DEAR 06|ダイヤモンド

「また遊んでね、おにーさん♡」
「おう、またな」

一夜限りの女は優しい。
俺が紅髪でも紅眼でも、まるで関係ないように抱きしめ、キスをよこし、隅々まで体を差し出してくれる。幼い頃に願っても叶わなかったそれを叶えてくれたのは一夜限りの女だった。
手放しで俺を愛し、手放しで俺が愛せる、それは間違いなく一夜限りの女しかいないと思っていた。「また」がなくても「またな」で良い。もちろんそれは今でも変わりなく、きっと俺にとって一夜限り女は永遠の愛だ。

「おかえり」
「おう、あ、これ土産、肉まん」
「ありがと!」
「おや珍しい、僕の分まで」
「悟空に取られる前に食っちまえよー」

俺にとって“愛”なんて特別なものでもなんでもない。無責任になれるからこそそこに生まれるものだ。他人の愛については知ったこっちゃないが、俺はこいつらに対してこんなにインスタントな感情を抱いてはいない。
あの日ナマエを拾ってから、あの日八戒を拾ってから、俺はもっともっと大切な感情を知った。

「美味しい」
「八戒、お前も食っとけよ」
「そうですね、それでは遠慮なくいただきます」

美味そうに肉まんを頬張るナマエと八戒を見ると、頬が緩む。買ってきてよかった。
最初はあんなにぎこちなく暮らしていたのに、いつの間にかこいつらがいることが自然になって、いつの間にか「ただいま」「おかえり」と言い合っていた。
本物の方をよく知らないからこれが正しいかどうかはよくわからないが、こういうのが一般的には“家族”なんて呼ぶんじゃねーのかなあ、なんて、なんとなく思った。

「その後、傷の調子はどうだ?」
「もう平気!」
「それはよかった。最初から気功で治せばよかったのに」
「それじゃ意味がないのよねえ」
「そうですかねぇ」

人間に近い生き物だった(はずの)ナマエは、俺達のためか、はたまた自分のためか、本物の半妖になってしまった。そもそも半妖から完全に妖力を奪える装置があるなんて聞いたことないけれど、少なくとも本人がそういうものだと思っている以上、そういうものなのだろう。

で、そのチップを取って半妖になったことが良いのか悪いのかはわからない。だけど少なくとも言えるのは、多分俺と出会わなきゃナマエはチップを取ることはなかったんじゃないか。
俺との出会いがナマエの人生を少しだけ変えてしまったんだろうと思う。もちろんナマエの意思で取ったことは確かだけど。
その責任くらいは俺が取んなきゃいけねーなあ。
せめて、そのチップを取ってまでついて来たことを後悔しないくらいの旅にしてやりたい。
これはなんという感情なんだろうか。愛してるより、もっとずっと大切な。

「なにも外さなくても良かったんじゃないですか?」
「生身の女が妖怪相手に勝てると思ってんの?」
「でも俺と八戒がいるしよ?」

ナマエの首筋の腫れはだいぶ落ち着いてきたが、あんまり見れるもんじゃない。よせばいいのに手術代をケチるからこうなる。
女なんだから綺麗でいればいいのに。そういえば出会った頃も傷だらけだったっけ。あの日に比べれば傷はかなり綺麗に治ったし、ちょっと手入れもしてやってみたら随分見違えるように美人になった。
今のナマエと街ですれ違ったらナンパして抱いてたかも知れない。
だからこそ、俺たちの出会いはあれで良かった。あんなくらい強烈じゃなきゃ、きっとインスタントに消費する出会いになっていただろう。
あんな出会い方をしたナマエは、俺に尊いものを与えてくれて間違いなく特別な存在になった。

「ダメダメ、それじゃお荷物でしょ。大体八戒はいつも忙しそうだし悟浄はキレーなおねーさんにご執心だし、私の護衛なんか誰もしてくれないじゃない。実際私が妖力で戦う選択肢の方が正しいでしょ」
「……ですってよ、悟浄」
「お前だって守れてねえじゃねーか」
「ちょっと! お荷物みたいに言わないでよ!」
「ナマエ、悟浄の下半身のせいで寂しい思いをさせてすみません」
「おい!!」

んん、まあ、たしかに最近ちょっとばかし遊びすぎた自覚はある。美人の多い村だと、つい。

「ねえ、明日三人で村に行こうよ」
「そういえば三人でどこか行くなんて久しぶりですねえ」
「そうだなぁ、んじゃ昼飯兼ねて出かけるか」
「やったー!」

八戒が微笑んで、ナマエが笑う。
そういう日常がずっと続けば、そこに“幸せ”があるんじゃないか。なんだかそういう気がしている。

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