DEAR 10|夜

なんか懐かしいな、この感じ!
慶雲院は女人禁制っつーか一般人立ち入り禁止だったから、ナマエはいつも居なかった。俺はナマエにも会いたいのに、三蔵はいっつも八戒と悟浄を呼びつけるからなかなか会えなくて文句言ってたなー。最終的には勝手に抜け出したけど。
長安に居た時ってなんかいつも喧嘩してた気がするけど、今日も喧嘩になるのかな?

「よーし、今日はみんなで大貧民だぜ!」
「マジかよ悟浄、最高!」
「三蔵もやりましょう」
「俺は寝る」
「ノリ悪いな、こっちこいよ!」

悟浄がいつになくテンション高くて、わりと強引に三蔵を引っ張って卓につかせた。三蔵は普通にいつも通りの仏頂面だったけど、そんなにイヤそうでも無い。てか、なんか変な感じ。

「そんじゃ八戒、カードよろしく。今夜は月が綺麗だなー、酒もうまいし朝までいけるぜ」
「早速僕の出番ですね。悟空、今日はいい勝負ができるといいですね」
「? お、おう?」

三蔵の変な態度が気になってみると、悟浄も八戒も変じゃないか? と思えてきた。
いつもより喋りすぎっつーか、なんか声もデカい気がするし、そもそもなんなんだよ大貧民で「良い勝負ができるといいですね」って…… そりゃ良いゲームできたら楽しいけど。

「お前ら変な酒でも飲んだの?」
「飲んでませんよ、いつも通りじゃないですか」
「そーだそーだ」
「ええ? そんな感じだったっけ?」

いつもはもっと「うるせークソ坊主」とか「殺すぞ」とか言い合ってなかった?
仲良しなのは良いことだけど、なんか変な感じするのは俺がおかしいのかな? ちょっとムズムズする。ちょっと怖くてナマエも居てほしくなってきた……

「なあ、ナマエも誘う?」
「やめとけやめとけ、今日は男だけでやるって決めただろ!」
「いつそんな決まりが」
「いいんですよ、今日は久々に4人でやりましょうよ」
「でも」
「もう配っちゃいましたし」

ナマエが仲間はずれにされたって思わないかなあ? ていうかこんだけうるさいと隣にも響いてると思うんだけど。いつも怒られてる俺が心配なんかして、本当変な感じ。

「じゃあとりあえず始めるかぁ」
「そうそう、そうしましょ」

半ば強引に大貧民が始まったけど、始まったら始まったでやっぱり楽しくて、長安で無茶苦茶してた事を思い出した。あーあ、やっぱりナマエも誘えばよかったのに……
今日の俺は絶好調で、既に3回連続富豪になっている。つーか、多分八戒と悟浄が弱すぎる。本当に変。

「なーあ、八戒と悟浄、手ぇ抜いてない?」
「んなこたねーよ、なあ八戒」
「もちろんで『あっ、あ』すよー」

え?
今なんか聞こえなかったか?

「今日の悟空は絶好調で参っちゃいます『んっ、ううう』ねえええ、三蔵!」
「……そうだな」
「なあなんか聞こえない? ナマエかな?」

どうもうっすらと女の人の悲鳴みたいなうめき声みたいな、苦しそうな声が聞こえてくる気がする。多分あの壁の向こう側、つまりナマエの部屋からなんだけど。ナマエ、どうしたんだろう。

「聞こえねえな」
「嘘つくなよ三蔵!」
「つい『あっ』てねえよ」
「嘘だろ、今のは絶対にナマエの声だ!」

聞き覚えのある感じだったもん! ナマエの声なら絶対に間違えない自信がある。
それと、それに混じって男の人の声もする気がする。まさか妖怪に襲われてるなんてことないよな?

「男の声もするよな!?」
「男だと……?」
「皆さん声を潜めちゃ『んっ、ああ、』『ここですかね?』……ダメ」

なんだ、なんか平和そうな会話じゃん、よかったー。
と思ったのは俺だけだったみたいで、真っ先に悟浄が飛び出して行って、その後を三蔵が追いかけて行った。

「ああ、言わんこっちゃない……」
「ちょっと見てくる!」
「待って悟空!」

八戒の静止は聞こえないフリをして先に出て行った2人のあとを追いかける。
ナマエの部屋に入ると、半裸みたいな格好でベッドに寝そべるナマエと、その上にまたがる見知らぬ白衣のおっさん、そして頭を抱えて床に座り込む悟浄と、おっさんに銃口を突きつける三蔵がいた。
全然状況が飲み込めない。
三蔵が拳銃のトリガーに指をかけると、おっさんは「もう二度と来ない!」と叫んでから泣きながら出て行った。

「なんてことしてくれたの」
「うるせえよ」
「あーあ、くだらねぇくだらねぇ」

ナマエと三蔵が喧嘩を始めて、悟浄はさっさと出ていってしまった。

「お前は俺の話が聞けねえってのか?」
「ちゃんと部屋から出ないで謹慎してたのに」
「男の前で女みてーなことするなってのがわかんねーのか、クソ馬鹿が」

おお、三蔵がナマエにここまで罵声を浴びせるのは初めて見た…… なんてちょっとビビっていると、三蔵は羽織っていたタオルケットをナマエにかけた。
三蔵が優しい……?

「えっ、あ、ありがとう……」
「明日俺が迎えに来るまで誰も部屋に入れるんじゃねーぞ」
「はい、すみません」
「1人の用事が済んだらさっさと寝ろ」
「わかりました、おやすみなさい」

怒られたナマエはしょんぼりしながらタオルケットにくるまっていた。三蔵は俺を無視して帰ろうとするから、慌てて追いかける。
部屋を出る前にナマエに手を振ったら、笑顔でバイバイしてくれたから多分ナマエは平気なんだと思う。
結局なにがなんだかわからないままひと騒動起きてひと騒動終わっていた。

でも俺、気づいてしまったことがある。
三蔵がナマエのことをすごく大切に思ってるってこと。
三蔵はいつも反応薄いし「馬鹿」とか「殺す」とかしか言わないから、ナマエのことどう思ってるのかちょっと不安だった。だけどやっとわかった。
俺たちは5人で仲間だって。

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