DEAR.三蔵 04|思惟

三蔵が、私のことを好きだと言った。たとえその場の流れや私を元気付けるためのデタラメだったとしても、その言葉はなんだか私に勇気を与えてくれた。ような気がする。

「悟浄、見て」
「おっ、馬子にも衣装ってか?」
「もうちょっとマシな感想なかったの?」

村を歩いていて見つけたワンピースはちょっと清楚な感じで、エキゾチックな雰囲気がある。白地に絹糸と金糸の刺繍なんて、かわいすぎて一瞬で一目惚れして八戒におねだりして買ってもらったのだ。
八戒と悟空は「似合う」と言ってくれたけど、三蔵はちょっと不機嫌に「俺に聞くな」と言った。

「かわいいかわいい」
「2回言うと嘘っぽい」
「かわいい、かわいい、かわいい、かわいい、かわいい、かわいい、かわいい、かわいい、かわいい、かわいい」
「10回ゲームじゃないから」
「本心だって、似合ってる」

茶化すくせに最後はちゃんと褒めてくれる所が好き。

「なあここ上で結べば? こっちの方がかわいいぜ?」

私の気持ちなんか無視していきなり肌や髪に触れてくる所が好き。
醜い手術の痕も全然気にしないでいてくれる所が好き。

「そ、うかな」
「普段髪おろしてる女のうなじは最強ってな~」

本当の本当は私の事、ちゃんと女として見てくれてる所が好き。

「それ誰に対しての攻撃力?」
「しまった、敵がいねーや」
「じゃあ結ぶ意味ないじゃん」
「俺とお揃いになるぜ」

部屋で一番大きな鏡の前で、悟浄は私の髪を一括りに束ねて持っている。後頭部に触れる骨ばった手の感触のせいで、私の心拍数は上がりっぱなしだ。
私より頭一つ分背の高い悟浄は、後ろに立っていても顔がよく見える。大好きな笑顔。

「ほら、いいんじゃん?」
「じゃあこれにする」

悟浄は手首にしていた自分のヘアゴムで私の髪を括ると、スタイリストみたいに襟足や結び目を整えて頭を撫でた。好きな人にこんなことされて、好きと思わずにいられるわけがない。
だけどそれと同時に、やっぱり悟浄は私の事なんて眼中に無いのだと思い知って打ちのめされる。

「お揃い」

私の髪を結び終えた悟浄は自分の髪も同じようにポニーテールにすると、私の隣に並んで笑った。とても恋人には見えないくらい馴染んでしまった。こうやって並んでいても、きっと家族にしか見えないだろう。
……まあ、大体そうなんだけど。

「なんか顔似てきた気がしない?」
「そーかあ? 俺は美人系だけど、お前はかわいい系って感じじゃねーか?」
「私かわいい?」
「どっちかって言うとって話だから」

ふざけるくらいならかわいいとか言わなきゃいいのに。そんなことばっかり言うからこんなに好きになっちったのに。
悟浄はなんもわかってない。
でも、なんにもわかってない悟浄だから、好き。

「そろそろ食事に行きますよ」
「おー、今行く」
「あ、なんですか二人とも、僕だけ仲間外れにして」

私たちを呼びに来た八戒が悟浄との間に入って並び、鏡を覗き込む。紅い頭ふたつの真ん中に深い茶色の頭が割り込んで、にこりと微笑んだ。
やっぱり私は。
悟浄とセックスするよりもずっとずっと、この3人の時間の方が大切だ。

「さ、行きますよ」
「へいへい」
「八戒もポニーテールにすれば?」
「やですよ、鬱陶しい」
「さては俺の事ディスってんな?」

小突き合うふたりの後ろをついていく。
もう少ししたら、私は前に進めるかも知れない。

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