「だからって、なんで僕」
場所を移していつものバーで、俺の隣には神楽がいた。
盛大なため息をつきながらとても嫌そうな顔をしているけれど、呼び出しにはしっかり応じてくれるあたり憎めない。
「神楽が良かったんだもん」
「気持ち悪い」
ぷいっとそっぽを向いた神楽に一方的に言葉を続けて事情を説明する。一応、一度寝たことは伏せてできるだけシンプルに話そう。
「ホテルに誘った」と言った瞬間、化け物でも見るかのような顔をした神楽がこっちを見て、それがすぐに怒りに変わったのがわかった。そして「断られた」と告げると少しホッとしたように息をつく。
「あのさあ、ナマエは僕の友達だってこと忘れないでくれる」
「……わかってるよ」
驚いた、まさか神楽の口からナマエちゃんを“友達”だとハッキリ宣言されるとは。てっきり腐れ縁だとかなんだとか、そんなふうにはぐらかすかと思っていた。それだけ大切な存在になっていたのか。そういえばさっきしたナマエちゃんとの会話にも神楽の名前がよく出てきた。
神楽が友達と言うからには間違いなく“友達”であって、男女の感情は無いのだろう。あったとしても、それを認めない関係でありたいのか。どちらにせよ二人は互いに思い合う何かがあることはわかった。
「ナマエちゃんと最後に連絡取ったのっていつ?」
「昨日」
「ナマエちゃんから?」
「そう。羽鳥と食事行くって言ってた」
神楽の言葉にはなんの感情もこもっていなかった。ただ淡々と事実を告げられて、複雑な感情が胸に広がっていく。
ナマエちゃんはどういう気持ちでそんなメッセージ送ったのか。
変な空気に持ち込んだ俺をどう思ったか。
俺には業務連絡以外ほとんどメッセージなんか送ってくれないのに、やっぱり神楽には自分から連絡したりするんだとか。
俺が知る限り、神楽とナマエちゃんは二人きりで出かけたことはそう多くない。今でも多分そうだ。個人的に連絡を取ることもあるしグループで会う機会はそこそこ多いけど、二人きりで出かけたという話しはあまり聞かない。
それなら俺とナマエちゃんだって同じ関係のはずなのに、どうしてこうも差があるのか。
「あーあ、なんで神楽は好かれてるのに俺は駄目なんだろ……」
ため息と一緒につい本音がこぼれた。最近の俺は本当に駄目だな、口も頭もユルユルで不甲斐ない。
今までの俺の人生に、こうもスマートにいかない事なんてあっただろうか。
思い浮かぶのはナマエちゃんの前に張られた壁のことばかりだった。
「……好きなの?」
「好きだよ?」
「そーいうチャラいのいらないから」
「わかんないよ、“好き”は“好き”でしょ」
「……うそつき」
わかってるくせに。
神楽が呟いた言葉は、聞かないことにした。