プラチナ 07

何もできないままこの日が来てしまった。

おれはおれの好きな事をするけれど、ファミリーの事、与えられた使命の事、ナマエの事、それぞれ全部別の大事な事だ。ひとつに考える事なんてできやしない。
今日は与えられた使命にとって大切な日だ。ナマエの事とは関係ない。年単位の計画をすべて変える事なんてできないし、したくない。
ましてや「ナマエのため」なんて人のせいにするのは許せない。もし変えるのならば自分のせいだ。
この日を迎えるまでに気持ちに整理をつけられなかった自分が悪い。スマートに運べなかった自分が悪い。ナマエに声をかけてしまった、自分が悪い。
ドレスローザの国民にかける情なんて、今のおれにとって一番必要のないものなのに。
結果的にナマエを傷つける事になったとしても、失うより手元に置きたかった。

「ナマエ」
「今日はなんですか」
「おれと一緒に来て」
「は?」
「この屋台のものは全部部下に運ばせるから」
「何言ってるんですか」

少しだけ訝しげな表情を浮かべておれを見た。腕を掴むと、怯えた顔をしていた。

「もうここには戻れない」
「ちょっ、やめてください、離して!」
「頼むから暴れないで」
「嫌! 離して! 誰か助け……」
「……ごめんね」

用意しておいた笑気でナマエを昏睡させて、横抱きにして抱えた。腕の中で瞼を閉じるナマエを見て、罪悪感を感じないわけがない。
ごめんねごめんねごめんね
何度も心の中で謝った。ナマエの耳には届かないけれど、ナマエには見えないけれど、心の中で泣いた。
それから間もなく、ファミリーがドレスローザを支配した。王宮はおれが乗っ取った。多少手荒な真似をして血が飛ぶこともあったが、計画どおりこの国のすべてを手に入れてナマエを抱いて玉座に腰を掛けた。
目が覚めたら、ナマエはなんて言うかな。泣いちゃうかな。嫌われちゃうかも。

「フフフフ」

おれの笑い声がこだますると、途端に少しだけ虚しくなって、ナマエを捨てたくなった。
なんで連れてきてしまったのだろう。あの時は確かに側に置いておきたかったのに、今はなんだかすごく辛い。
ナマエを初めて見たあの日と、同じくらい自分の事がよくわからない。

「ナマエ」

返事はない。まだ意識を失ったままのナマエは、変わらずおれの腕の中で瞼を閉じていた。幼さやあどけなさすら感じさせる無防備な姿のまま。
いつでもナマエを殺すことができた。首筋に手を添えると、どくどくと脈の鼓動を感じる。

「ナマエ、愛してる」

ナマエの気持ちも同意も何も伴わないキスは、どこのどいつかもわからない誰かの血の味がした。

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