一条|酩酊

店長は優しい。
いや、時々怖い表情してるし、客には内心めちゃくちゃ冷たいし、多分会長のこと心底嫌ってるし、私にも結構辛くあたることも多い。
でも店長は優しい。
なんだかんだ言っても今日みたいに忘年会やってみたり、従業員全員が参加するほどの人望もある。仕事は人一倍熱心だし、身だしなみはいつでも完璧。
高級な車に乗って、上等なスーツを着て、丁寧な印象の店長は、私にとって“これぞ大人の男性”というそのままのそれだった。
憧れていたのだろうか。今となってはよくわからないけど、素敵な男性だと思っていたのは確かだ。
だから今、とてつもなく戸惑っている。

「んっ…ふ…て、店長……」

そこそこお高いホテルの部屋のソファに押し倒された私は、店長によって唇を塞がれていた。おまけに記憶も曖昧だ。
店の近くのバルで忘年会をした所まで覚えているけど、そこから今までの記憶がほとんど無い。それが今、店長がこんなことするから、回ったアルコールも吹っ飛んだ。
店長の肩を押し返そうとしたけれど、見た目以上に力が強くて私ごときではびくともしない。

「一条店長、やめましょう、ね、次会った時に困っちゃいますから、」
「……」
「店長?」

店長は無言で私から離れると、おもむろにワインの栓を開けて飲み出した。
そんなもの買い込んでいたなんて……
まだ飲む気なのだろうか。
そんな風に考えていた私の唇は、再び店長に塞がれてしまう。
強引にこじ開けられた口の中にはワインが流れ込んだ。口を閉じさせまいとするように店長の舌がねじ込まれて、私の舌を絡めとった。
飲むしかなくなったワインを飲み干しても、店長の舌は離れることなく私を貪る。舌の性感帯を舐るように絡められたそれは意識を蕩けさせた。
この状況もある意味「大人」なのかも知れない。
後腐れなく今をやりすごすことができたら、私は店長に見合うような「大人の女性」になれるだろうか。無駄な抵抗をやめた私の体がソファに深く沈んでいった。

「んっ…ん」
「口を開けろ」

言われるがままに唇を開けば、再び口移しでワインを飲まされる。
せっかくはっきりしてきた意識なのに、間もなく朦朧としてしまうだろう。
シャツの裾から侵入してくる店長の手を止めようとは思わなかった。器用に下着を取り払われて、あっという間に店長を受け入れる姿にさせられてしまう。
店長のことが好きかもしれない。
嫌じゃないけど、こんな形でセックスしようとしていることに対しては少し悲しく感じた。
こうなったからにはもう、私と店長の間に恋愛が成立することはないのだろうから。所詮酔った勢いのセックスパートナーなんて、いわゆる都合の良い関係に過ぎない。
それが少し寂しかった。
でも、こんな状況に濡れてしまう自分がいるのもわかっていた。

「て、んちょ……」

音を立てて私の両足の間で陰部を舐める店長の頭を抱いた。
きちんと手入れされた指先で私の肉ひだに触れて、あのきれいな口から舌をぺろぺろと伸ばしてクリトリスを弾く。
店長の手のひらに押し広げられた太ももが熱い。
冷静でいられるわけがない。
上目遣いで覗いた店長と視線が合ってしまい、どうしていいかわからずに下唇を噛んだ。
いい加減満足に湿ったそこから離れた店長は、私を横抱きにするとベッドに横たわらせた。店長の髪が頬を掠めてくすぐったい。
早く意識を手放したくて仕方がなかった。
もう忘れたい。
今という甘美な時間は全部夢だったことにして、店長と繋がった時間は全部、消えてしまえばいい。
そうすれば、店長に抱いていた恋愛感情にやっと気づいた私でも、もう少しうまくやれたかも知れないのに。もうきっとこれから先は無いのだと思うと、泣きそうだった。

「口」

言われたとおりに口を開けて、店長からのワインを受け止める。それが駄目押しになった私の意識は、またそこで途切れてしまった。
翌朝ベッドで目が覚めた時、そこに店長はもういなかった。

→後日談

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