クロコダイル| 前夜

「んっ、ふ……」

その日、珍しく荒々しいキスだった。噛み付いて離そうとしない唇が愛しくて、その違和感が切なくて、私も彼の唇に噛み付いた。
髪を梳いてベッドに縫い付けるいつもの仕草も、どこか焦燥感に駆られていた。彼が脱ぎ捨てた衣類と剥ぎ取られた私の衣類が層を作る。

「ど、したの」
「なんでもない」

ちくっとした痛みが首と胸に走り、赤い痕が残された事がわかった。いつもはこんな風に痕を残したりなんかしない。撫で回して愛でるのが好きだったじゃない。
突然どうしてこんな行為になるのかわけがわからず、彼の頭を抱いた。
もちろんそんな事あるはずないとわかってはいるけれど、なんとなく彼が泣いているような気がして私も泣きそうになる。
壊そうとしているのかな。強く乳首を噛まれて、鳴いてしまう。もしかしたら耐え切れずに涙もこぼれたかも知れない。

「クロコ、ダイル」
「なんだ」

ぐっと両足を押し広げられ、そこに彼の両足が入る。筋肉が浮き出たたくましい足。下降してゆく唇が太ももにかぶりついた。そのまま引きちぎられそうなくらい噛み付かれ、さっきよりも大きな声が出てしまう。
痛いよ。
なのに何故か、私の下半身は反応していた。喘げば喘ぐほど鼓動に合わせて濡れていくのがわかった。
触れられてもいないくせに空気に触れて冷たくなった愛液がお尻の溝を伝う。

「ああ、」

もったいない、とでも言いたげに、伝った先からべろりと舐め上げられ、彼の舌はそのまま膣の入り口を這いまわった。
性器をかたどるように唇で挟まれて吸われていくほどに、熱くなる。じんじん疼くような快感に体が震えた。

「あっ、あ、クロコダイル」
「ナマエ、ナマエ」

触れない場所などないように、硬い指先が沿った。つま先から太ももを通って、上半身も全部に触れるように撫ぜて、その指先は時々肉を揉んだ。
かさかさした肌触りの指先を感じるたび、よくわからない涙があふれた。
涙と一緒に、淫らな汁も漏れた。

「あ、やぁ」
「おれが嫌か?」
「ちがっ、好きよ、好き、クロコダイル」
「好きか」
「好きっ、好き」

ずぷっと私の中に埋められた指が折り曲がり、上のいい所をごりごりと刺激する。
クロコダイルは悲しそうな顔で、だけど興奮したようにはあはあと息を荒くしながら私にキスをした。お互いに唇を求め合うと、部屋に響く水音がキスなのか私のいやらしいそれなのかなんてどうでもいい。
最初からどうでもよかったけれど、この水音で興奮していたのは確かな事実だった。

「あっ、ああ、だめ、クロ、コ…… だめっ」
「駄目じゃない」
「だめ、だめっ、いっちゃうっ! 出ちゃっ……!」
「ナマエ、おれを見ながらいけ」

額と額をくっつけて、至近距離で見つめ合った。
近すぎるせいか、それとも涙のせいか、よくわからなかったけれど、霞んで見えたクロコダイルの顔が少しだけ嬉しそうだったから、私も嬉しかった。
抽挿が激しさを増したかと思うと、自由な親指はクリトリスを捕らえ、中の激しさとは相反して極めて優しくくすぐった。
自分でも熱く硬くなっていくのがわかり、嬌声が止まらない。

「あっ、あっあっあああ」

ぐちゅっ!
ぢゅっぴゅうっ!
さっきまでとは比べ物にならないような大きな水音は、私が潮を撒き散らした事を知らせる。快感と、羞恥と、愛しさと、切なさと、全部が交じり合って頬が紅潮した。

「くたばるのはもう少し後だな」
「っあ、クロコダイル!」

私の呼吸が整う間もなく、クロコダイルのものが侵入して迷わず最奥を突いた。
腰を掴まれてガンガンと無遠慮に突かれ、獣のような喘ぎ声を上げてしまう。
聞きたくない。
聞いて欲しくない。
けど、よだれを垂らす口は閉じないし、眉間に寄ったシワも伸ばせない。私は声にならない声で喘ぎ続けた。

「っぐ、う、ああ゙っ、あ゙あ゙あ゙っ」
「ナマエ、ナマエ……」

首筋に噛み付いたクロコダイルの歯が食い込んだ。血でも出ているのではないかと思うほどの痛みは、何故か一緒に快感を呼んだ。
クロコダイルが私の肉を噛みちぎるようにぎりぎりと歯と歯を噛み合わせるたび、喉の奥から渇いた喘ぎが止まらない。
このまま噛みちぎられたら、死ぬのだろうか。

「ク、コ、ダイル」
「ナマエっ、はっ、はあっ」
「噛んで、噛んでっ」

クロコダイルは、逃げる私の肉を何度も噛み直した。
噛んでいるせいで口が塞がれて、苦しそうな呼吸を繰り返すクロコダイルの姿がとても淫靡で、とても愛しくて、クロコダイルの背に腕を回して抱きしめた。
クロコダイルと目が合うと、また激しいキスが始まる。そろそろと私の首に伸びたその手のひらが、ぐっと首を締めた。
喘ぐどころか呼吸もままならないけれど、それでよかった。

「……コ、ダ、……ル、ッ」
「ナマエ、」

愛してる。
耳元でそう聞こえるのと同時に、私の中でびくびくと打ち震えたクロコダイルのものがはじけた。

「死ねなかった」
「悪い」
「ううん、大丈夫」
「殺してやりたかった」
「……また明日があるから」
「明日、お前はここから出て行け」
「……」
「誰に何を聞かれても、今までのおれとはなんの関係もないと言え」
「……嫌よ」
「命令だ」
「嫌よ、殺せなかったのは、だれ」
「……」

チッ、と短い舌打ちのあと、クロコダイルは私を抱きしめて頭を撫ぜた。

「どちらにせよ、しばらく、お別れだ」

聞きたくない言葉が耳を突いたのに、気が付かないふりをして、私は瞼を伏せた。
明日の朝、彼がそこにいない事はわかっていたけれど。

 

→後日談

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