プラチナ 05

人を傷つけるとか、傷つけられるとか、よくわからなかった。私は私だし、他人は他人だし、他人の言葉ひとつでいちいち惑わされたりするなんて馬鹿らしいと思っていた。嫌なやつは遠ざければ良いし、理解できないやつとは話さなければ良いと思っていた。
昨日、明日来る、と言って帰っていった金髪野郎は、今日来なかった。
ドフラミンゴさんの事は何も知らないけれど、昨日のドフラミンゴさんは、少なくとも私が知っているいつものドフラミンゴさんと様子が違っていたような気がした。
最後に、少し悲しそうな顔をして笑っていたし、変な質問もされた。

親しくなりたいと思った事もないし、商売の邪魔ばかりされて本当に嫌だったし、勝手に手配書を貼っていかれて広場のイメージも下がったし、本当に意味不明でわけのわからない存在だと思っていた。
私は、ただただ不気味な存在であったドフラミンゴさんを遠ざけたかった。
付かず離れずの距離を保っているように見せかけて、へらへら笑いながら追い詰められていくようで、ある意味恐怖を抱いていたのかも知れない。
いつも緊張していた。できるだけ目を合わせたくなかった。拒絶したかった。
考えてみれば、簡単に拒絶できたのだと思う。いつもふたつ買って、ひとつ渡してくれるチュロスを受け取らなければ良いだけの話なのだから。
それを受け取って、紅茶を出し、隣に座ったのは私なのだ。恐れながらも、きっと私は彼に何かを期待していた。

サングラスの向こう側が見てみたい。
骨ばった手の筋が美しい。
おしゃれな靴を履いている。
そんな風に思ったことも、本当はあった。だけど過去を切り捨てた私は、あの店以外に新しい事を始める事ができなかった。特に対人関係は無理だった。
あらゆる事を強制されてきた、過去の私が蘇る恐怖に勝てなかった。だから拒絶した。
私はドフラミンゴさんの事を嫌いだと言った。気持ち悪いとも言った。嫌いなのは本当だった。ウソじゃない。気持ち悪いのは少し冗談だけど。よくわからないけど、軽率に「言っても大丈夫だ」と思った。

だけど今日、ドフラミンゴさんは来なかった。
私は昨日、ドフラミンゴさんを傷つけたのかも知れない。
もう来ないかも知れない。
初めて経験する不安と恐怖と罪悪と後悔の混じったよくわからない嫌な感情に支配された。暗いシャワー室で、お湯を浴びながら少しだけ泣いた。

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