妙にリアリティのある夢を見て、まるでただ目を閉じていただけと言わんばかりに目を開くと、そこにはベッドサイドの照明があった。
しまった。酔っていたとはいえ女の子に背を向けて寝るのはちょっと嫌な感じだ。そう思って寝返りを打つと、そこにいたはずの彼女がいなかった。少し身を起こすとソファにもたれかかる頭が見えて、思わず声を掛けるのをためらってしまったのだ。
あの時声を掛けていたら、俺は毎日のように彼女の事を考えていることも無かったのだろうか。
彼女はそれから俺の隣に来ることはなく、それどころかこちらを見ることもなく、昨夜のことなんか無かったかのように部屋を出ていった。
そしてそれ以来、なんの連絡も無い。
「自分で連絡すれば」
「うーん、なんか、どうなのかなって」
「はあ? どうもこうも用事があるから連絡するんでしょ」
神楽は相変わらず心底嫌そうな顔で俺を見た。別に相談したかったわけじゃないんだけど。
Revelが集まるまでの間になんとなくこぼした愚痴には正論が返ってきて、言葉に詰まる。
確かに目的と行動が伴うならば俺は彼女になにかしらの用事があることになるが、これといって用事らしい用事は思いつかない。
それどころか「俺は君に用事が無い」ということを伝えたい時すらあって、我ながら意味不明すぎて混乱する。
「用事がないのに連絡したいなんてさ」
「いいよ、言わないで」
「……あっそ」
左から突き刺さる視線を見つめ返す自信がなくて手元を見ると、綺麗に磨かれたグラスにはうっすらと自分の影が落ちた。
壁を作るような態度を取った俺を見た神楽はわざとらしく盛大なため息をつく。俺は俺であまりにも情けない自分に呆れて自嘲してしまい、ようやく神楽の方を見る事ができた。
神楽はもう俺の方を見ることもなく、ぼんやりとスマホの画面を見ている。指の動きからしてどうも誰かにメッセージを打っているらしい。
何も考えずにああやって彼女にメッセージを送れていたのはやっぱりあの日以前の話だった。
「ねえ羽鳥」
「ん?」
「……」
「え、何」
呼びかけたまま何も言わなくなった神楽が気になって顔を上げれば、その視線は俺を通り越した先に向けられていた。呆然としている表情からして、そこにあるものを伝えたくて呼びかけたわけではないことはわかる。
確認すべきか否か。
それほど長考しているとは思わなかったけれど、すぐに答えを知ることになった。
「あ、偶然」
聞き覚えのある声に少し遅れて現れたのは、ずっと考え続けていた彼女だ。
神楽が呆然としていた理由もすぐにわかった。彼女の隣に居たのが見栄えの良い背の高い男だったから。
「偶然だね、ナマエ」
「まさか二人が居るなんて思わなかった」
「慶ちゃんと桧山くん待ちだから」
「ああ、そっか、なるほど」
俺のことなんかまるで目に入らない様子のナマエは、楽しそうに神楽と話している。見慣れた光景なのに、なぜこんなにも距離を感じるのか。
ふいに視線を泳がせると隣の男と目が合う。お互いに無言のまま。
湧き上がる腹立たしさを噛み殺すように余裕ぶった微笑みを浮かべてやれば、男は気まずそうに会釈をした。
「あの、ナマエさん」
「あ、ごめんなさい、えーっと、同級生の友達です。それじゃ亜貴くん、と、羽鳥、またね」
軽く手を振る神楽と張り付いた笑顔のままどうにもできない俺に向けられた背中は、相手の男に寄り添っているように見えた。