DEAR.悟浄 06|感電

ど、どうしよう。
あまりにも少ないバリエーションの服と簡素な化粧品しか見つからず、今夜の悟浄との“初デート”に向けて妥当な準備ができるとは思えない。この間の星の髪飾りは決定として、服は? 靴は? 化粧品は?
よく考えたら、私、ちゃんと“デート”するのなんて、悟浄どころか誰ともしたことないじゃない。

「ナマエ、帰ってたんですね。買い出しありがとうございました」
「八戒!!!!」
「どうしたんです、そんな必死に……」

八戒の腕を引っ張って中身をひっくり返した私のカバンの前に座らせると、一瞬考えてすぐにパッと表情を明るくした。もう何か察したというのか、相変わらず鋭い。

「ナマエには白いワンピースが一番似合いますよ。化粧のことはよくわからないですが、あまり濃くしない方が良いんじゃないですか」

よくわからないというわりに、ちゃっかりシャンパンカラーのアイシャドウを選んで渡してくる。
八戒に言われるがままに渡されたアイテムを取って散らばったカバンの中身を戻しているうちに、いつの間にか部屋が橙色に染まっていた。

「ありがとう」
「いえいえ、今夜楽しんできてくださいね」
「……なんか聞いてるの?」
「いいえ?」

なんで知ってるの?
聞いたところで納得できる気がしない。
へえ、と納得したふりをして返事をすれば、八戒はまたにこりと微笑んで櫛を取って私の背後に回り、髪を梳いた。

「……悟浄は、なんのつもりかな」
「さあ、どうでしょうね」
「八戒も誘っちゃダメなのかな」
「はは、ご冗談を」
「……でも八戒は嫌じゃない?」
「それは悟浄かあなたへの嫉妬という意味で?」
「うーん、なにかと」

だって、ずっと三人で一緒だったのに。八戒と出会う前から悟浄の事を好きだったのは確かだけど、だからってそこに八戒がいなくて良いというわけではない。
それなのに私と悟浄がこれから万が一、どうにかなるとして、八戒はそこに居場所を感じてくれるだろうか。そんな生活に、私と悟浄と八戒は、耐えられるだろうか。

「……仲間はずれは寂しいですよ。でも、あなたたちがどうにかなっても、僕のことを除け者にしたりなんかしないでしょう。だったら二人共幸せに生きていてくれた方が嬉しいです。人間は案外図々しい生き物ですから、どうにでもなりますよ」

まあ僕ら三人とも純粋な人間じゃないですけど。
なんて、八戒は八戒らしく笑った。

「あ、でも、純粋な人間じゃないから、純粋な人間では難しい関係もアリなんじゃないですかね」
「ええ、そういうもの?」
「ものは言いよう、考えよう、ってことで、ここはひとつ」
「八戒のそういう所、大好き」
「やだな、告白は僕じゃなくて彼にしてあげてくださいね」
「えっ」

急に悟浄の存在を濃厚に示されて一気に体温が上がってしまう。顔が熱い。
そうだった、このデートの目的について、ずっとほったらかしにしていた。だって何も考えられなくなってしまう。でも八戒がいればなんとなく、もう少しくらい整理できる気がする。
なんで悟浄はあの時あんなに顔を赤くして、改めてこんな“デート”に誘ったのだろう。このデートになんの意味があるのだろう。

「ねえ、なんで急にこんな事になったんだろう」
「えーと、僕が煽っちゃいました」
「え!?」
「だって無責任でしょう? 特定の相手を作れなんて縛り付けておきながら、ナマエが三蔵と仲良くしてるのを見るのは嫌だなんて」

あ、バラしちゃいました。と笑う八戒を見れば、完全にわかってやっているのだとすぐにわかる。

「なんで三蔵……」
「いつも悟浄がいるポジションに三蔵がいる事が増えたから嫉妬してるんですよ」
「ああ、そういえば」

そんな気がする。以前に比べれば三蔵といる時間は増えた。あまり悟浄と近くに居すぎてもいけない気がして。
近づいたら近づくなオーラを放つくせに、離れたら離れたで嫉妬するとは、なんて面倒くさい男だろうか。知ってたけど。

「……それじゃ、別に私のことを女として意識してるってわけじゃないんだね」
「うーん、それはどうでしょう」
「子供の駄々じゃない」
「アハハ、そうですね。理不尽な要求されたらこっ酷く振ってやってくださいね、あんなの」
「あんなの、って」

あまりにも酷い言い様にこちらも笑えてくる。
確かに“あんなの”だ。八戒の言うことはもっともだし。
ああ、舞い上がってこんなにおめかしの準備してしまったけれど、果たして何かの役に立つことはあるのだろうか。悟浄はただおもちゃを取られて愚図っているだけかも知れない。

「ほら、できましたよ」

八戒に手を引かれて鏡の前まで来ると、結上がったポニーテールがふんわりと揺れた。

「もう時間もないでしょう、早く着替えて化粧しないと」
「そうだった」

八戒の背中を見送ってから急いで着替え、化粧品をかき集める。
約束の時間まであと二時間。期待するのと同じくらい不安で、心臓が狂いそうだった。

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