Diamànte:丑三つの閨

これは夢だ。
だって私は明らかに飲酒しすぎた。元はと言えば誕生日だからといって、私の生まれ年のワインを惜しげもなくポンポンと開けた彼が悪い。
せっかくのワインの風味が落ちるのがもったいなくて全部飲んだ。今まで飲んだこともないような素敵なワインだったものだから、ひとつも苦ではなかった。多分それが飲みすぎた原因の一端でもある。
人生でこんなにアルコールを摂取した日があっただろうか?
自分の限界にすら気づかずに飲んでいた。だからこんな変な夢を見ているんだと思う。

「なんだ、やけに積極的じゃないか」
「ふふ、だって嬉しくて」

現実の彼だったらこんなに素直に服を脱いでくれるはずがない。
私の思うがままになる彼を見下ろしていると、普段は言いなりになるしかないこの私が、まるで彼を制圧しているような気さえする。
ベッドの上で彼に馬乗りになって浴衣の合わせに手を挿し込むと、抵抗ひとつされずすんなりと受け入れられた。そのまま両手を両肩に押し広げ、滅多に見ることのない彼の素肌を露わにする。
夢に見るほど素肌が恋しかったなんて、かなり寂しかったのかもしれない。

「ずっとこうしてみたかった」
「ククク、脱がしたかったのか?」
「うん」

彼の腰に絡まる角帯を解いて前身頃を肌蹴させる。素肌同士が直に触れた所がひんやりとして気持ち良い。
ふふんと鼻を鳴らして笑う彼の口元がいつもより色っぽく見えた。
シチュエーションのせいもあるのかも知れない。特別な時にしか泊まれない高級ホテルのスイートルームで、カーテンを全開にして間接照明だけをつけるなんて、ドラマかなにかのワンシーンのようだ。
どうせ夢の中なら好きなことをしてみたい。きっと彼は私の思い通りになるのだから。

「口開けて」
「……」

やっぱりそうだ。彼は私が言った通りに薄く唇を開いた。
自分のバスローブを脱ぎながら、彼の唇に自分の唇を押し当てる。緊張して歯がカチカチ鳴った。
なんせ付き合ってもう何年も経つというのに、3度目のキスだ。愛人になって初めてプレイをした時と、愛人が私だけだと知った時。
恐る恐る舌を侵入させてみる。
彼は徹底的に受け身を取るつもりのようで、それを絡ませてはくれなかった。何度も彼の舌を舐るとようやくぺろりとひと舐めしてくれて、私はそれを逃すまいと必死に舌を動かす。
今は我慢なんかしなくていいんだ。

「あっ、ふ……」
「どうした?」

わかってるくせに意地の悪いことを言う人だ。遠慮しつつも我慢できずに下着越しに陰部と陰部を重ね合わせる。私の窪みにピッタリと寄り添う、軟らかいとは言い難い膨らみがそこにあった。
ぐっと押し付けると敏感な所への刺激になって声を抑えられない。
その一方で「EDだからセックスしないというわけではなかったのか」などと冷静に考える自分もいる。
何故今まで肌を重ね合わせることを避けられていたのだろうという疑問が頭をもたげ、純粋な愛情と性欲に嫉妬や劣等感のような汚い感情が混じり合った所で、これは夢だから私の希望通りきちんと勃つのだと思い直した。

「硬くなってる」
「完全ではないだろう?」
「まだ少しだけ」
「何故だ?」

答えはわかっている。
私がいつも通り彼の前で“儀式”をしていないからだ。
こんな風にマウントポジションでしたことは今まで一度もなかったけれど、その台詞は「ここでやれ」と言う意味だろう。これからとてつもなく恥ずかしい事をしようとしている事実に息が荒くなる。
一度深呼吸をしてから彼の胸を跨ぐようにМ字に開脚した。

「まだこれを見せてないから」
「なるほど、」

彼の視線が顔から胸、胸から腰、腰から陰部へとゆっくりと移ろう。値踏みされているようなこの瞬間はいつも緊張する。
どうせタイミングですぐに脱げる。ショーツのままで構わない。
いくら長い付き合いで何度も晒しているとはいえ、流石にこんな位置で堂々とさらけ出すのには抵抗がある。
彼の興奮を煽るようにできるだけ快楽に素直になればいい。ショーツの上から触ると、既に温かく湿った感触があった。

「見て」
「よく見えん」

首を起こして私を見つめる彼は確かに苦しそうに見える。角度が悪いらしい。

「えっ!?」

突然後ろから腰を押され、衝撃で両膝をついた。
そのままぐいと太ももを引き寄せられると、私は文字通り彼の目と鼻の先に膝立ちで跨ることになった。

「や、やだ……」
「恥じらえなどと誰が言ったか!」

なんで。
私の方が上になってるはずなのに結局こうなるなんておかしい。やっぱり私は彼を征服するよりも、夢の中でさえ躾られている方が幸福なのだろうか。
ペチ、
と、いつもよりも優しいビンタが私の太ももに触れた。

「ん……」
「早くしろ、硬くしてみせたいんじゃないのか?」
「したい、」

意を決してショーツに手を差し込む。指先に体液が絡みつき、敏感になった所をいとも簡単に滑っていった。わざと音を立てるようにして軽く中を掻き混ぜると、早速ショーツをつけたままにしたことを後悔した。
滴る体液を布が受け止めてそこに留まる。早く外してしまいたい。けど目の前に彼の顔があると思うとまだ踏ん切りがつかない。きっとその鼻にはいやらしい匂いも届いているだろう。
こんなことを考えているせいで、益々濡れてきて悪循環だ。

「はあっ、ん、」
「どうした、そんな程度でいいのか?」
「んん、まだ、も少し、ッ」

くちゅくちゅと空気を含んだ粘着音が響き、自分の指に嬲られるクリトリスが限界まで主張しきる。彼に管理されたそこは以前よりも大きく膨らんで、理性の限界を待ちわびているように思えた。
快楽に身を委ねるように指先を擦り付ける。

「あっ、あっ、あっ」
「ああ、いい顔になってきた」
「ね、イっちゃう、イく、」
「こら、大事なシーンはきちんと見せなさい、その紐を解いて」
「は、っん」

こんな状態でそこから手を離せだなんて。少し睨むような目で見てしまったかもしれない。
彼はひとつも動じずに、さっきまでと同じくその先の行為を期待する視線を私の両腰の蝶々結びに向けていた。
添えた指は動かし続けるようにして、もう片方の手を使って左の紐を解く。反対側も同じようにして解くと、彼の胸の上にショーツの形を成さない布切れが落ちた。

「んん、それで良い」
「んっ、あっ、」

彼と目が合う。欲を孕んだギラついた目。
ふいに彼の手が太ももを優しく撫で、それが私のスイッチを押した。
今までよりも強い刺激を貪るように腰を突き出して指を強く押し当てれば、あっという間に果てた。

「あ、」
「ククク、良い眺めだった」
「ん、もっと」

後をひく余韻から抜け出せず、指の動きを止められなかった。優しくくるくると円を描く。
自分の手に焦らされて、夢の中でもこんなこと、滑稽な姿だ。反対の手で胸を弄べばそれもまたもどかしい。

「なんだ、せっかく脱いでやったのに自分の指が好きか」
「えっ、あ、」
「ワシが教育してやったのだから当然と言えば当然か」
「やだ、欲しい、お願いします、!」

パッと手を離して降伏した。
両手を広げて自分では触らないとアピールして、ご褒美を貰おう。

「カカカ、欲しいか?」
「欲しい、たくさん、いっぱい、」
「どれ、完全になったか自分で確かめてみろ」

太ももに添えられた手によって、彼の腰の上に沈められていく。
ひだの間に硬く猛ったものを感じて心臓が跳ねた。
遠慮がちに彼の下着に手を掛けて押し下げると、彼が自ら脱ぎ去ってくれた。こんな姿になったここを見るのは初めてだ。
腰を浮かせ、まだ感触でしか味わっていないそこに視線をやる。

「わ……」
「どうだった?」
「お、大きくなってた……」

太めの幹の先に艶のある頭があった。
トロリと透明な液体が溢れ、彼の興奮を知らせてくれる。思った通り、はっきりと血管が浮き出たそこを見て軽く感動していた。思った通りなのは夢だから当たり前なんだけど。
それでも、夢でも、出会えて嬉しいのだ。

「キスしたい」
「駄目だ」
「触りたい、キスしたい、愛してる、お願いします」

目の前にあるのだから好きに触ればいいのに、体が言うことをきかない。彼の胸に両手をついて土下座するように頼み込んだ。

「そんなに欲しいか?」
「欲しい、食べたいです、愛してるの」
「……仕方あるまい、そこまで言うなら愛してみよ。顔はこちらに向けて」

待ちわびた言葉とともに彼の手が私の頭に降ってきた。きつい態度とは裏腹に優しい手つきに絆される。いつもそうだ。
彼の太ももの間に移動して、勃ちあがったそこに唇を寄せる。こうすることをどれだけ思い描いたかわからない。
彼との経験が無いせいで良い所も知らないし、彼と付き合いが長くなったせいでやり方も忘れてしまった。ぎこちない舌遣いが恥ずかしくて目を合わせられない。
拙いながらもなんとか気持ちよくなってもらいたい一心で両手も一生懸命使う。これで気持ち良くなってもらえるだろうか?

「ナマエ」

頭を撫でられながら呼ばれ、返事の代わりに視線だけを彼に向けた。
そこには滅多に見せない優しい微笑みがあって、このままずっと夢から醒めなければ良いのにと強く願った。

「こっちも調教してやろうかのう」

お願いします! と言いたいのに、肝心の口は彼のもので目一杯だ。なんとか意思を伝えたくて目を細めてギュッと先端を吸い込んでみる。

「カカカ、結構結構」
「んっ、ふ、んん」

口の中でドクンと脈を打ち、一層大きくなる。
このまま頑張って口に出してもらいたいような気もするし、1回で終わってしまうなら中に欲しい気もするし、彼に刺激を与えるごとにソワソワした。

「ナマエや、今日はお前に褒美をやろう」
「んっ」
「中に出してやるから上に乗れ」

私の心中を察するような提案に心が弾んだ。そうだ、私は彼の言いなりになっていればいいんだ。それが心地よかったはずだ。
無理にリードなんかしなくていいし、彼の上に乗ったって彼を翻弄する必要は無い。じんわりと染み込むような彼の言葉が緊張を解く。
わざと音をたてながらそこから口を離して上に跨った。もはや征服感なんてどこにもない。言いなりに乗らされているだけのことだ。

「自分で挿れてみろ、じっくり見ててやるぞ」
「っん、」

自分でひだを広げながら彼のものを入口に宛てがっただけで、奥からとろりと熱いものが流れ出る。
いよいよ。
初めて。
どうしよう。
今更になって焦れてしまう。
入口を塞ぐようにピッタリと張り付いた所で思いきれない。

「戯けが」
「あっ……!」

グズグズしていた私を見かねたのだろう。私の腰は汗ばむ彼の両手に掴まれて真下に引き落とされた。
意図しないタイミングで食い込んできた塊に一番奥まで貫かれて、心臓が止まるかと思った。

「一丁前に焦らす暇があったら少しでも可愛らしい声で鳴いてみろ」

せっかく繋がったのに、第一声が罵倒だなんて、なんて私たちらしいのだろう。
彼の手はしっかりと私の腰を捉えて子宮口をくすぐるように下から突き上げた。彼の年齢を考えれば私が積極的に動くものだと思っていたから、予想外の展開に気持ちが追いついていかない。

「あっ、な、なんで」
「なんだ、上手に鳴けないのか?」
「ん、ごめんなさい、あっ、あっ」

下から来る快楽はとめどなく、私の気持ちなんか置いてけぼりだ。焦りながら彼を見てみれば、それはそれは楽しそうに笑っていた。
やはり私は彼の言いなりになっていれば良いらしい。

「中に欲しいんじゃなかったのか」
「あっ、んっ、欲しい、」
「それなら自分で搾り取って見せろ、いつも躾けてやっているだろ」

彼の言いたいことを悟り、彼の足についていた手を離して左手は胸に、右手はクリトリスに運んだ。
中に響く快感に負けないように意識を保ちながらそれぞれをくすぐると、彼の瞳の奥にギラリと欲が燃えるのがわかった。

「んん、はあ、イきます」
「早漏め」
「っ、」

どちらの体液かもわからないような滑りを纏わせたクリトリスを強く扱けば、簡単に果てることができた。
果てた所で彼の律動がやむわけもなく、最初からそういうつもりだろうと目論んでいた私も、両手を止めることはしない。
ヒヒヒ、
と、独特な彼の笑い声が聞こえる。笑い声に混じるはあはあという荒い息遣いが私を興奮させた。

「好きなだけ逝っていい」
「あっ、イく」
「どこが一番いい?」
「中っ!」
「そうか、ここがいいか」
「良い……、っん、んっ、だ、め」

トン、トン、トン、
奥にキスするみたいな刺激は今までの彼のプレイにしては心地が良すぎた。
強引に快楽のてっぺんまで突き上げるような今までのとはまた違って、ジワジワと底から煮えるような快感は体の芯から蕩けそうだ。
温くなったよだれが零れて顎を伝った。口を半開きにして舌を出して喘ぐ私はさぞ無様だろう。私の快楽の波を把握して的確に責めてくる彼が悪い。

「ああ、いやらしい顔だ、もっと見せてくれ」
「うう、うっ、あっ、い、く」
「ワシの可愛いナマエや、」
「はっ、あ、あっ、ああ」
「愛しいのう、ナマエ、っ、クク、ほらくれてやるぞ」
「あっ、和尊さ、んっ!」

腰を突き出すように落とすと一番奥のいい所に彼のものが張り付いて、思わずぎゅっと締め付けた私に合わせてそれは弾けた。びくびく脈を打つのを中で感じる幸せを噛み締める。

「どうした」
「え、あ、ごめんなさい」

知らず知らずのうちに泣いていたらしい。だけどこんなに幸せなの、泣くなという方が無理がある。
彼に腕を引かれるまま胸になだれ込むと、優しく頭をなでられた。そんなことされると余計に泣けてくる。

「お前は最近泣きすぎじゃないのか」
「ごめんなさい」

面倒くさいと思われただろうか。
これが夢でよかった。重い女にはなるつもりなんかひとつもないのに、最近どうも駄目だ。
もっと冷たく突き放して飼い殺しにしてくれればこんなふうにはならなかった。優しくされるせいでこんな夢を見てしまうほどに勘違いしてしまう。

「このまま夢が醒めなければいいのに」

目が覚めれば何もなかったかのように、私にはろくに触れずにきっちりとひとりで眠る彼がそこにいるだろう。夢の中ならこんなに優しい彼が私を抱いてくれる。ずっと優しい彼の隣なら勘違いしたままでもいいのかも知れない。
きっとこのまま“眠り”についたら、現実に引き戻される。
嫌だな。
でも、
また彼に会いたい。

「カカカ、なかなか面白いことを言う」

事が済んだら急激に襲ってきた眠気と酔いに飲まれるようにして、彼の上でそのまま意識を失った。

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