DEAR.悟空 10|幸福

朝、目が覚めたら金色の瞳がこちらを見つめていた。私の瞳を捉えたそれはパチリと瞬きをしてから細められ、おはよう、と笑った。
こんなにも幸せな目覚めがこの世にあるものかと思うと、寝起きから肌が粟立つような気になる。
セックスを持ちかけて断られるというとんでもなく恥ずかしい体験をしたにも関わらず、不思議と不満も羞恥心もなく満たされた気持ちでいっぱいなのだ。

二人で準備をしてから朝の集合場所にした悟浄たちの部屋に向かうと、既に全員起きていてコーヒーを飲んでいた。てっきり悟浄はまだ寝てると思ったのに。
おはよう、と挨拶して自分と悟空用のお茶を淹れる。

「おはようございます」
「おはよ! 朝メシは!?」
「相変わらず朝っぱらから元気100倍だな。こりゃ“どっち”かわからんね」
「どっち?」

悟浄はニヤニヤしながら悟空と私を見比べてから八戒に視線を送る。

「不謹慎ですよ」
「んだよ、さっきまでノってたじゃねーか」
「ナマエ、身体の調子はどうですか? 昨日の今日ですからあまり無理しないで」
「無視すんなコラ!」
「私はなんともないよ、全然平気」

またろくでもない賭けをしていたのだろう。大方想像がつくその賭けの内容なんか聞きたくもなくてスルーした。
八戒の問いかけはなんとなく引っ掛けになっている気がして、気づかないふりを決め込む。

「どっちって何がだよ!」

ああ、せっかくスルーしたのに……
自覚するほど悲しげな顔をしていると、八戒も同じような顔でこちらを見た。くそ、自分だって乗り気で賭けしてたくせに。多分。
悟空がいつものノリで悟浄に突っかかっていくと、肩を組まれてコソコソと何か吹き込まれている様子だ。しばらくすると顔を真っ赤にした悟空が悟浄の後頭部をすごい勢いで張り倒した。

「やんねーよ、糞バカドエロエロエロ河童! 二度とそんな目で見んな!」
「ッてーな! 暴力はナシだろ暴力は!」
「俺はともかくナマエのことそんな目で見たら次は本気でやるからな!!」
「はいはい」

結構強めに殴られたというのに、悟浄は謎に余裕な態度でまだニヤニヤしながら悟空を見ている。

「はー、俺の一人負けってか? あー残念だ残念だ」
「負けたくせに随分嬉しそうですね」
「あっやっぱり八戒も賭けてた」
「すみません、悟浄がどうしても予想しろって言うものですから」

申し訳なさそうな素振りを取り繕ってみても私にはまるで無駄だ。絶対にそんなこと思ってないと、すべてお見通しなのだから。
三蔵の様子を伺うと、一切興味無さそうに新聞に目を通していた。顔を赤くした悟空は悟浄を睨みながら三蔵の隣でお茶を啜る。

「三蔵も賭けたのかよ」
「俺は知らん」
「しないって言ってましたよ」
「八戒てめぇ」
「三蔵までナマエのことをそんな目で!!」
「見てねえっつーんだよバカ猿が」
「って!」

スパン!
とよく通るハリセンの音が響き、朝っぱらから酷く下卑た争いは幕を下ろした。本当にろくでもない。
私と悟空が同じ部屋になる度に毎回こうなるのだろうか。信じられない。いい歳こいた大人が。

……でも次って、本当にする日だ。
本気で勘弁して欲しい。楽しみだった気持ちに水を差されたようで段々腹立たしく感じてきてしまう。
悟空が言ったように、お互いがお互いの事しか考えられないくらい好きな気持ちで溢れた行為になるべきなのだ。
それが私たちの形であって、こうやって誰かに何か言われるのではなんて心配しながらというのは違うのだ。

「悟浄」
「ん?」
「次同じネタで賭けたら二度と口聞かないから」
「えっ」
「あーあ、意地悪ばっかりしてるからですよ、自業自得ですね」
「言っとくけど八戒と三蔵もだからね」

何を他人事のような事をのたまうものか。余裕げな八戒も睨みつけると、いつもの笑顔を向けられて毒気を抜かれる。

「それは困りましたね」
「俺は何ひとつ困らねぇが」
「じゃあ三蔵はジープの席交換だから」
「……」
「はい、ではそういう事で、この件は各自お察し下さいという事でおしまいにしましょうね」

八戒がピシャリと手を叩き、今日のスケジュールについて話し出す。
それはもはやいつも通りの光景で、私の意図が素直に届いていると信じたい。
斜向かいに座る悟空に目配せをして笑う。また今日も一日が始まる。

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