってしまったようだった。本能に任せるように呼吸を乱している。
クロコダイルの喘ぎ声をもっと聞きたい。
快感を追い求めるように自分で腰を振った。クロコダイルのリズムと合うと、最奥に当たる。最奥のそこで受け止める快感をもっと感じたい。
「あっあっあっ、きもち、いい」
「っ、はあ、あっ」
「クロコダイルは? きもちいい?」
「あっ、んんっ、ああっ、イきそうだ」
苦悶から捻り出すように吐き捨てた言葉が嬉しくて、もっと強く腰に足を絡めた。
「一緒にイこ、一緒にい、こ」
「ああ、っ、っ、ふっ、あ」
「あっああっあっあっ」
私の腰の動きなんて、全然追いつかないほど激しい律動。
腰を掴まれ、子宮口に杭を打ち込むように大きくがつんがつんとクロコダイルのものが突き刺さる。
「やあああっ、だめ、イっちゃう、イっちゃう!!」
「っく、出すぞ…!」
「イ、く……!!」
「っあああ!」
一際大きく、奥に届いた瞬間、どくん、と脈を打ったクロコダイルがそこでぴゅくぴゅくと精を放った。中で広がる彼の熱が、愛しくて、逃したくなくて、きゅうっと膣に力を入れる。
クロコダイルはもがくように苦しそうな呼吸をすると、どさりと私の上に倒れこんだ。
「っはあはあっはあ」
「大好き」
「っ、」
肩で呼吸をしたまま、反応がなかった。
はあはあと呼吸を荒らげて、私の肩口から動かない。
「大丈夫?」
「……」
ぽんぽんと背中を叩いても無反応だ。
「クロコダイル?」
「……っ」
「クロコダイル!」
* * *
この巨体を運ぶのに、どれだけ大変だったか、クロコダイルには理解できないだろう。少々手荒な真似はしたけれど、痣のひとつやふたつくらい許してもらいたい。
ベッドの上で寝息をたてるクロコダイルの額に、冷やしたタオルをあてた。無理するからこんなことになるのだ。
頬に触れると、浮いた汗が滲んでいて、さっきよりも熱が上がっている気がした。
「んっ」
「ごめんね、起こしちゃった?」
「ここは」
「ベッド。私がこたつから運んだんだからね、私だって死んじゃうかと思った。馬鹿クロコダイル」
「……うるせえ」
ふいに腕を掴まれて、クロコダイルに引き込まれる。珍しく腕枕の上に寝かされて、こっちを向いたクロコダイルに抱きしめられた。
熱く汗ばんだクロコダイルの香りがする。
「……よかった」
「え?」
「なんでもねえ。おれはいつ治る」
「……ちゃんと寝てればすぐ治るよ」
「そうか……」
力の入らない腕が重くのしかかる。心地よい重さになんとも言えない安心感を覚えた。
いつものように強引な抱擁ではない。弱々しく抱きしめる様子は、すがるようで甘えるようで、なんだか子供のようだった。
背中に腕を回して撫でると、きゅう、と腕に力が込められたのがわかる。
「おい」
「なに?」
こっち向け、と言われるがままに従うと、ちゅ、と唇が押し当てられた。少しだけ微笑んで見えるのは気のせいだろうか。
「寝る」
「……おやすみなさい」
本当はろくに力も入れられないだろうに、最後の力でも振り絞るようにきつく抱きしめてくる。その背中を何度も優しくとんとんしているうちに、すっと力が抜けて、また穏やかな寝息が聞こえた。
見上げた所にある、無防備な寝顔が愛しい。
「どこにも行かないよ」
「……ん、ァア、」
「どうしたの?」
寝言かな。
クロコダイルは目を閉じたまま、唸るように声をあげた。
「っ、離したくない……」
「え」
「愛してる」
「!?」
びっくりした……
とんとん、と背中を叩いたけど、やっぱり寝てるみたい。
そんな事、初めて言われた。疑ってるわけじゃないし、言葉がない事は彼なりの愛情だと解釈していたけれど、やっぱり言葉で言われたら、それはそれで嬉しいものだと思った。
にやけた顔を胸に押し付けて、私も目を閉じた。
朝になったら、また元のクロコダイルだろうけれど、起きたら私も同じ事言おう。
* * *
「んっ……」
「おはよ」
「アア、よく寝た」
「クロコダイル」
「なんだ」
「愛してるよ」
「は?」
「どこにも行かないよ」
「当たり前だ」
「どこにも行かないでね」
「……ああ」