SLY:00

案外、こんなもんか。
数年ほど友達としてやってきた男と寝たけれど、特別な感情が沸くこともなければ気まずくて避けようという気にもならなかった。ただ願わくば彼も同じように“無”であったらいいけど、と、そう思う。

馬鹿みたいに高いホテルの馬鹿みたいに広いベッドで私に腕枕をしていたはずの彼は、私が目を覚ました頃には背を向けていた。
流れるような赤茶色の長い髪は一見女にも見える。だけどその下に隠れた広い肩幅や肩甲骨は男性そのものだ。
……まあ昨晩散々抱かれておいて、今更彼のことを「女みたい」なんて思ったりはしないのだけど。
つけたままにしていた腕時計を見るとまもなく4時になる所だった。今から軽くシャワーを浴びて化粧を直せばもう電車が動き出す頃になるだろう。一応時刻表でも調べようか。ああ、そうだ。スマートフォン。ソファに放置した鞄の中だ。
申し訳程度に掛けられた薄いシーツから抜け出してソファに腰掛け、スマホを取り出すと見知った名前の通知があった。
酔った勢いでここまで来てしまったけど、そういえば職場の男からの連絡を無視していたんだった。正直面倒くさいという気持ちもありつつ、顔もスタイルも良い男なので無下にするのは惜しい。
食事の誘いに「喜んで」と返事をする頃にはもうベッドの男の事などどうでもよくなっていた。

それから身支度を整えた私は、少し離れた所で穏やかな寝息を立てる彼の背中に挨拶することもなくホテルを後にした。

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