SLY:07

「もう会ってくれないと思った」
「友達なのに?」

もう19時前だというのにまだ辺りは明るくて、テラス席には気持ちの良い風が吹いた。一応夜だから、と思って俺とナマエちゃんの間にはフルーツやハーブが飾られたカフェらしいSNS映えしそうなカクテルがふたつ並んでいる。
抵抗なくアルコールを口にするナマエちゃんを見て、どこか安心している俺がいた。

「友達か」
「そうでしょ」
「そうだね」

相変わらずのさっぱりとした笑顔は、俺がそれ以上踏み込むのを拒んでいた。多分。
ここからどうすればその笑顔を崩せるのか。そんなことを考えていると俺まで無意識にナマエちゃんと同じような笑顔になってしまう。

「あのさ、俺はナマエちゃんのことが好きなんだけど、ナマエちゃんは俺のことどう思ってるの?」

考えていても仕方ないかと思い切って口をついた言葉は自分の言葉とは思えないほどストレートだった。普段なら絶対こんな言い方なんかしない。
それほど思い切ったものの、ナマエちゃんの反応はそれほど芳しいものではなく、呆れたようにため息をついてからまたあの笑顔を作り直す。
何を言われるか大体見当がついている俺も、唇を引き締めるように笑顔を作り直した。

「好きだよ?」
「え、好きなの?」
「友達のことは、普通、大体好きだと思うけど?」

そうきたか。ちょっと予想外だったけど、まあ要するに言わんとしていることは「俺の言葉なんか耳に入らない」という事だ。

「俺のことは男として見れないってこと?」
「見てるよ。でも亜貴くんも慶ちゃんも桧山くんも男だし、男だけど友達でしょ」
「友達とセックスするの?」
「友達とセックスしたでしょ?」

テラス席でする話でもないなと思う頃には、既に隣の席のグループ客がチラチラとこちらを見ていた。
ナマエちゃんはまったく気にするでもなく堂々と答え、カクテルを口に含む。
ずっとそのスタンスを貫くつもりだろうか。何を聞いてもオウム返しの姿勢を取られてしまっては、強引になりようもなければ丸め込みようもない。取り付く島もないとは正にこのことだろう。

「友達って何。俺友達いないからわかんない」

本当のことだ。
大人になって俺の人間関係を振り返ってみればそうそう“友達”などと呼べる存在はいなかった。Revelは友達というより戦友だとか仲間だとかそんなカテゴリだし、女の子は女の子だし、あとは取引先とか部下とか仕事関係。それに親戚。

「……あ」

ナマエちゃんが呆れたため息をつきかけた時、俺は目の前に座る彼女の存在に気づいた。
そういえば前も思ったんだった、俺とナマエちゃんの関係ってなんだろうって。
いきなり俺が声を上げたものだから、ナマエちゃんは不思議そうに俺を見ている。その表情はどこかあどけなくて、あの頃のナマエちゃんに似た雰囲気だった。

出会った瞬間に「かわいい」と思った。
近寄りがたいと言われていたRevelの雰囲気に物怖じもせず付き合ってくれて、神楽にも桧山にも怯まないでストレートに会話するナマエちゃんに素直に感心して、若さゆえの暴走も混じってか槙に一直線だった神楽の羽休めみたいな場所にいて、そんな姿を見て「この子は大事にしなきゃいけない」って、俺はわかっていた。
あの頃少しギスギスしていたRevelの緩衝材になっていたのは間違いなくナマエちゃんだった。この子はいい子だなって思って。それで。

「え!? ちょっと、えっ、なん」

好きだった。
気持ちを上手に言葉にまとめることができなくて言い訳していた。ただひとつ、俺が近づいたら傷つけることになるだろうってわかっていたから、必要以上に近づかないように線を引いた。それがあの頃の俺たちを円滑にするための最善だったと思った。
だけど線を引いてしまったらいつの間にかどんどん遠ざかっていって、いつしか手も届かなくなってしまった。
過去のことを思い出していると、慌てたナマエちゃんが店員を呼んで勝手に会計を済ませ、俺の腕を引いて立ち上がらせた。

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