DEAR 09|不増不滅

「本当に馬鹿なことをしてくれたな」
「すみません……」

悟空が動揺して部屋に飛び込んできた時は一体何事かと思ったが、まさかこんなくだらん事だとは思いもしなかった。ついにその不安定なバランスが崩れたかと思いきや、わけを聞けばまあ実にくだらん。
八戒から大方の事情聴取を済ませ、悟空の誤解を解くように命じておいた。そして問題はこの女だ。自覚なしなのはともかくとして男女でそんな話をしてどうなるかもわからんようなガキではあるまい。

「本当になにかあったらどうするつもりだ」
「いやその、本当にごめんなさい」
「そんなに溜まってんなら1人で宿取って好き勝手ナンパでもしてろ」
「でもそれじゃ悟浄が」
「ごちゃごちゃうるせーんだよ、じゃあ俺が相手してやろうか」
「あっ、また、あっ、もう、ごめんなさい」

おそらく完全に油断しきっていたのだろう。男4人の中に放り込まれている唯一の女である事実などすっぽ抜けているとしか思えない行動だ。
普段はナマエのその様子に甘えていたのも事実で、あまり強くは言える立場ではないことくらい自覚しているが、こんなくだらんことで厄介事になっていくのは堪えられない。

「今夜は1人部屋にしてやるから頭冷やせ」
「はい……」
「……もうこんな騒動起こさないように発散しとけよ」
「あっ、八戒のおしゃべり!!」

照れもせずに認めるナマエの真意が、素なのか甘えなのかわからない。しばらく告げ口した八戒に怒っていたが、そのうちまたすっとぼけた顔になって、最終的にはまじまじとこちらを見つめだした。
嫌な予感しかしない。
言いにくそうに上目遣いでこちらの様子を伺っている。

「……なんだよ」
「いや、それで結局三蔵はどうしてるのかな? って思っちゃって」
「まだその話続けんのか、お前は説教食らってる理由が分からんほどの馬鹿なのか?」
「わかってるけど気になるんだもん!」

こいつってやつは……
まったくとんでもない女を引き入れてしまったもんだ。
対面していた椅子から立ち上がると、さすがにビクッとして緊張した面持ちになる。

「八戒の話は理解したんだよな」
「う、うん……」
「なら俺がお前を襲わないとも限らないことは理解出来てるはずだが」
「うそうそうそ、違う、もう聞かない!」
「……」

せっかく誦経に呼んでやったというのに、聞いたその日に煩悩まみれの揉め事を起こすなんて、どうかしてるとしか思えん。本当にわかってんのか。
それとも俺が僧侶であることを今更過信しているのか。

「全部私の性欲がいけないんだ、セックスしたいと思うからいけないんだ、三蔵、私の性欲がなくなるお経を読んで!」
「お前なあ」

そんなもんあるわけねーだろ。
それにしても想像以上に溜まった様子に驚く。悟浄レベルで発散しなきゃなんねーやつもいると思えばナマエはよく我慢してるとも取れるのだろうか。しかしそれを言ったら俺だって我慢しているのだから、同じことだ。

「そんなもん無え」
「じゃあ三蔵も我慢してるの? それともEDなの? まさか信者と……」
「その辺にしとかねーと女だろうが容赦なく撃つぞ」
「すみません三蔵法師様」

馬鹿な犬を見てるようだ。躾のなってない盛った犬にじゃれつかれているような。
その躾のなってない盛った犬と本当は交わりたい俺は、一体なんなんだろうか。馬鹿らしい。

「馬鹿な事言ってないで部屋戻って謹慎してろ、野郎どもは全員こっちの部屋に戻せ」
「はい」
「1人でするなら声出すんじゃねーぞ」
「はい」
「解散」
「はい」

なに真面目に「はい」とか答えてんだよ。馬鹿か。肩を落として部屋を出ていくナマエの後ろ姿が見えなくなった所で、ふと自分の異変に気づいてしまった。

「ああ…… 信じらんねえ」

法衣の下に滾る欲望ほどダセェ姿もないだろう。
まったく本当にとんでもない女を引き入れてしまったものだ。

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