彼の前で裸になるのはこれで二度目だ。
初めての時はただ裸を晒して身体検査でもするように目視されただけだった。ひょっとしたら今日もそんな感じなのではなんて思っていたが、どうもそんなことは無いらしい。
「さて、そこに座れ」
「はい」
羞恥心が無いかと言われれば嘘になる。なんせ彼は袂一つ乱れずきっちりと和服を着込んでいて、着衣と脱衣のコントラストがこれほど精神的に揺さぶられるものだとは知らなかった。それも午後2時の出来事となれば。
ショーツ一枚だけを身につけて彼に指示されたようにベッドの上に正座すると、彼は何か考えてから私の太ももに触れた。節くれだった手指には適度に肉がついている。彼の年輪のようなものを感じて妙にときめいてしまう。
「そんな座り方で何が出来る」
「あ」
「ほれ、きちんと見せろ」
尻もちをつくように後ろ手に上半身を支え、彼に向かって足を開く。
こんな真昼から明るい部屋で憎からず思う相手にこんなこと、羞恥以外の何物でもない。申し訳程度に生身と彼の目を隔てるショーツだけが心の拠り所だった。
「お前、下着に好みはあるか」
「下着、は、あまり意識をしたことがありませんでした」
そうか、愛人だもの、さすがに無頓着ではいられない。今の今まで防御の一部であったその布が、途端に恥ずかしい物に変わる。
決して粗末なものではなかった。色気も無くは無いだろう。今までの私ならいわゆる勝負下着にでもできた。だけどそれは、果たして“愛人”としてふさわしいかと言われたらどうだろう。パッとイメージできる愛人らしい下着といえば、レースやサテンをメイン素材にしたシフォンのようなフェミニン全開なデザインではないだろうか。
そう考えると私の下着ではあまりにも“普通”すぎるのだ。
「そうか、それなら後でカタログをよこすから好きなものを選べ」
「わかりました」
暗に「お前の下着は好みではない」と言われ、さっきとは別の羞恥心が襲う。浅慮だった。彼はきちんと今日この時間にこういう行為を行うと予告していたにもかかわらず。私の準備不足だ。
「どうした、恥じているのか」
「すみません、申し訳なくて」
「ふん、育て甲斐の無い女なんぞわざわざ金を出す価値もない」
彼の視線は一直線に私の足の間に向かう。一切視線の合わない中で投げられた言葉と間髪入れず、彼の太い指が太ももを滑ってあと一歩の所まで届いた。
言葉を理解しきる前に性急に展開していく行為に飲まれてしまいそうだ。
「とりあえずそれは脱げ」
「はい」
言葉は荒いけれど、そこには決して怒りや呆れは無いことがわかる。私の不安を包み込むような穏やかな声色。ああ、この声だ。この声が私を惹きつけた。
指示どおりにショーツを脱いで再び同じ姿勢に戻ると、今度こそ私の全てが暴かれてしまう。まだろくに色っぽい展開にすらなっていないというのに、自分でもわかるくらい潤っているのがわかる。濡れたショーツがばれないようにさり気なく枕の下に差し込んだ。
「お前はやっぱりワシの見込んだ通りだ」
「な、ん」
何の前触れもなく突然触れた指が水気を塗り拡げるようにうごめく。こんなこと、いつぶりだろうか。彼氏もしばらくいなかった。彼氏がいないからといってセックスをしなかったわけではないけれど、それでもかなり久しぶりに思う。
くまなく触れていく指先が一通り“触診”を終えると、ゆっくりと先端が侵入して内部の触診が始まった。
「さて、どこかのう」
彼は私の足の間に腰を据え、あらゆる方向に指を当てた。
それがあまりにも性行為というには機械的すぎて、呆気に取られたように彼を見つめてしまう。彼はというと真剣そのもので、私の視線に気づくと睨むようなあざ笑うような、悪い顔をしてそのまま視線を離してくれなくなってしまった。
蛇に睨まれた蛙、だとか、まな板の鯉、だとか、そんな表現が似合う状況だというのに、全然嫌じゃない。怖くないし、不安もない、不思議な感覚だった。
「んっ」
「ここか?」
「は、ん」
私の少しの反応も見逃さず、今度は同じ所を重点的に力の加減を変えながら刺激される。
少しでも目を伏せようものならあの優しい声で叱られた。ゆったりと言葉を紡ぐ彼の声は、雨が土に染みていくように私に馴染んでいく。
必死に彼の目を捉えれば、満足そうに口端を釣り上げる。
「ほれ、覚えておけ。ここだぞ」
「あっあっ、ん」
「自分でも触れるようにしろ、いいな」
「は、い、っ、っく」
「まだだ」
あと少しで昇り詰めるという所で、快楽の波が止まってしまった。随分楽しそうに笑って、意地悪な顔。
「覚えるまでいかせんぞ」
「覚えました!」
「ヒヒヒ、嘘つけ、淫乱め」
その動きは快楽を与えるためのものではなくて、なんらかの躾を施すためのものだった。決して波には乗らないような速度。それでいてまるっきり機械的というわけでもない。
「ここだぞ?」
「はい」
「ほれ、こういう動きでもいい」
「っはい」
トン、トン、と叩くような刺激が刻み込まれていく。時折抉られると、電流が流れたようにビリビリと甘い刺激に変わる。
何度も「ここだ」「はい」の応酬を続け、私の身体は完全に蕩けきってしまった。身体も意識もふわふわと宙を浮くような。彼に弄られている所を中心に身体が溶けていく感覚。
「わかったか?」
「は、い、わかりました、ここ、気持ちいい」
「それでいい」
「んっんっ、あ、っ和尊さん、あっ」
「いいぞ」
「は、っあ、あ、和尊さん……っ」
努力はしたが、もうまぶたを開いておくのも限界に近かった。薄く開いたまぶたの隙間で彼の意地悪な笑みを眺めながら、彼の指にイかされた。
身体の中からうずくような甘い快感としびれがずっと続いて、私の意識とは裏腹に腰と足が震える。
今まで体感したことのない感覚に戸惑った。これが『絶頂』なのだとすれば、今までの経験なんて無に等しい。
「あ、あ……」
「ヒヒヒ、なんだその顔は、だらしない」
「ごめ、なさい」
叱責の言葉を吐き捨てる彼は随分嬉しそうだった。
水分を払うように手を振る姿を見て初めて私が信じられないほど濡れていたのだと気づく。
初めてだらけの経験に気圧されてしまい、身動き一つ、言葉一つ、気の利いたこともできない自分に呆れる。
彼はそんな私を見ても少しの文句も言わず、ただ満足そうに笑っていた。