DEAR.悟浄 10|融和

※直接的な性表現がありますが、性行為はしていません

 

夕飯を済ませて解散になってから一時間弱、悟浄と二人で狭い部屋のベッドに並んで座る。「よう」といつも通りに部屋に入ってきた悟浄は無言で座ったきり動きもしなければ何も喋らなかった。
ただいつもと違うのは、やたらと難しい顔で俯いていることだ。あまりにも重たい空気に自分から口を開くのもためらわれた。そうは言ってももう10分以上もこのままで、さすがに「何しに来たの」くらい言っても良い気がする。

「あの」
「いや、待て」
「えっ」

私の言葉はいとも簡単に遮られ、悟浄の大きな手のひらが私の頭に触れた。

「……俺やばいわ」
「なんで、どうしたの?」
「お前の事考えると身体がおかしくなるんだけど」

突然抱きしめられたのは表情を見えなくするためか。微かに震える悟浄の手は、すがるように私の服を掴んでいる。
悟浄の言う“おかしくなる”というのが単に性欲の盛りを指しているのではない事はなんとなくわかった。具体的にはわからないけれど、ただ震える彼に寄り添いたくて抱きしめ返す。

「どんなふうに?」
「……」
「……黙ってたらわかんないよ、大丈夫だから言って」
「……」

極めて優しく訪ねたにも関わらず、悟浄は言い淀んでただただ私を強く抱いた。

「先に言うけど勘違いすんなよ、俺はお前が好きだ、世界で一番」
「な、急に何を」
「世界で一番好きだけど、俺、お前で勃たねえわ」
「……」

一瞬ですべての点が繋がり、言葉を失う。
いろいろと言いたい事や聞きたい事はあるけれど、上手に言葉にならない。責める気持ちなんか微塵もないけど、どんな言葉にしても悟浄を傷つけてしまう気がして何も言えなかった。

「一応聞くけど、私を女として見れないってことは」
「マジでそれはない。ないんだけど」

俺おかしいんだよ。
絞り出すように呟いた言葉は、今まで聞いたことが無いような弱々しい声色で、たくましく見えた背中はずっと小さく見えた。

「ナマエは綺麗だし、柔らけーし、いい匂いするし」
「ちょ、っと、悟浄」

流れるように押し倒され、シャツの裾から骨ばった手が忍び込む。首筋に噛みつかれたかと思えば、ブラを押し上げた手がその下の膨らみを無遠慮に掴んだ。呼吸は荒く、腕に触れた悟浄の胸はどくんどくんと脈を打つ。

「わかるだろ、興奮してる」
「わ、わかった、わかったから」

これ以上続けても傷つけるだけだと思って腕を張って胸を押し返した。悟浄は眉間にしわを寄せて悲しい表情を浮かべ、そのまま乱暴に上下の服を脱いで全裸になると布団に横になってしまう。
目のやり場に困っていると、隣から「脱げよ」と小さな声がした。
脱がせてほしいなんて要求している空気ではなく、戸惑いながらも服を脱いだ。下着を脱ぐかどうかは迷ったけれど、ちらりと目に入った戦闘準備の整わない剥き出しの彼自身に倣って私も脱ぐことにした。

「ごめん」

そう発した悟浄の表情は、腕で覆われていてよくわからない。
せっかく脱いだのにこんなままでいるのも嫌だし、だからといって無駄に悟浄の自尊心を傷つけたくもない。悩んだ挙げ句に悟浄の顔に覆われた腕を取り、それを枕にして転がった。

「悟浄、悟浄」
「……なんだよ」
「私、悟浄に会ってからわりとすぐに悟浄の事好きになったの知ってる?」
「……そんな前なの」
「そうだよ」

正確にいつからとは言えないけれど、ただ長く思っていたのは事実だ。

「つい最近、一旦好きじゃなくなろうかなって思った」
「おい」
「いや、無理だったから」
「なんだよそれ」
「無理だったから、ずーっとあのままでも仕方ないなと思ったんだよ」

このままずっと、悟浄と私の関係が何も変わらず、友達のような家族のような言葉にできない不思議な関係であっても、未来永劫それが維持できるならそれで良かった。
私にとって何より大切なのは、悟浄とセックスすることよりも、悟浄の側にいられる事だった。実際問題、それだけじゃどうにもならない性欲が私にあるのは事実だけど。まあそれはお互い様のご愛嬌ってことで。

「何が言いたいかっていうと、私、別に今更そんな事気にしないから」
「情けねーだろ、さすがに」
「ううん、関係ないよ。今までだって悟浄の愛情の形はそうだったじゃん。ずっと」
「だからそれは悪かったって」
「違うよ、そうじゃなくて。急に愛情表現変えるのなんてできなくて当たり前だよ。悟浄がずっと私の事を大事にしてくれたのはわかってるから、十分なんだよ」

隣から鼻をすする音がして、ああこれは見てはいけないと悟る。ただそれは離れるという行為とはイコールではなくて、むしろもっと近くに居たいと思わせた。
重いかな? とは思ったものの、悟浄の広い胸の上にうつ伏せに乗って心臓の辺りに耳をつける。鼓動が脳に届いて心地よい。

「十分なんて言うなよ」
「もちろん今後そのうちできたらいいなって思うけどさ。どんなセックスするんだろうってずっと考えてたし。悟浄のが大きくなった所なんか見たことないし。ていうか私、セックス自体何年もしてないし」
「ハハ、欲求不満かよ」
「不満だよ。でも大丈夫だよ。コミュニケーションとしてのセックスなら他にもやり方があるしさ。この間、すごく良かった」

いたわるように背中を抱きしめられて、私の言葉や存在が赦されたと思った。直接触れ合う肌と肌の温度を確かめ合うだけで、十分幸福に包まれている。悟浄も同じだったら良いのに。

「じゃあ俺なりの愛情表現するけど」
「うん」

またその大きな手で抱いてくれるの?
そんな甘い期待で胸が高鳴る。

「お前、俺の事好きなら三蔵に媚び売ってんじゃねーよ」
「えっ」

そして瞬時にその期待は打ち砕かれた。

「三蔵好き~♡ じゃねーよ。つーか俺以外の男になんか触んなよ」
「そ、そんなぶりっ子して言ってないもん」
「じゃあ俺に好き~♡ってぶりっ子して言ってみろよ」
「“じゃあ”の意味が全然わかんないんだけど」
「ほら」
「えっ」
「早く言えよ」

ぺちん、と太腿を叩かれ、心地よい痛みに身を捩る。なんだ、やっぱり嫉妬してたんだ。さっきまで泣きそう(ていうか泣いてたでしょ)だったのに、こうやってすぐに切り替えて私に気を遣わせないようにする。本当は気なんか遣えないくせに。私にだけ甘い悟浄が好きだ。

「好き」
「もっと言えって」
「悟浄大好き」
「……ナマエちゃんお願いがあるんだけど」
「なに」
「俺の舐めてくれる? 勃たないかも知んないけど」
「ふふ」

そんなの当たり前じゃん。と、答える代わりにそこに触れて撫でれば、悟浄は嬉しそうに微笑んで、あの日ぶりの優しいキスをくれた。

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