DEAR.悟浄 05|落雷

先日三蔵に献上品を差し出した所、三蔵が私に心を許してくれた気がする。なんとなく二人でいることも増えたような。例えば三蔵と悟空がそこに二人で居たとして、その輪の中に私が居てもまるでなんの違和感もないくらい、受け入れてくている。
私も鈍いままではいけないと思って神経を尖らせてみたこともあったけど、そこにあるのは別にいやらしいものではなくて、やっと仲間に入れた、そんな気がして嬉しかった。

「ありがとう」
「ああ」

てこでも動く気のなかった三蔵が買い出しに行くことも多くなった。付き合って、と言えば来てくれる。
なんだ。私って、悟浄と八戒がいなくても上手にやれるんだ。
もちろん悟浄と八戒の力添えもあってのことだけど、全部が全部頼り切りにならなくたって、こうやって普通の人間関係が築けるくらいは他人の事が信用できる。
そう思うと自分の自信に繋がったし、その自信を与えてくれた三蔵が好きになった。いや、もちろん心の彼氏(希望)は悟浄なんだけど。そういう好きではなくて。

三蔵が持っていた荷物を受け取り、個人別に振り分けてしまえるものはしまえる場所にしまう。三蔵は八戒のように世話を焼いてくれはしないけれど、困った時だけサッと手を貸してくれるような優しさがある人だと知った。
素直じゃないっていうか不器用っていうか。……ちょっと悟浄に似てるかも。

「おい」
「え?」

声の主を見やれば普段から深い眉間のシワを一層深めた三蔵が、私のシャツの裾を引っ張って耳元に顔を寄せる。

「なに」
「お前の飼い主が睨んでるからなんとかしろ」
「は?」

飼い主ってなによ、変な冗談言っちゃって、三蔵ってば本当私に打ち解けてくれたんだね。
なんて脳天気な事を考えつつ、しまおうとしていたコーヒーの粉を持ったまま三蔵の視線の先に顔を向けた。

「……ァに見てんだよ」
「えっ」

ここ数年、というか未だかつて、ここまで不機嫌かつ不愉快をハッキリと表した悟浄を見た事があっただろうか。
眉間には三蔵よりもずっと深いシワをたたえ、もはや地団駄一歩手前の激しい貧乏ゆすりで足が震えている。頬についた手や小顔ながらも広めの額には血管が浮かび上がり、ただでさえ悪い目つきがもっとすごく激しく悪い。
溜息をついた三蔵は一言「どうにかしとけ」と呟いて私の背中を押し、ライターを引っ掴んで部屋を出ていってしまった。
どうにかしとけって、言ったって。

「えと…… 悟浄?」
「なに」
「な、なんかあった……?」

とりあえずコーヒーの粉は放り出して悟浄に近づいてみると、私の顔を見た悟浄はハッとしたように一呼吸おいてから溜息をついてゆるゆると頭を左右に振った。バツが悪い時の態度だ。
頭を掻いていた腕にはめられたヘアゴムのシルバービーズに髪が絡まって、ピンと弦を張るようにしてから引っこ抜ける。

「大丈夫?」

しばらくその抜けた髪だかヘアゴムだかを見つめた後、ようやくまた私と視線を合わせてくれた。
その顔は随分と焦燥しているような困惑しているような、ただ少しだけ優しい顔で、なんと言っていいのかわからなくなってしまう。大丈夫、なんて陳腐でどうしようもない言葉しかかけられない。
私の知らない所で、悟浄に何があったのだろうか。私だけの悟浄とはお別れしたけれど、それでもチクリと胸が痛んだ。

「ナマエ」
「何?」
「今夜、俺とデートしようぜ」
「なんだ、そんなこと。いいよ、いつでも。なんなら今からでも」

食事か、買い出しか。この間の懐かしい空気が楽しかったのだろうか。私も楽しかったけれど。それで悟浄の息抜きになるならいくらでも付き合う。
今から出かけるのなら早く荷物をしまわなければ。踵を返そうとした所で、悟浄に腕を引かれてそれを阻まれる。

「いや、今夜でいいから、荷物はゆっくりでいい」
「え、そう?」
「今夜、デートだからな」
「うん、ご飯でしょ? 買い出し?」
「飯だけど、デートだから」

やけに強調するな……
そこまで言われてしまうとさすがの私だってちょっと意識してしまうじゃないか。デートデートと言ったって、ただ二人で出かけるだけだというのはずっと私たちの決めごとのようなものだった。
困って振り向くと、もう片方の手で顔面を覆った悟浄の耳が真っ赤になっていた。

「……え?」
「だからデートしろよ、俺と」
「わ、わかった……」
「ちゃんとしろよ、服とか、髪とか。化粧も」
「はい」
「……俺もするから」
「はい……」

悟浄の言葉に素直に頷く事しかできず、ただ呆然と見つめながら返事をした。
いろいろ思う所はあるけれど、たくさん浮かんですぐに消えてしまう。要は頭真っ白というやつだ。
……とりあえず、服、あったっけ?

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