DEAR.三蔵 02|受想行識

悪夢で目が覚めた。
昨晩、悟空たちは明け方近くまでトランプに興じていたようで、3人揃ってとんだだらしない状態で眠っていた。起きる様子もない。
まだ5時じゃねーか。こいつらも当分起きないだろうし、もう一度寝るか。そう思って布団に入り直すと、壁一枚向こうから女がすすり泣く声がした。

「馬鹿野郎が」

……
…………チッ、めんどくせーな。
女の泣き声なんぞ聞きながら眠れるかよ。
下僕どもを起こさないように部屋を抜け出して隣の部屋に向かったが、扉をノックしても返事がない。

「……おい、俺だが」

一応声をかけてみるとバタンと大きな音がした後に慌ただしい足音が続き、何やら凄い勢いで扉が開いてナマエが飛び出してきた。
すっ転びそうだったから受け止めてやれば、そのまま抱きついてくる。一体なんだってんだ。部屋の中に押し込んでベッドに座らせ、向かいに椅子を置いてとりあえずそこに腰掛ける。煙草に火をつけて一呼吸置いた。
ナマエは顔面を両手で覆い、ずっと俯いている。

「スッキリしたんじゃねーのかよ」
「だめだった、」
「駄目ってなんだよ」
「ちゃんとイけたけど自己嫌悪がやばい」

イったのかよ。
今顔を覆うその白い指でどこをどうやって触ったんだ?
ムラムラ滾り出した欲に我ながら情けなく思うが、欲は湧いてくるもんだから仕方あるまい。

「三蔵」
「なんだ」
「三蔵のお経が聞きたい」
「明日の昼間聞けるだろうが」
「今がいい」
「…………摩訶般若波羅蜜多心経」

俺が素直に言うこと聞いてやるんだから感謝しろ。さすがにいつもみたいに張り上げてはできないが、ナマエの耳に届くくらいの声量で誦経する。
物好きというかなんというか。求められて悪い気はしないが。読み上げるにつれて冷静さを取り戻してきたように手を落とし、終わる頃には顔を上げてぼんやりと俺を見つめてきた。

「ありがと」
「満足か」
「まだ捨てきれない」
「何をだよ」
「……悟浄が好き」

ああそうか、こいつ悟浄でやったのか。ナマエがここに至るまでの経緯を想像で補完して、馬鹿なことをしたもんだとため息をつく。

「せっかく三蔵が時間くれたのに、なんか馬鹿な使い方しちゃった」

自覚はあるようだな。

「私悟浄が好きだから、わかる。私は悟浄の“女”にはなれない」
「そーだな」
「今が最高の“特別”な関係」
「……そうかもな」
「出会わなきゃよかったなんて、思いたくなかった」

そう思ってんのかよ?
と、思ったら妙にむしゃくしゃしてきて、身を乗り出してナマエに口付けてやった。驚いているせいか無反応なものだから、それをいいことに押し倒しながら舌を突っ込む。無抵抗な口内を散々犯して顔を上げると、ナマエはまた泣きそうな顔で「どうして」と言った。

「はあ?」
「なんでこんなこと」
「好きだからに決まってんだろう、馬鹿か」
「……いつから?」
「前から」

前っていつ? とか面倒くさいことを言うからもう一度口を塞ぐ。

「お前が出会いを後悔してんならもう遠慮はしない」
「思いたくて思ってるわけじゃない」
「結果的に俺に出会えたことに感謝するんだからそんなことで悩んでんじゃねえ」
「は……」

一瞬目を見開いたあと、小さく笑いだした。十中八九馬鹿にして笑ってるんだろうが、まあグズグズ泣いてるよりはマシだと思っておいてやろう。
起き上がってからナマエの手を引いて座らせる。ああ、もう朝だ。

「落ち着いたか」
「うん、ありがと」
「俺は戻るぞ」
「……うん」

なに寂しげな顔してやがる。そういう所を治せって、何度言わせりゃ気が済むんだこいつは。

「言っとくが、俺はずっとこのままここに居てやっても構わない」
「えっ」
「ただし明日あいつらから質問攻めに合うのは間違いないな。俺は本当のことしか言わねえし、雰囲気次第ではお前を食う」
「うん、いや、大丈夫です、またね」

詰め寄っていくと遮るように両手でバリケードを組まれる。こうやって狼狽えるくらいなら誘うような顔なんかしなきゃいい。
顔の前の腕をどけて軽くキスをしてやった。いい加減懲りて俺以外の男の前で女らしいことしなきゃ良いんだが。

「またな」
「お、おやすみなさい」

もう朝だっつーの。
部屋に戻ってみると、朝日が降り注ぐ中で男ども3人が未だに爆睡していた。どいつもこいつも世話がかかって面倒くせえな。
でもまあ、たまにはこんな日も必要か。おかげで多少いい思いもしたし。こいつらを起こそうかどうか迷って、もう一度ベッドに体を沈めた。

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